Dream Gate ( 中野 浚次のブログ )   

本日はようこそ開いてくださいました!お芝居のことグルメを語ります!


          

わたしの好きなティールーム⑨    コーヒーラウンジ「天の川」  ―琴平グランドホテル・花の抄―

2012-04-28 | 喫茶店めぐり


旅に出ると、きまって探すお店がある。
まず美味しいコーヒーを喫ませてくれる喫茶店。つぎに古本屋、そして骨董屋さんである。
ちかごろはコンビニだけは、どこにでもあるが、カフエだの、その町の匂いのする古本屋や骨董屋はほとんど見かけない。

つい先日、桜のころ。
こんぴら歌舞伎を見るために泊まったホテルにお気に入りのコーヒーラウンジ「天の川」があった。

そのお宿は、こんぴら22段目。山の中腹にあった。すぐ近くに金丸座がある。

 


桜色を基調にした落ち着いた色合いのコーヒーラウンジ。
ホテルのチェックイン時には、ここでお抹茶とお菓子でおもてなし。

なにぶんホテルのフロントラウンジなので、チェックイン・アウト時には混みあう。
その時間帯を外せば、ゆったりとくつろげる。

 


平日の昼下がり。

庭園に面した席で、ひとりゆっくりとコーヒータイム。

コーヒーは炭焼きコーヒーと称するブレンドの一辺倒。600円(税込)の銀座料金。

さほど広くない庭園だが、この季節になると水のながれがヤケに恋しい。

もうすぐこの庭に”蛍”が舞うとホテルのメイドが教えてくれた。 

 




四国こんぴらの夜は早い。
どの店も夕方5時には店を閉める。
劇作家の三谷幸喜さんが『ありふれた生活』の中で、こんぴら歌舞伎を見に行った時のことを書いていた。

夜はどこかの食堂で食事をしたいと思っていたらしいが、どの店も閉まっている。
軒並み連ねたうどん屋もラーメン屋も。温泉町には珍しい光景だと。
三谷さんは結局自販で缶コーヒーとホテルの売店で残り物の菓子パンだけがその日の夕食だったとか。

ところでラウンジ「天の川」は夕方5時からは、ナイトラウンジに変貌する。
ピアノの生演奏などがあるそうだ。
もちろん世界各地のビール、ウイスキー、ワインも揃えているとか。
こんぴらの夜の”穴場”がこのホテルにある。

その夜は寝つかれず、ホテルの下駄を借りて、いつもの例で浴衣がけで夜の町へ出かけた。
琴平の駅前近くでBar「志のぶ」という安っぽいネオンを見かけた。
そのBarは営業しているようだった。
うさんくさいスナックのようだったが、思い切って店のドアを開けた。
厚化粧をしたマダムらしい女がいきなり私に云った。

「兄さん タバコ1本くんない?」 

 

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四国こんぴら歌舞伎大芝居       ― 又五郎 歌昇襲名披露公演 ―

2012-04-22 | 歌舞伎


囀りの象頭に抱かれ金丸座

10年ぶりに四国こんぴら歌舞伎を見てきました。
この琴平では初日には桜が満開だったそうですが、いまは葉桜に。

でも『一本刀土俵入』 『戻駕籠』 『四の切』の舞台では桜がふんだんに御目見得。
おまけに今年は又五郎丈、歌昇丈の襲名披露というおめでたい公演です。
しかも、日本最古の歌舞伎の芝居小屋で見られるのもこの上ない幸せ。

役者よし、狂言よし、劇場よし、
三拍子揃うことも「四国こんぴら歌舞伎大芝居」ならではの愉しみです。 

 


チョン チョン――柝が入って・・・・・

「さ~て本日は賑々しくご来場のお客さまがたに口上申し~あげまする・・・・・・・」

金丸座の劇場の前では木戸芸者の口上のはじまり始まり―。
この日は唐茄子に結んだ手ぬぐいも風情よく、木戸芸者に扮していたのは地元の小学生。
プロの役者さん顔負けの身のこなし、口跡もよく、見物客から拍手喝采でしたよ。

 


昨年の新橋演舞場からスタートした三代目又五郎、四代目歌昇の襲名披露興行。
名古屋の御園座、京都の南座、そしてこのたびの金丸座。

6月は博多座、7月の松竹座と襲名披露は続きます。
ここで特報です!!  
6月の博多座では夜の部に歌昇くんが『馬盥』で森蘭丸に挑戦します。

ぜひ、ぜひ観に行かなくちゃ 

 

                      

  ←画像は襲名披露に役者さんがご贔屓に配る手ぬぐいです。

  この手ぬぐい誰にもらったと思いますか?

