むかしむかしある村に、治という若者が住んでおった。治は人の紹介で美しく気だての良い嫁を貰った。名を笛といった。
笛は大変な働き者で、優しく明るく、治はいい嫁を貰ったといつも自慢じゃった。病気がちで少々気難しい姑ともうまくやり、口答えもせず、毎日笑って暮らしておった。治との夫婦仲も良く、近所でも有名なおしどり夫婦じゃった。
そんなある日、治は笛の額にちいさなこぶを見つけた。
「笛?それどしたんぞ?」
ところが笛も治に言われて初めて気づいたようじゃった。
「まあ、ほんまじゃ。どしたんだろ。いつぶつけたんじゃろ。」
「案外そそっかしいな。気つけえよ。」
そう言うて治が笑うと、笛も楽しそうに笑った。
しかし、それから何日かが過ぎても、そのこぶは治るどころか、少しずつ大きくなっていた。治は不思議に思い、笛に聞いたが、やはり覚えがないというのじゃった。
そんなある日、明け方近くに治は喉が乾いて目が覚めた。となりには笛の姿はなかった。もう朝の支度を始めておったのじゃ。
治は水を飲もうと台所に向かった。そこでは美味しそうなみそ汁の湯気がたち、笛がぼんやりと立っておった。
とつとつとつ・・・。
その時、治はその小さな音を聞いたのじゃ。
とつとつとつ・・・。
何の音かとこっそり覗いた治は、ぎょっとした。そこには静かにしかし確かに、柱に額を打ち付けている笛の姿があった。小さなこぶは真っ赤になり、やがて薄く皮膚が剥がれて、血がにじみ始めた。
「笛!何しよる!」
慌てて、声を掛けた治に笛は心底驚いたようじゃった。そうなのじゃ、笛自身自分のしておることに、気づいておらなんだのじゃ。
優しく真面目な笛は、頑張って頑張って、不満を言わず、小さな小さな澱を心に溜めておったのじゃ。
「すまんかったな。笛。お前も辛いことがあったんじゃな。これからは我慢せんと言うてくれよ。」
治の優しい言葉に、笛の心も和んでいった。
その後、二度とこぶができることはなかったそうじゃ。
以上、ちょっとホラーチックな話です。真面目な人が陥りそうな話です。あまりにリアルだったので、かなり脚色しました。
笛は大変な働き者で、優しく明るく、治はいい嫁を貰ったといつも自慢じゃった。病気がちで少々気難しい姑ともうまくやり、口答えもせず、毎日笑って暮らしておった。治との夫婦仲も良く、近所でも有名なおしどり夫婦じゃった。
そんなある日、治は笛の額にちいさなこぶを見つけた。
「笛?それどしたんぞ?」
ところが笛も治に言われて初めて気づいたようじゃった。
「まあ、ほんまじゃ。どしたんだろ。いつぶつけたんじゃろ。」
「案外そそっかしいな。気つけえよ。」
そう言うて治が笑うと、笛も楽しそうに笑った。
しかし、それから何日かが過ぎても、そのこぶは治るどころか、少しずつ大きくなっていた。治は不思議に思い、笛に聞いたが、やはり覚えがないというのじゃった。
そんなある日、明け方近くに治は喉が乾いて目が覚めた。となりには笛の姿はなかった。もう朝の支度を始めておったのじゃ。
治は水を飲もうと台所に向かった。そこでは美味しそうなみそ汁の湯気がたち、笛がぼんやりと立っておった。
とつとつとつ・・・。
その時、治はその小さな音を聞いたのじゃ。
とつとつとつ・・・。
何の音かとこっそり覗いた治は、ぎょっとした。そこには静かにしかし確かに、柱に額を打ち付けている笛の姿があった。小さなこぶは真っ赤になり、やがて薄く皮膚が剥がれて、血がにじみ始めた。
「笛!何しよる!」
慌てて、声を掛けた治に笛は心底驚いたようじゃった。そうなのじゃ、笛自身自分のしておることに、気づいておらなんだのじゃ。
優しく真面目な笛は、頑張って頑張って、不満を言わず、小さな小さな澱を心に溜めておったのじゃ。
「すまんかったな。笛。お前も辛いことがあったんじゃな。これからは我慢せんと言うてくれよ。」
治の優しい言葉に、笛の心も和んでいった。
その後、二度とこぶができることはなかったそうじゃ。
以上、ちょっとホラーチックな話です。真面目な人が陥りそうな話です。あまりにリアルだったので、かなり脚色しました。