竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

郭公や夜明けの水の奔る音 桂 信子

2019-06-20 | 今日の季語


郭公や夜明けの水の奔る音 桂 信子


季語は「郭公(かっこう)」で夏。私の田舎ではよく鳴いたが、いまでも往時のように鳴いているだろうか。どこで聞いても、そぞろ郷愁を誘われる鳴き声である。掲句は、旅先での句だろう。というのも、慣れ親しんだ自分の部屋での目覚めでは、ほとんど外の音は聞こえてこないはずのものだからだ。もちろん、四囲には常に何かの音はしている。が、それこそ慣れ親しんでいる音には、人はとても鈍感だ。鈍感になれなければ、とても暮らしてはいけない場所もたくさんある。でも、平気で住んでいる。私はこれまでに二度、街のメインストリートに面した部屋で寝起きしたことがあるけれど、すぐに音は気にならなくなった。たとえ郭公の声であれ「水の奔(はし)る音」であれ、同じこと。土地の人には、そんなには聞こえていないはずなのだ。それが旅に出ると、土地の人にはごく日常的な音にもとても敏感になる。旅人は、まず耳から目覚めるのである。だから、地元の人は、こういう句は作らないだろう。いや、作る気にもならないと言うべきか。作るとしても、郭公の初鳴きを捉えるくらいがせいぜいだ。それも、掲句のように、郭公の鳴き声が主役になることはないと思う。句意は明瞭で、こねくりまわしたような解釈は不要だろう。単純にして美しい音風景だ。その土地の音の美しさは、よその土地の人が発見する。私がこねくりまわしたかったのは、そこらへんの事情についてであった。『緑夜』(1981)所収。(清水哲男)


【郭公】 かっこう(クワク・・)
◇「閑古鳥」(かんこどり)

4月半ばから5月半ばにかけて南から渡り、低山帯の樹林などに生息する。卵を頬白、鵙、葭切などの巣に托卵し育てさせる。羽色は雌雄同色、形は時鳥とよく似ているが、時鳥より大型でカッコウ、カッコウと聞こえる鳴き声ですぐに識別できる。

例句 作者
郭公や寝にゆく母が襖閉づ 広瀬直人
離愁とは郭公が今鳴いてゐる 深見けん二
郭公や桑にしづみて小家がち 亀井糸游
郭公や恋のラケット重ね置く 原 ふみ江
郭公や道はつらぬく野と雲を 堀口星眠
托卵のあと郭公の高鳴けり 後藤杜見子
あるけばかつこういそげばかつこう 種田山頭火