すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

こぶ・・・

2006-11-29 14:08:26 | むかしむかし
むかしむかしある村に、治という若者が住んでおった。治は人の紹介で美しく気だての良い嫁を貰った。名を笛といった。
 笛は大変な働き者で、優しく明るく、治はいい嫁を貰ったといつも自慢じゃった。病気がちで少々気難しい姑ともうまくやり、口答えもせず、毎日笑って暮らしておった。治との夫婦仲も良く、近所でも有名なおしどり夫婦じゃった。
 そんなある日、治は笛の額にちいさなこぶを見つけた。
 「笛?それどしたんぞ?」
ところが笛も治に言われて初めて気づいたようじゃった。
 「まあ、ほんまじゃ。どしたんだろ。いつぶつけたんじゃろ。」
 「案外そそっかしいな。気つけえよ。」
そう言うて治が笑うと、笛も楽しそうに笑った。
 しかし、それから何日かが過ぎても、そのこぶは治るどころか、少しずつ大きくなっていた。治は不思議に思い、笛に聞いたが、やはり覚えがないというのじゃった。
 そんなある日、明け方近くに治は喉が乾いて目が覚めた。となりには笛の姿はなかった。もう朝の支度を始めておったのじゃ。
 治は水を飲もうと台所に向かった。そこでは美味しそうなみそ汁の湯気がたち、笛がぼんやりと立っておった。
 とつとつとつ・・・。
 その時、治はその小さな音を聞いたのじゃ。
とつとつとつ・・・。
 何の音かとこっそり覗いた治は、ぎょっとした。そこには静かにしかし確かに、柱に額を打ち付けている笛の姿があった。小さなこぶは真っ赤になり、やがて薄く皮膚が剥がれて、血がにじみ始めた。
 「笛!何しよる!」
慌てて、声を掛けた治に笛は心底驚いたようじゃった。そうなのじゃ、笛自身自分のしておることに、気づいておらなんだのじゃ。
 優しく真面目な笛は、頑張って頑張って、不満を言わず、小さな小さな澱を心に溜めておったのじゃ。
 「すまんかったな。笛。お前も辛いことがあったんじゃな。これからは我慢せんと言うてくれよ。」
 治の優しい言葉に、笛の心も和んでいった。
 その後、二度とこぶができることはなかったそうじゃ。

以上、ちょっとホラーチックな話です。真面目な人が陥りそうな話です。あまりにリアルだったので、かなり脚色しました。
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10日ぶり

2006-11-27 14:23:26 | ひとりごと
 父が退院して、何となく穏やかに過ごしていたのですが、ここ10日あまり、寒さも堪えたのか寝室にこもりっきりで、過ごしていました。
 食事も一人じゃわびしかろうと、家族揃って父の寝室で。そんなことが10日も続きました。
 今日10日ぶりに父が離床。久しぶりの父の姿に、我が家の犬はおおはしゃぎ。・・・というより、久しぶりに犬や猫に会えた父のはしゃぎよう!!!

お粥もなかなかすすまなかったのに、少しだけど、牛丼を食べられました。うん、少しずつ頑張ろうね。
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2006-11-25 00:34:14 | じいとんばあ
      刃

