粋な黒塀に「まつもと」の行灯。
「鮨まつもと」は、四条通りから「一力亭」を都小路へ入った祇園界隈にある京の町家らしい佇まい。
京都の、しかも祇園で江戸前鮨が食べられると言えば、「ウソ!!」と首を傾げる方もあろうかと・・・
開店まる三年。いまでは京都でいちばん予約の取りづらいお店だそうです。
そもそもこのお店は、横浜・関内の
「鮨はま田」のご主人浜ちゃんから教えてもらった。浜ちゃんとは、銀座「青木」での修業時代からの知り合い。それから、ずっ~と。正直に申せば、浜ちゃんのおっかけ。浜ちゃんと「まつもと」のご主人とはいちばんの親友とか。
片や「まつもと」のご主人は、東京・新橋の有名な鮨「しみず」の出身。さらにいえば、湘南は平塚生まれの元湘南ボーイ。
「波乗りやってたの?」
「してません。平塚は湘南じゃないって言う奴がいるんですよ!!」
「平塚は湘南ジャン!奴を今から殴りに行こうか!」
「行きましょう!」
有次の銅板で山葵をおろしている割烹着の松本大典さん<画像>は、サザンの桑田圭祐にそっくり。
すかさず、それを口に出す。
「お客さんからよく言われるんですよ。でも本人はイヤがってますけど・・・」
と、横から美人の奥さん、つまりは女将さん。奥さんも湘南・茅ヶ崎生まれ。
湘南おしどり夫婦である。
その日、南座のお芝居がハネてから楽屋には顔を出さずに、「まつもと」に直行した。
開店前で私がいちばん乗り。
店内は白木のカウンターが直線に配置され、全部で8席。こざっぱりとした設え。
奥の坪庭の緑がいかにも京らしい趣き。
先ずは京伏見の純米酒”まつもと”(店名と同じ)を冷やで。
酒肴に供されたのが、明石の鯛とグジ。
鯛はもっちりとした食感。グジに京都らしいエッセンスを感じました。
次に蛍烏賊<画像>。これは酢味噌で。
さらに、藁で燻された鰹のタタキとミョウガ添え。
これはちょっとスモーキで、口のなかでミョウガの酸味とがあいまって絶品の一皿。
酒肴の〆は蒸し鮑。小皿のお塩でいただく。
器はすべて伊万里。グラスはバカラ。料理をいっそう引き立てます。
握りは”おまかせ”にする。
江戸前鮨はすしネタだけではない。
シャリが全然違うのです。
関西でお寿司を食べると、きまって甘酸っぱい味がする。
しかも、ごはんも水分がしっかり残っている。
まず江戸前鮨はシャリが甘くない。
シャリは硬めの炊き上がりのものに赤酢と塩を合わせた、甘味なしの紛らう事なき江戸前の本格派。
握りの大きさは舞妓さんのお口に合わせたわけではないだろうが(笑)少々小ぶりの銀座サイズ。
まずお目当てのこはだ<画像>。強めの酢と塩加減でしっかり〆ている。
中トロは大間 の上物<画像・上>。口の中でのとろけ方がちがう。
車海老は、握る前に茹でた天草の天然モノ<画像・下>。
鮨ネタの下には海老の味噌が挟まれたお見事な一品。
玄海灘のウニと北海道のイクラは小鉢のミニ丼で供された。
次に淡路の鯵。それにビワマス。
ビワマスとは、琵琶湖でとれた鱒のことらしい。煮ツメで、臭味がとれて申し分のないさっぱりとした味だった。
さて、握りの〆は「干瓢巻き」。
「まつもと」のかんぴょう巻きは絶品だ!!
いつの頃からか京にそんな噂が広まった。
なんでも「かんぴょう巻き」だけを食べにくるお客がいるとか。
第1に使われている海苔が段違い。
風味が高く、歯切れ良く、わさびも爽やかで・・・。
本場東京にも決して劣らないクオリティーを供していただいた。
「そうそう昨晩、歌舞伎の愛之助さんがお店にいらして下さいました」
と玄関先まで見送ってくれた女将さん。
「舞妓さんとご一緒では?」と訊きたかったが、それは問わなかった。