僕がいくタバコ屋のご夫婦は真面目そうなひとだけれど、ご夫婦ともそんなに話しやすいというわけではないので、まあ、「たばこください」「はい おおきに」という言葉を交わす程度だ。
その「おおきに」を丁寧に言ってくださるので僕も気持ちが良くていつもそのタバコ屋に行ってしまうわけだけれど。
しかし、このタバコ屋に手伝いに来る女性は僕にとって結構話しやすい感じの人だ。
今日その方に「今日も、寒さの方はまだましじゃないですか」と言ったら、彼女は思い切り考えて「気象情報では寒いようなこと言ってましたけどね」と返してこられた。
見ると、2,3日前にこのタバコ屋に来たときにはついていなかったストーブがカウンターの中でかなり強火で点火してある。
いあや、これはしまったと思って「女性は冷えますからね。僕は動くとすぐに暑くなるたちやから」と言ったら。「まあ、私も動くと暑くなりますけどね」と半ばむりやりフォローしてくださった。
やはり、ストーブとかそういう周りの状況を観察してからものを言わないと、思わぬ地雷を踏んでしまうことになる。
そして、僕はそういう失敗が結構多い。
何年か前の冬に隣の街の市民交流センターの受付の女性(この方も僕によく、こんにちは、と挨拶してくださったので僕にとっては話しかけやすい方だった)に「いやあ、今日はちょっと暑いですねえ」と言ったら、その方の顔がちょっと険しくなって絶句してしまわれた。
見るとその女性は腰から下にストールだか毛布だかわからないけれど、そういう感じのものをぐるぐる巻にして、足元に電気ストーブを置いておられた。
しまった、ちゃんと観察してからものを言うべきだったとあのときも思った。
でも僕も暑がりというわけではなく、動くと割とすぐに暑くなるというだけの話だけれど。
逆に夏の日の公民館の集まりで、冷房が効きすぎていて、僕の両隣に座っていた女性が明らかに寒そうにしていたことがあった。
これは、僕もさすがになんとかせなあかんと思った。
男性の係員がそばを通りかかったときにその係員の方に僕は「ちょっと冷房が寒すぎます」と小声で言った。するとその係員の方は「何度くらい温度上げましょう」と聞いてこられた。
「何度くらい温度上げましょう」と言われても僕もそんなこと自分の家のエアコンでないからわからない。
僕がうーんと考えた瞬間を見計らったかのように右隣に座っていた女性が
「エアコン切ってもらってもいいですよ」と言った。
男性の係員は そうですね と言ってエアコンを切りに言った。
ああいうときの女性の言葉の瞬発力ってすごいなと思う。
筋力的な瞬発力は男のほうが上だけれど、とっさの言葉の瞬発力は女のほうが上だと思う。
その瞬発力にまかせて男をやりこめてばかりいると、ある時をさかいにその男がばったりと帰ってこなくなるかも知れない。
まあ、これだけは縁のものだけれど。
あるときやはり市民交流センターの受付で割と僕に挨拶してくださる女性のおなかがぽっこりしていたので小声で「赤ちゃんできましたか」と僕が言ったら、彼女は一瞬息を飲んで「これはお肉です」と言った。
いやあ、これはしまったとあのときは思った。もう「ごめんなさい」以外何も言葉がなかった。
2日後くらいにその方と出くわしたときももう一度「ごめんなさい」と言った。
あのときは、多分、ちょっと大きめサイズのニットのセーターを着ておられてお腹のところがちょとだぶついていたのだとおもう。
あれは、僕にとっては忘れられない痛恨のミスだったけれど、言われた方も覚えている可能性が高いかも知れない。
本当にあのときはまずかったなと思う。