すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

忘却・・・

2007-02-28 17:11:06 | じいとんばあ
   忘却

うちの婆さんら 葬式連れていんだって
誰の葬式かも 分からんのんじゃ

もう お爺さんのことも 息子さんの事も
忘れてしまったあなたに
悲しそうに 家族は言った

婆やんは しっかりしとるけん
知ったら ショックを受けるやろ
どうぞ しばらくは 知らせんといてください

家族の思いと裏腹に 噂はどこかから耳に入る
血を吐くような慟哭で
効かない身体を 畳に叩きつけて
あなたは 先だった息子さんを呼び続けた

忘却は 神が与えた優しさだと 誰かが言った
家族を忘れてしまうのは 悲しいこと 
でも 
家族に残されていくのを 自覚するのは
もっと悲しいこと

うっちゃ 子供どころか 孫にまで先立たれた
早う お迎えが来りゃあええのに

そう言って泣く あなたに
励ましの言葉を かけながら
早く あなたに忘却の時が訪れますように・・・と
私は罪な祈りをする

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もったいない(バックナンバー)

2007-02-26 00:41:14 | うちのキヨちゃん
 キヨちゃんの口癖は「もったいない」である。それは地球にも家庭にも優しい、良い言葉である。しかし物事には何でも「限度」というものがあるのだ。
 食事時、ゆっくり食べていたら、早飯食いのキヨちゃんに「残した」と勘違いされ
 「まあ、もったいない」
と口に放り込まれる。食事の途中で用事をいいつかり、戻ってみると同じような目に遭うこともある。
 キヨちゃんは何をプレゼントしても「もったいない」からタンスの肥やしにする。しかしそれには必ず犠牲が伴うのである。
 「もったいない」から自分の時計は仕舞って父の時計を使う。「もったいない」から私の捨てた穴あきソックスを片方ずつ履く。「もったいない」から賞味期限は年単位で目をつむる・・・などなど。
 ある日父が肩こりで「あんま」を頼んだ。「もったいない」からついでにキヨちゃんもあんましてもらった。
 帰り際あんまの先生が感心したように言った。
 「お母さん、すごいねえ。どんなに力入れても堪えない。効かんかったかもしれん。」
あまりに先生が不審がるので、私も心配になって聞いてみた。
 「大丈夫なん?痛くなかった?」
するとキヨちゃんはこう答えた。
 「痛かったよ。でも痛いと言うて、力抜かれたらもったいないけん、我慢しとったんよ。」
全く、呆れた「もったいない」である。にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
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そりゃないよ(バックナンバー)

2007-02-23 20:53:36 | じいとんばあ
    そりゃないよ

 オムツを替えたいだけなのに
 暴れて 叩いて 悲鳴をあげて
 揚げ句に言うに事欠いて
 私が無理矢理キスしようとしたなんて訴える
 そりゃないよ

 助けて!殺される!痛いよ痛いよ!
 そんな人聞きの悪い大声で
 その実 叩かれているのは 私の方なんだもの
 そりゃないよ

 聞いてない 食べてない 
 貰ってない してくれない
 ないないづくしのあなたの記憶
 忘れて欲しいことは憶えてる
 本当に そりゃないよ

 腰が痛いよ 足も痛いよ 
 肩もパンパンだよ 心だって辛いよ
 そんな私たちに
 「大変だねえ、無理しなさんな」って
 あなたが言うの
 そりゃ・・・ないよね

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お薬を飲むときは、お水から?お薬から?

2007-02-21 11:52:41 | ひとりごと
 私はお薬を飲むのが苦手である。実に下手くそなのだ。錠剤はもちろん、散剤など本当に苦手である。
 お薬を飲むとき、みなさんはお水(白湯)から口にいれますか?それともお薬を先に入れますか?

 私の場合、まず水(白湯)を口に含んでから、薬を投入。そして一気に天を仰いで飲み込むのである。そう話すと、友人に言われた。

 「あのな、ごはん食べるときに、上向く人おらんやろ?普通に前むいとっても喉にいくもんや。」

 なるほど、一理ある。そうは言っても私は出来ない。

 そう思ってみると、うちのホームのお年寄りは実に服薬が上手である。嚥下(えんげ・・・飲み込み)の状態の悪い人は別として、ほとんどの人が先にお薬・・・である。別段介護者の都合だとも思えない。そして上手に飲み込むのである。

 私が単に不器用なのだろうか?私は将来の自分の嚥下に自信がなくなってきた。私はゼリーでコートして飲ませてもらおうっと。

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花盗人(バックナンバー)

