お正月はやっぱり歌舞伎でしょう!!
今年の新春浅草歌舞伎は松也(音羽屋)の初参加でうんと若返った。
その松也は、『大蔵譚』のお京、『土蛛』の頼光、『一本刀土俵入』の辰三郎、『娘道成寺』の所化と昼夜4本全てに出演、大奮闘である。
まだ他に、日替わりでつとめる恒例のお年玉挨拶が計7回ある。
初回のお年玉で松也君、「お客さまの前に登場したとたん、自分が何を喋ったのかよくわからないほど緊張しました
”しどろもどろ”とはまさにコレですよねっ」とのコメント。オツカレサマデス。
さて本題。
夜の部に『一本刀土俵入』と『京鹿子娘道成寺』。
序幕「安孫子屋」の勘太郎の茂兵衛がいい。
芸でつくった芝居ではなくて、地を生かしたリアルな芝居に青年の純粋さを見せて爽やか。
清新さをみせた。
それに「お墓さ・・」というセリフがじつにいい。
間のとり方のうまさ、観客の誰もがホロリとした印象の濃い場面だった。
これまでの茂兵衛とは違った、フレッシュな茂兵衛像を作り上げた。
もう一つ。序幕の花道の引っ込みで「姐さん!あまり飲んじゃいけませんよ!」
と、ホンにないセリフを足したところに感心した。
櫛、簪、巾着ぐるみ貰ったのだから、「ありがとうございます」の繰り返しではあまりにも芸がない。
今日的というか、こういった工夫も新歌舞伎ならではというところだ。
ここでも勘太郎の優しさとぬくもりを感じさせる。
それとは逆に,亀治郎のお蔦はつくりすぎ、考えすぎである。
ひとつ一つの演技が粒だってはいるが、リズムがよくない。
だからお蔦という人間像がうかんでこない。
パクリとは言わないが、出だしが杉村春子のようだったり、芝翫(成駒屋)そっくりのところが何箇所かある。
とはいうものの、弥八を相手につっぱった強さはよく出ている。
その気っ風の良さで「利根川の渡しは十六文だよ!!」と財布を投げるところは上出来。
亀治郎の若さと、勢いが活きている。
酌婦のお吉は松也一門の徳松、宿場女郎をそれらしく見せた。
お松は段之、この役で小山三さんの名演技を見ているだけに物足りない。
序幕「利根の渡し」の子守娘は鶴松。見るたびに成長している。
それにしても中村屋さんは人材が豊富だ。
大詰「布施の川べり」
前場から10年の歳月が流れている。
しかし、この場の勘太郎がよくない。
花道を出るのにコソコソは考えすぎ。タッタッと出るべきだろう。
花道から出ただけで、10年の歳月を十二分に感じさせなければいけない。
それと船頭とのやりとりにやたらペコペコと低姿勢。儀十の子分とのいさかいも迫力に欠ける。まだ若いからしかたがないが貫禄不足。これでは学園祭の茂兵衛である。
これからの課題だろう。
序幕がよかっただけに惜しまれる。
この場で松也の辰三郎の引っ込みがいい。
花道七三でピタッときまった。今までの辰三郎には見かけなかった工夫されたキメである。
ここへ由次郎の老船頭、桂三の船大工、宗之助の若船頭とみなこの一役のために出ている。
大詰「お蔦の家」「軒の山桜」
お蔦の亀治郎が不思議なことに、この場は俄然よくなる。
やくざとの応対がキッパリとしている。それでいて今の身の上に生きる女の哀しさをきっちり見せた。
ここでの松也(画像)の辰三郎がイマイチ。
「いちばんお若いのに、このお役は気の毒!!」が大方の批評だが、娘を持つ父親の気持ちを、それなりに模索しているのは十二分に見ていて感じとれた。
公演後半では、「辰三郎ってダメ男ですよねっ」と冗談を云う余裕すらみせた。
しかし、いざイタ(舞台)にのっかれば、自分自身の段取りをこなすだけで精一杯である。
お君役の子役がうまいだけに、少しでも娘への愛情を感じさせる芝居が欲しかった。
これでは、お君ちゃんがお蔦の連れ子に見えてしまう。
ほかに、亀鶴の堀下げ根吉がよかった。すねたニヒルなやくざだが、どことなく影のある雰囲気がよく出ていた。
ことに大詰の「お蔦の家」がいい。
「堅気に化けた・・・」を時代で言い、「イカサマ師さ!」と世話の捨てセリフになるわけだが、定石通りに演じた。
だから、あとの木戸のピシャン!!が活きてくる。
切り狂言は、七之助初役の『娘道成寺』。
ここに亀治郎と松也が付き合って「可愛ゆらしさの花娘」をひとさし。
松也は2月の歌舞伎座『京鹿子娘二人道成寺』でも同役の所化。