   叩かれたって 蹴られたって
   ウンチ付けられたって
   笑っていられる
   そんな神経じゃなきゃ 続かない
   楽しめる人じゃなきゃ 続かない

   どんなに頑張っても
   本当の家族には かなわないけど
   ここにいる間は 私たちが家族だから

   そう思っていても 辛いときもあるの
   心が重い日も イライラしている日も
   ふと 情けなくなる時も

   そんな時 思いがけず
   きつい言葉が 口をつく
   投げつけられた 刃を
   そのまま 投げ返してしまう

   ふっと あなたが正気の顔になる
   驚いたような 見下すような
   憐れむような 責めるような
   いたたまれない視線をくれる

 
   修行が足りないね
   誰よりも 自分自身が責めている

   あなたは すぐに忘れて
   私を受け入れてくれるけど
   心に抱えた鉛は
   すぐには 消えない










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崖っぷち犬に思う

2006-11-23 20:20:51 | ひとりごと
 先日久々に徳島の話題が全国で流れた。ご存じ「崖っぷち犬」である。幸い救助され、里親も見つかりそうだという。
 しかし、思うのである。徳島は恥ずかしながら「殺処分ワースト1」の県ではなかったか?お前は運が良かったなあ・・・。上で鳴いてる仲間はきっと捕まれば容赦なく保健所行き。お前は全国の人が見守っていたから、そうするわけにもいかない。65万円だかのお金も使ったしね。
 何十件も「里親希望」の電話があったというが、半分冷やかしとしても、残りのその優しい皆さん、どうか、この子を飼えなかったら、他の犬を貰ってください!と言いたい。死の恐怖に怯える犬はたくさんいるのだから。
 そして、「崖っぷち犬」をかわいそうと思うのなら、どうか「野良犬」を増やさないで欲しい。節度と責任ある飼い方をして欲しい。
 私の友人は何度も子犬や子猫を拾っては「里親」を探してきた。心の傷が深すぎて、里親に出せない子もいた。その子は結局彼女が飼っているが、動物好きな私でさえ寄せ付けない。それほど、悲しい過去があったのだ。
 うちの子供たちも(犬、猫)捨て子である。でも、一軒で救える動物の数は知れている。だから、捨てないで欲しい。増やさないで欲しい。殺さないで欲しい。
 捨てるとき、保健所で殺される姿を考えて欲しい。家族揃って自分のする残酷な顛末を観て欲しい。
 早く日本一動物に優しい県として認識される、徳島になりたい。
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物の名前(バックナンバー)

2006-11-22 09:58:21 | うちのキヨちゃん
 キヨちゃんは大変料理上手である。コロッケやきんぴらはいくらでも食べられるほど美味しいし、外で食べたりテレビで見て気になったものは、作ってみようとするチャレンジャーでもある。
 しかし、料理本体と名前とには大きな間違いが存在する。
 例えばキヨちゃんが「シチュー」と呼んでいるものは、どう考えても「八宝菜」である。
 また食材にしてもアボカドは「アベコベ」としか言えない。何度か教えてみたが言えないので、我が家では「アベコベ」で通している。
 また他の物でも間違いはある。例えば「カビキラー」という洗剤は「カブキラー」と思っている。なんか子供向けの戦隊物の悪役で、隈取りした怪物のようである。
 言葉を重複して使うこともしばしばある。
 「あの議員さんは強いんよ。何たって《後ろバック》がついとる。」
なんて言うのだ。バックでいいではないか、バックで。
 だいたいキヨちゃんは名前を適当に覚えている上に、思い込んでいるのだ。
 「ダイジェスト」はキヨちゃんの中の「ダイエット」である。「ブーツ」のことは「ブー靴」と思っている。わずか一文字でなんともダサイ靴となり果てるものだ。
 「まあ、〇〇ちゃん。長いこと見ん内にきれいになって。ダイジェストしたん?ブー靴よう似合うわ。」
・・・・。ちっとも誉められた気がしないではないか。


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オセロー

2006-11-20 22:43:09 | ひとりごと
 今日は年に数回のお楽しみ、観劇日だった。学生時代はお金を貯めて、大阪へ観に行ったりもしたけれど、仕事をするようになると、時間がなかなかないものだ。田舎にいると、機会も少ない。人気の作品はチケットが押さえられない。だから、これ!と決めた物ばかりを観るというわけにもいかない。それでも、ランダムに観るというのも、先入観無く、新鮮でよい。
 学生の頃、本当に少ないお金を貯めて、一枚のチケットを購入。座席表を見ながら、どの席にしようか思案し、当日まで何度も何度もチケットをながめ、わくわくして待ったものだ。そして、見終わってもいつまでもどきどきしていた・・・。
 仕事をはじめて多少お金に余裕ができると、ありがたみが薄れていけない。あの頃のように、もっと楽しめたらいいのにと思う。

 今日はちなみにシェークスピアである。時代がそうだったのか、彼自身がそうだったのか、シェークスピアの作品の男は実に嫉妬深い。愛するが故・・・の悲劇。
 しかし、あれほど相手を愛し「天使だ女神だ」と崇拝していたら、誰かが罠を仕掛けるまでもなく、いつかは破綻するのではなかろうか?と思うのは私だけだろうか??
 
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入浴剤(バックナンバー)

