Dream Gate ( 中野 浚次のブログ )   

本日はようこそ開いてくださいました!お芝居のことグルメを語ります!


          

ラネーフスカヤ 一座の道化芝居 『桜の園』  -新国立劇場ー

2015-11-23 | 演劇

 

帝政末期のロシアを舞台に没落貴族の悲喜劇、つまりは時代に取り残された貴族階級への挽歌だといえよう。

今回は格調高い神西 清の翻訳で、感情の機敏を綿密に描かれたこの戯曲を鵜山 仁が演出。島 次郎の美術、沢田 裕二の照明

など巨匠スタッフが顔を揃えた。

 

 

小劇場の効用、そして花道 が…

劇場のよさは、細かな表情までよく見えることだが、ことにチエホフ劇のような微妙な表情の変化が重要な場合は有効である。

今回の「桜の園」は、ラネーフスカヤ一座の旅興業に見立てて、小劇場という空間を見事にうまくつかった好例ではないだろうか。

さらに感心したのは、客席のど真ん中を貫く通路をこさえた。時にはそれがエプロンステージに、時には花道になり、俳優は通路を通

って、舞台へ登場し、退場するので、その都度俳優の表情がアップで見られる。

さらにえば、劇場の空間と、『桜の園』という虚構の空間とが交錯する空気感をうまく出していて、みごとであった。

 

『桜の園』は喜劇か悲劇なのか

チエホフの『桜の園』がなぜこれほどまでに人気があるのだろうか。

滅びるものの”あわれ”を女性が一身に背負い、時代の移ろいを映し出したこの作品が日本人の感性にドンピシャなのではな

いだろうか。

それと、いつも『桜の園”で問題にされるのが、喜劇なのか、それとも悲劇なのかということだ。

演出の鵜山仁さんは「ぼくは意識してません。登場人物がみんな、得手勝手に別のことを考えているけど、同じ時間を生きて

いるなんて状態は,自ずから喜劇的、せつなくもあり、面白いことだと思いますよ」と。

 

田中裕子の名演が光る

ラネーフスカヤ夫人の田中裕子はまさに適役。

ことに終幕、桜の園が落札された話を、舞台の中央で後ろ姿で立ち尽くし、怒りや哀しみなどない交ぜになった感情を背で表現したの

は圧巻であった。

難をいえば、浮浪人や食堂のボーイにまで多額のチップをやる。借金で苦しいはずなのに、散財して悔いることがない一面があまり見

えてこないのが欠点といえる。

はじめは訥々とした態度のロバーヒン(柄本 佑)だが、しだいに下卑ていく。農奴の家に生まれながら、金の力でのし上がってきた思い

をぶちまけるあたりから、テンションが最高潮になる。つまりいろんなグラデーションがあって見ていて面白い。計算された演技術でない

のがこの人の持ち味なのだ。余談だがNHKの朝ドラ「あさが来た」にも出演しており、柄本佑の出番の日は見るようにしている。

万年大学生の木村 了。思ってた以上にしっかりしていたのはオドロキとしか言いようがない。とはいうもののこの一座にハミダシてはい

なかった。

特筆すべきは、家庭教師の宮本裕子。道化役として抜群。チエホフ劇の濃淡を際立たせた。

 

ハイレベルの芝居を一人でも多く見てほしい

今回の出演者のみんなが、これは”チエホフ”だからとか、世界一の名作だからと構えることなく、捉えるべく瞬間瞬間を,衒うことなく

具現化していった。その一つひとつが万華鏡のように広がっていく。それがチエホフの世界なのかもしれない。

 

これだけハイレベルのお芝居を僅か半月足らずで終わってしまうのは残念である。

チケットは完売。キャンセル待ちをしている長蛇の列をわたしは目にした。

追加公演をして、ひとりでも多くの方に見ていただきたいと思うのは私だけでしょうか。

                                          (2015 11 19  東京初台新国立劇場で所見) 

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様々な愛のかたちを美しく!!  ミュ-ジカル『 パッション』  阪急中ホール

2015-11-14 | 演劇

   

 

オペラなら当たり前のことなのだが、生演奏によるミュ―ジカルは久しぶりである。

『太平洋序曲』、『Into the Woods』に続きソンドハイムは新国立劇場で3作品目。前作2つは宮本亜門さんが演出。

今回は新国立劇場芸術監督の宮田慶子さんが総指揮を揮う。

キャストは井上芳雄(画像=左)、シルビア(画像=右)、それに宝塚出身の和音美桜(画像=中央)。

音楽監督には巨匠島 健、美術には売り出しの伊藤雅子、照明は『海の夫人』で、その斬新さが買われた中川隆一。

 

30分でチケットが完売

最高のスタッフ、キャストを揃えてソンドハイムに挑んだ意欲作だ。

私自身、新国立劇場中ホールで見たかったが、日程の都合で、西宮の阪急中ホールで見た。

関西では僅か3日間の公演だが、先行予約のチケットが30分で完売したそうだ。

観客も馬鹿じゃない。良い作品はよく知っているということである。

 

只のラブストーリではない!!

舞台は19世紀のイタリアのミラノ。

 一口でいえば、ラブストーリーである。

「愛すること」の本質に切り込むと同時に、常識や固定観念に縛られた生き方を問う、ミュージカルというより色濃く、深く…

思索的なストレートドラマといったほうが当たっているかもしれない。

感情の揺らぎを隅々まで描ききるというソンドハイムの楽曲は、いつも難度が高いという定評がある。

今回はドラマの流れ、楽曲のあるべきテンポを保っていたのには感動した。

キャストとオーケストラが一丸になって積み上げていった成果だと思う。

 

「あなたを愛するために、ここにいるの」

要するにソンドハイムの楽曲は、初めに歌詞があり、歌詞がメローディをリードする。

ですから台詞から歌への移行が実にスムースだった。

まるで会話を音符にのせているようで違和感がない。

特にフォスカ役のシルビアは力演で、歌詞がときに優しく、ときに雄弁にながれるようなピュアな旋律が観客の心に届く。

そしてフォスカがジョルジオへの熱い思いを

 「あなたを愛するために、ここにいるの」

と吐露する。憂いをたたえたこの情熱的なラブソングは、うつくしく、そしてせつない。

 

井上芳雄の裸で開幕!

帝劇で見た『エリザベート』では、井上芳雄はあまり目立たなかった。今回は水を得た魚のようだ。

ソンドハイムの楽曲をみごとにこなした。

幕開きはクララとのベットシーン。井上芳雄は素裸にちかい。演出の宮田慶子さんのご趣味とはいわないが、ドラマの導入部として、こ

のショッキングな場面は、紗を効果的につかって、愛の透明感が表現されて成功している。

ところでマーチがながれて5人の兵士が再々舞台に登場するが、このドラマの背景になっているイタリア統一戦を表しているのだろう

が、芝居のリズム感を削ぎ、場面の”つなぎ”にしか見えない。嫌悪感さえ催す。

それとクララの和音と井上の大尉が公園で逢う場面がある。

お決まりのベンチと外灯。これでは安っぽい歌謡ショウの寸劇に見えてしまう。どこかミラノの絵になる場所がないものか。

 

助演には福井貴一。歌唱力は抜群である。倉本聡さんの『昨日、悲別で』をみて以来である。懐かしさがこみあげる。

 これからも再演を重ねることを期待したい。                (2015.11.13 県芸術文化ホール所見

 

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