2007-02-19 11:24:35 | うちのキヨちゃん
 花盗人は罪にならない・・・。そんな風流を愛する人の言葉を聞いたことがある。本当に罪になるかならないかは別として、なかなか粋な言葉である。
 うちのキヨちゃんも、とても花を愛でる人である。私がアパートで何度も枯らしてしまった十センチほどの幸福の木を、二メートルの大木に二本も育てた人である。庭にはいつも四季折々の花があり、仏壇の花も欠かしたことがない。 昔、私が子供の頃の話である。近所に一軒の空き家があった。いや、実際には「ほぼ空き家」という状態だったと記憶している。子供だったので事の次第は分からないが、おそらく都会に住む子供の所に身を寄せたというような事情か何かであったろう。とにかく一年に一度姿を見るか見ないかの家だった。
 しかし、家人がいなくとも、庭の花はいつでも美しく咲き乱れていた。あまりにきれいなので、私はその中のスイセンを学校に持っていきたくて、一束失敬したのである。多少後ろめたくはあったのだが、先生にも友達にも喜ばれるし、「まあ、誰も見ないよりは花も喜ぶよ。」
などと勝手に言い訳していた。
 さてその日の帰り、何気なくその家の庭を覗いて、私は心底驚いた。私がわずかに盗んだスイセンがほとんど残っていなかったのである。
 謎が解けぬまま帰宅すると、そこには喜々としてスイセンを生けているキヨちゃんがいた。
 「あ、スイセン・・・。」
ぽつりとつぶやく私に、キヨちゃんはこう言った。
 「スイセン、貰うてきたんよ。きれいだろう?でもなあ、あんまり無かったわ。誰か盗る人おるんじゃな。」
・・・・・。それは、あなたと私である。にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
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同志(バックナンバー)

2007-02-17 00:42:59 | じいとんばあ
    同志

 「私 現場が好きだよ」
 そう言っていたあなたは
 40半ばの若さで この世を去った
 この仕事を天職と思って
 いつも楽しそうだったのに
 自分の病には勝てなかった

 お義母さんを看ながら
 病気のご主人を看ながら
 頑張り続けたあなたは
 ご主人を見送った後 病に倒れた
 そして35キロの体で
 今尚 病と闘っている

 子育て 自宅介護 家庭問題
 各々様々な事情を抱えながら
 不規則な介護職を続けていく
 口で言うほど簡単じゃないけど
 人が思うほど悪くない

 だけど
 次々と体を壊す同志たち
 重い軽いはあるけれど
  メンテナンスを怠っては 続けられない

 「現場が好きだよ」
 それでも そう言い残したあなた
 私もこの仕事が好きだけれど
 命に関わる病に倒れて尚
 そう言い切れるだろうか
 
 健康であろう
 絶対に健康であろう
 自分の家族を守るため
 自分の仕事を続けるため
 自分自身のため
 絶対に 健康であろうと思う


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不思議(バックナンバー)

2007-02-13 22:25:41 | じいとんばあ
    不思議

 体を90度に曲げて歩くあなた
 病院で「何かお探しですか」と
 一緒に床を探してくれた人がいたね
 だけど 話をするときは
 しゃんと伸びるから 不思議だね

 肩が痛いから
 胸より上へは 手が上がらないというあなた
 ラジオ体操なんて 出来ないけど
 神棚へのお供えは出来るんだから 不思議だね

 お誕生日だって 名前だって 住所だって
 みんな 答えられるのに
 本当の自分のことが分からないなんて 不思議だね

 計算が合わなくったって
 理屈に合わなくったって
 家族がみんな生きてるって信じてる
 不思議で・・・哀しいね

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身勝手なアフレコ

2007-02-10 19:42:09 | ひとりごと
 こたつにもそれぞれ座る席が決まっているでしょう?うちの場合も特等席が父の席、向かい合う席が母(キヨちゃん)、横が私である。
 父の席は、座布団だけでなく、中に眠れるように敷物もしてあって枕もあるので、父がいない時間は、ついついそこでうたた寝をしてしまう。
 さて、ある寒い日。いつもなら活発に動く母が、「お天気も悪いし寒いし、今日は昼寝しよ~」と決めたらしく、父の席でうたた寝をしていた。
 そこからこういう光景を思い浮かべて欲しい。

 母がこたつでうたた寝をしている。自分の小屋で寝ていた愛犬が、居間に入ってくる。こっそりの母を覗き、小首をかしげてから自分の小屋へ戻る。しばらくして、もう一回同じ事を繰り返す。そしてさらにもう一回。