2006-11-18 00:24:24 | うちのキヨちゃん
 私は仕事柄、不規則な生活をしており、家族と一緒に食事をしたり入浴を続けてする日はほとんどない。日によっては近くの温泉に寄ることもあり、また一人家で風呂を沸かす事もある。
 ある日「今日は風呂を沸かしておくから」とキヨちゃんが言っていたので、まっすぐ帰宅した。時間的に両親とも寝ているはずなので、私はそっと入浴した。
 ところがその日の風呂の湯は、なんだか紅茶のような色なのだ。いつもバス〇〇とか〇〇の湯なんてメーカーの入浴剤なのだから、乳白色であったりブルーであったりグリーンであったりするのだが、この色は初めてだった。入ってみるとほのかに木の香りのような・・・。
 そこへ物音を聞きつけたキヨちゃんが風呂場に登場し、今日の出来事を話し始めた。
 「今日な、温泉水の店から温泉の素を送ってきたんよ。」
 「頼んどったん?」
 「いや、頼んどらん。」
頼みもしない物が送られてくるだろうか?そもそもこの店からは父の服薬用に飲み水をとっているのだが、それなら何かのサービスとか感謝セールだろうか。
 「サービスなん?」
 「いや、請求書入ってる。」
それは大変、何かの間違いかも・・・と考えているとキヨちゃんはこう続けた。
 「この前電話があってな、温泉の素いりませんかって言うんよ。それがな、父ちゃんが言うには 『お前、はい、お願いしますって言いよったぞ』って言うんよなあ。」
・・・・それは注文したということではなかろうか?
 しかしまあ、事の次第は分かった。さてはこれはその入浴剤か。
 「これ、さっそく入れたん?」
そう聞くとキヨちゃんはすまして答える。
 「ううん。これはお前が買うとったやつ。」
はて、さっぱり覚えがない。そしてにこやかに彼女が捧げた物を見て、私は飛び上がった。それはわたしのヘナのヘアカラーだったのだ。
 翌日、この話に大笑いした会社の同僚に、こんな事を言われた。
 「家族みんなアンダー(ヘア)茶髪になってない?」
・・・・・無言。

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お犬さまの憂鬱

2006-11-15 22:25:35 | ひとりごと
 本日無事に父が退院しました。

 何よりペットの犬と猫に会うことを楽しみにしていた父。でも少し不安・・・。何故なら、以前入院していたときは、少し拗ねた状態になって、しばらく近づかなかったから・・・。

 しかし、今回はたかが一週間。いない間、父の洗濯物を干していると、くんくん臭いを嗅いでいましたし、大丈夫!!と思っていたのです。

 なのに、なのに、うちのお犬さまは、何故か怯えて寄ってこなかったのです。

 それは、父の鼻にチューブが入っていたから!

「に、匂いはお父さんだ・・・。でも、な、なんだこの顔は・・・。こ、恐いよぉ。ほ、本当に甘えていいの???」って感じでしょうか・・・。

 弱々しく何度も名前を呼ぶ父が、気の毒でした。

 でも、夕飯までには何とかなじみ、首をかしげてはチラ見。少しずつ近づいてきました。猫の方は何でもなじむの早く、帰るなり膝に甘えてましたが。う~ん、世渡り上手なやつ。
 チューブにつながった父も父だよ~!早く甘えてね。君たちが父の生き甲斐だからさあ。
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自由(バックナンバー)

2006-11-13 21:59:37 | じいとんばあ
       自由

   手も 足も カチカチで
   着替えることさえ ままならなかった
   少しでも動かせば 「痛い痛い」と泣き声で
   触れるだけで 皮膚は今にも破けそうだった

   八十も過ぎてから あなたはあんなに頑張った
   スプーンが持てた ご飯が自分で食べられた
   笑顔が増えた 歌をいっぱい歌ってくれた

   盆や正月に たくさん家族が来てくれると
   「いっぺんに来るなやあ、
   ひとりずつ 毎日来いやあ」と
   笑えるような 泣けるような冗談を言った

   頑張って 頑張って
   とうとうあなたは 
   ひとりで車椅子を動かせるようになった

   自由を手に入れた あなたに
   私たちは 心底感動し
   そして ほんの少し油断をした

   ある日 「じいちゃん」が迎えに来た
   私たちには見えない「じいちゃん」を追いかけて
   あなたは 外へと飛び出した・・・
 
   ごめんね
   痛いことが 何より嫌いだったのに
   「痛いよ、痛いよ」
   耳について 離れない

   あなたは あんなに頑張ったんだもの
   あれ以上頑張れなんて 酷だよね
 
   今 じいちゃんと一緒ですか
   歌をいっぱい歌ってますか
   私たちも頑張るから 
   私たちも
   もっともっと 頑張るから
   許してね
   そして 見守ってね








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酸素導入

2006-11-11 08:44:19 | ひとりごと
 先日、父が再入院しました。今回は1週間の予定。いよいよ在宅酸素導入に向けて、調整です。何しろ、本人の肺活量がペットボトル500くらいしか無いもので、吸わないと酸素も入らず、今呼吸訓練からです。いやはや・・・。
 今度、自宅に戻れば、透析の機械、酸素の機械やらが寝室にひしめき、寝るともなれば、鼻から酸素チューブ、腹から透析チューブ。これ、すごくないですか???ICUかって感じです。
 いかに、悲壮感無く、楽しく闘病生活を送って貰えるか、これからの課題です。
 ま、うちにはキヨちゃんがいるからねえ・・・。たぶん、楽しいでしょうが・・・。
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