  劇場の売店には販売しておりません。

  実を云うと、琴平の某うどん屋さんの若女将からいただきました。

  何気なく入った「うどん屋」さん。てんぷらうどんを注文したところ、メチャ美味しかった。

  なんでも琴平に来た歌舞伎の役者さんたちのご愛用の「うどん屋さん」だとか。

  その店の若女将が大の歌舞伎好き。

  「この間亡くなられた京屋さん(←雀右衛門)も何回かお見えになりました」

  「皮ジャンでサングラスして?」

  「そう そう そうなんですよ お客さんよくご存知ですね」
  
それから暫く若女将と歌舞伎談議。それも「うどん屋」の店先で。

 

 

 


金丸座は「日本最古の芝居小屋」としての価値が認められ、国指定重要文化財に。

画像の天井右上に渡された板が宙乗り装置の「かけずり」。

天井全体に竹が組まれているのは「ブドウ棚」。
これは舞台から客席一帯に桜吹雪、紙吹雪を降らす装置であるとか。 

 

 

 


さて劇場正面の木戸をくぐると、江戸の鼓動がきこえてくるような芝居小屋。

中では揃いの着物を着たお茶子さんのお出迎え。

10年前に来たときは地元の村のおばちゃんばかりだった。いまは若くて美人揃い。

「 中野さ~ん 」

と若い女性から声をかけられた。この讃岐路で知り合いの女性などいないのに・・・

振り返って見ると、なんと昨夜宿泊したホテルで何かと世話してくれたフロントのSさん。

昨日はホテルマン、今日は金丸座のお茶子さん。お見事な変身。

予約していた上場の升席に、Sさんがお手て繋いで案内してくれました。

 

平成生まれの若手役者の心意気 『一本刀土俵入』の記事こちらからどうぞ   

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平成生まれの若手役者の心意気  『一本刀土俵入』   ―こんぴら歌舞伎・ 金丸座―

2012-04-21 | 歌舞伎



種太郎改め四代目歌昇

  

種之助             隼人             米吉

 
歌舞伎界も新風を吹き込むためか若手が抬頭してきた。
そんな中で、最近めきめき成長してきたのが種太郎改め四代目歌昇である。

二年ほど前、国立劇場で見た舞踊『春駒』は平成生まれの若手ばかりの出演であった。
この舞踊には春駒売りに身をやつした曽我五郎が仇の工藤祐経に対面するために、芸者の手引きによって工藤の館に入り込み踊りを舞うという所作事である。
工藤には歌昇(←当時は種太郎)を筆頭に、弟の種之助、巳之助、新悟、米吉,壱太郎という次世代を担う若手ばかりであった。
ことに当時の種太郎の工藤は群を抜いてうまかった。
そのしっかりした踊りはひときわ目立った。いまも目に焼きついている。

もう一つは昨年の新橋演舞場での襲名披露で見た『寺子屋』である。
新歌昇は涎くり。
寺子屋の「涎くり」は歴代の役者で何人も見てきたが、新歌昇の「涎くり」がいちばん面白かった。
涎くりはとかく段取りだけで演じるひとが多い。新歌昇のは芝居がすごく丁寧だし、細かいところまで役づくりをしていて、しかもイトに乗っている。
最近は上演時間の都合で「源蔵戻り」ばかりだが、新歌昇の涎くりで「寺入り」を見てみたい気がする。


さて、こんぴら歌舞伎の『一本刀』。
歌昇(←平成元年生)は、儀十(←歌六)の子分で掘下根吉である。

この掘下根吉という役は、長谷川伸の『一本刀』ではいちばんよく書けている。
儀十の子分の中でも根吉だけは雰囲気が違う。ちょっぴりニヒルで、茂兵衛にも「お前はちっとはましだ」といわれるほどの遊び人。
つまりは『一本刀』の中で「いちばんおいしい役」でもある。

大詰の「布施の川」の出から、歌昇の根吉はこの役の性根をのみこんでいることがよくわかる。
「お蔦の家」でも、ふところ手でほかの子分たちとお蔦とのいさかいを戸口できいているのも、芝居(サマ)になっている。
去りがけの「堅気に化けたイカサマ師だ!!」のセリフもきっぱりと決めた。

しかし難もある。顔に切り傷をつけて工夫はしているものの、どう見ても遊び人には見えない。
大店の手代に見えてしまうのである。
根吉はやはり素袷せを身幅を狭くした着付けにしてほしい。
そうはいってもいい根吉である。


歌昇の弟種之助(←平成5年生)は序幕の女形と、大詰では若い船頭。
どちらも初役らしいが、若船頭は最近にない上出来。
まだ若いのにじつに細かい芝居をする。
ひとつ例を挙げれば、茂兵衛と老船頭との問答の中で、茂兵衛から「弥八の評判はようござんすか」と問われ、老船頭が「さあ・・・」と言い渋ったところで、
すかさず種之助の若船頭が「やめとけ あまりかかわらないことだべ」といったようなことを動作だけで親爺の船頭に相図をする。
それでいて片田舎の、ボっ~とした若者らしい風情がよく出している。 まさに有望株である。

それに隼人(←平成5年生)の町人伊兵衛も出色の出来であったことをつけ加えておきたい。

 

