
緑なす松や金欲し命欲し 石橋秀野
誰にでも、季節は平等にめぐりくる。が、受け取り方は人さまざまだ。病者にとっては、とくに春のつらい人が多い。中途半端な気温、中途半端な自然の色彩。あるいはそこここでの生命の息吹きが、衰えていく身には息苦しいからである。そんな心境を強く表白すれば、この句のようになる。この句を読んで、誰も「あさましい」などとは思わないだろう。今年も、元気者だけのための「ゴールデン・ウィーク」がやってくる。(清水哲男)
【万緑】 ばんりょく
夏の見えるかぎり草木が緑であることをいう。中村草田男の『万緑の中や吾子の歯生え初むる』により、季語として定着した。
例句 作者
万緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷
万緑に火をうち込みぬ登り窯 落合水尾
万緑や舟唄水に谺して 土屋うさ子
万緑や悲しみをもて胸充たす 殿村菟絲子
牛乳を飲む万緑に負けぬやう 辻 美奈子
万緑やバスの後退笛ひとつ 那須淳男
萬緑の動いて風の五浦かな 福島壺春
スイッチバックして万緑の深くなる 木村葉子
万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男
竹生島万緑太りしてゐたり 久染康子