青芒川風川にしたがはず 上田五千石
この句を読んだときいっぺんに目の前がひらける感じがした。山登りでちょっとした岩場に出て今まで林に閉ざされていた景色がパノラマで広がる、そんなすがすがしさと似ている。自然を描写した句は多いけど、すかっと気分がよくなる吟行句は案外少ない。川そばの青芒が強い川風にいっせいになびいている。その風向きと川が流れてゆく方向が違う。と、字面だけを追ってゆくと理屈だけになってしまうこの句のどこに引かれるのだろう。川の流れが一望できる高台で、視覚だけでなく頬を打つ風の感触で作者は眺望を捉えているのだ。夏の日にきらめく川の流れる方向に心を乗せて、かつ青芒をなびかせる風を同時に感じた時ひらめいた言葉が作者の身体を走ってゆく。リズムのよいこの句のすがすがしさは、広がる景の空気感を言葉で捉えなおした作者の心の弾みがそのままこちらに伝わってくるからだろう。その時、その場でしか得られない発見の喜びが景の描写に輝きと力を加えているように思う。『遊山』(1994)所収。(三宅やよい)
【青芒】 あおすすき(アヲ・・)
◇「青薄」(あおすすき) ◇「青萱」(あおかや) ◇「芒茂る」
まだ花穂を出す前の青々とした夏の薄のさま。青萱。芒茂る。
例句 作者
青芒城主この間に目覚めしや 飯田龍太
卓上の灯わたる風や青薄 寺田寅彦
潮汲みの河原の院の青芒 鈴木勘之
切先の我へ我へと青芒 行方克己