     ―座頭 吉右衛門の駒形茂兵衛―
 

              

                         駒形茂兵衛=吉右衛門                 お蔦=芝雀

若手歌舞伎俳優のことで紙幅がつきたので、簡単に記しておこう。
『一本刀』で吉右衛門の茂兵衛は何回か見ているが、今度はあっさりと演じて、しかも余裕十分である。
十年後、股旅姿で本花道から登場して、こんどは仮花道へ退場と、金丸座ならではのサービスもおこたらない。

今回の茂兵衛で感心したことが2つある。
一つは「布施の川」の場で、船大工との会話に、声による遠近法をつかったことである。
砂地に引き上げられた大きな船で仕事をしている船大工には、ひときわ大きな声で、船尾をなでている老船頭には普段どおりの声という具合に調子を変えた。

もう一つは大詰「お蔦の家」から「軒の山桜」へと”盆”が回る。
この芝居のいちばんの見せ場であるが、なにぶん金丸座の盆は、舞台の間尺が狭いだけに小さい。
茂兵衛が土間でもう一歩寄らなければ盆が回らない。
そこでだ。単に盆をよけるのではなくて、「面目ございやせん」と芝居でもう一歩踏み込んだのには感心した。

芝雀のお蔦も自然体で、力まず、衒わず、素直に運ぶ芝居が吉右衛門に合っていた。
序幕が淡白のせいか、その分大詰ではイマイチ盛り上がらなかったのも事実である。

船戸の弥八が吉之助、辰三郎が錦之助、子守娘おてるに米吉
米吉歌六の長男で平成5年の生まれである。 

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座り心地のわるい三島劇「サド侯爵夫人」   ―シアター・ドラマシティ―

2012-04-09 | 演劇

    おかしなことが客席でおこった。

  場内は8割近くが女性客で、その日は当日券も札止になるくらい満席である。

  このお芝居は3幕で2回の幕間が15分づつある。

   ところが第一幕が終わったところで、右隣りの若い女性2人がいなくなった。

  そして第二幕が終わると、こんどは左隣の女性がいない。しかも三人である。

  結局中央席のN列は私と、もう一人の初老の男性の二人になってしまった。

    5人もの観客が揃って急用ができたとは到底思えない。

  だとすれば「芝居が難しすぎる」、「退屈である」、「見ていて眠くなる」。

  そんなところではないでしょうか。

 

ところで私は、60年代に書かれた三島由紀夫の「サド侯爵夫人」については、いささか疑問をもっている。

というのは、三島由紀夫がほんとうに書きたかったのは「サド」ではなくて、「サド」という名を借りて、三島由紀夫自身をかなり赤裸に語りかけたかったの

ではないか、という疑問です。

劇中で、サンフォン伯爵夫人ははっきりと言う・・・

   「サドとは私なのです」

と。これは「サドとは三島由紀夫なのです」と等価もしくは置き換えてもおかしくないのです。

三島由紀夫をご存知のかたなら、60年代の初頭、『薔薇刑』というSМ写真集で三島自身がモデルになった。

それは性と暴力と冒涜の世界に身を投じたサド侯爵と完全に一致するのです。

 

       


「サド侯爵夫人」は、華麗かつ豊穣なレトリックが満ち溢れた難解なお芝居です。

私も何度か『サド侯爵夫人』の舞台を見てきたが、残念ながら出来のよかった舞台にはいちども出合わなかった。

事前に作品の知識があろうがなかろうが、見ていて「眠くなる」、それだけのお芝居であった。


それは、女優さんたちが三島の言葉の美しさだけに乗っかって、”喋り”というか”酔って″というか、そこに含まれている本当に伝えたい「意味」が

見る側に伝わってこない。

つまり「装飾的な言葉」と「意味を立てる言葉」の区別が出演者に理解されていないようだ。

それを一諸くたに喋られると単なる波動のようになり、「眠くなる」だけなんです。

蒼井 優(←画像/左)はルネ サド侯爵夫人。最近舞台主演が多いようだが、発声がわる過ぎる。
表情ばかりが豊かで、台本の文字を追うことだけにに終始、、かんじんの声が出ていない。
可憐さばかりが目立って、侯爵夫人としての品格が欠けている。

麻美れい(←画像/中央)のサン・フオン侯爵夫人は劇中の「悪徳」という言葉で称せられる夫人。
女ならではの「悪徳」を体現しようとするあまり、品位のない芝居になっている。
彼女のいう「快楽」への執着さえ見えてこない。

ルネの母親は白石 加代子(←画像/右)。発声がいちばん安定しているのはさすが。
母親役への造形が『身毒丸』の母親とはまったく異質な変身ぶり。多少やり過ぎのキライもあるが・・・。


最後になったが、登場する六人の女優は、実は一度も姿を現さないない「サド」を、どのように舞台に映し出すかが、この芝居の重要な課題。
しかし一向に「サド」の顔が見えてこないのが今回のお芝居の最大の欠点だった、とつけ加えておこう。 

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