「タクシー・サンバ」(81.10.17.NHK)
「男たちの旅路」に代わって登場した山田太一作の新シリーズ。TBSで放送中の「想い出づくり。」にしてもそうだが、山田太一という人は、日常の身近な問題をドラマの中に描き込むのがとてもうまい。
今回のテーマは父と子の断絶だった。愛川欽也扮する清掃局員・太田と受験戦争の申し子のような息子(松田洋治)との対立。清掃員という職業から父を軽蔑する息子。自分もどこかに引け目を感じているから息子に強いことが言えない父親。よくあるケースだろう。商店は別にしても、父親がサラリーマンなら、働いている姿など子どもは見る機会がないのだから…。
このドラマでは、緒形拳扮する元はエリート商社マンのタクシー運転手・朝田を狂言回しにして、現代社会の典型であるこの父と子の姿を浮き彫りにしていく。
太田が運転手たちの前で自らの心情を吐露するシーン、朝田が太田の息子に父親の仕事ぶりを見せて歩くシーンに山田太一の主張がある。それ故、この二つのシーンは感動的だった。
いいドラマを作るのに特別に派手な見せ場を用意する必要はないのだ。日常生活の中にいくつものドラマがあるのだから。このドラマのように、タクシードライバーや清掃員にスポットを当てても、描き方が丹念であれば、いいドラマは作れるのだ。
緒形拳のほかにも、佐野浅夫、坂上二郎、毒蝮三太夫、岡本信人、花沢徳衛ら、タクシードライバーの面々はなかなかの猛者ぞろい。今後が楽しみだ。
【今の一言】ここでも山田太一に感化されている若き日の自分がいた。ちょうど脚本の勉強をしている頃だったのだ。