 この出来事、もちろん犬は喋らないわけで、ここから家族の勝手なアフレコ大会となる。

 母はこう思った。
 「あれ、お母さんが寝てる。どうしたんだろう・・・」(首を傾げる犬)
一度小屋に戻ったものの気になる犬。もう一度戻ってくる。
 「どうしたのかなあ・・・。心配だなあ。」
そしてもう一回・・・。
ああ!なんてかわいい奴なんだ!!!となるわけである。

 父はこう思った。
 「あ、父ちゃんに甘えよ~っと。あれ、母ちゃんやん」(小首をかしげる)
一度小屋に戻ったものの気になる犬。もう一度戻ってくる。
 「父ちゃん、どうしていないのかなあ。心配だなあ。」
そしてもう一回・・・。
ああ!なんて愛しい奴なんだ!!!っとなるわけである。

 私はこう思った。
 「さて、だれもいないおこたで、寝てやろっと。あれ、母ちゃんおるやん」(小首を傾げる犬)
 「しゃあないなあ」
一度小屋にもどったものの気になる犬。もう一度戻ってくる。
 「父ちゃんなら添い寝しても怒らないけど、母ちゃん怒るわなあ・・・」
そしてもう一回。
 「まだおるんじゃ。しゃあない、あきらめるか」
くっくっく!なんておもしろい奴!!!!

 飼い主の勝手なアフレコ大会である。事実は分からない。だから良いのだ。本音をばんばん喋られたら、愛犬だって文句は山ほどあるのだろうから・・・。
 
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ウオームビズ(バックナンバー)

2007-02-08 22:06:14 | うちのキヨちゃん
 田舎の年寄りはおしなべてハードなウオームビズである。中にはパンツを五枚も履いている強者もいて、一枚減したら風邪をひいたなどと言う。
 うちのキヨちゃんもかなりのウオームビズである。それはもう「タケノコ」である。
 しかし、これを一枚ずつ脱ぐのは大変である。だからキヨちゃんは一度に脱ぐ技を持っている。風呂の脱衣場に行くと、まるで蝉の抜け殻のように、キヨちゃんの形を思わせる塊がある。そのまま足を突っ込んで引き上げれば着衣完了となる形である。
 ある日、珍しくキヨちゃんが風邪をひいた。風邪くらい放って置いても大丈夫とタカをくくっていたが、なかなか治らず、ついに私が病院に連れていった。
 田舎の年寄りにとって通院はイベントであり、ちゃんと着替えるのであるが、このときは私がしぶるキヨちゃんを無理矢理連れていったものだから、その間がなかったのだ。
 いざ診察室に入ると、究極のウオームビズが仇となった。さすがにドクターの前で一気脱ぎの技は使えず、一枚一枚脱いでいく。
 「はあぁ・・・。すごいですねえ。」
ドクターは感心するやら笑うやらである。
 いつでも地球に優しいキヨちゃんである。



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10年後のあなたは・・・

2007-02-07 00:25:18 | ひとりごと
 昔芝居をしていた頃、代表が劇団の会報を作っていた。団員が作品について書いたり、役作りのための分析を書いたりが主体なのだけど、オフのシーズンは、お題にそってみんなが投稿していた。
 先日、本棚から取り出した本にくっついて、一冊の会報が出てきた。私は21歳だった。お題は「10年後あなたは?」
 私は結婚して子供がいるかな?友だちの結婚式はしごして「次はね」と言われてるか?と想像していた(残念ながら後者が的中)。
 若い頃10年後なんて「はるか未来」だと信じていた。今の私の年齢は「おばはん」だと迷わず思っていた。時は残酷だなあ・・・。自分自身はまったく成長していないのに、確実に年はとっている。
 手塚治虫の「火の鳥」で、卑弥呼が自分の老いを恐れて、あわてふためく、そんなシーンがある。台詞が好きで何度も読んだけど、全く実感がなかった。しわ1本にあせる気持、老いる事への恐怖。今彼女の気持ちが分かる・・・とまでは言わないが、忍び寄る加齢にはやはり敏感になる。
 今「あなたの10年後は?」と問われたら?みなさんはどう答えますか?ひとつ分かったことがある。若い頃の10年後はわくわく想像していたが、今は違うということ。漠然とした不安がある。
 ポジティブに生きたい。常にそう思っているのだけれど、なんだろうなあ、この説明しがたい気分。
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