田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

裏磐梯 『警察日記』  『小原庄助さん』  『赤い夕陽の渡り鳥』

2014-07-17 20:45:12 | 雄二旅日記

 過日、妻と共に福島県の裏磐梯を訪れた。

磐梯山付近を舞台にした映画



 さて、磐梯山付近を舞台にした映画で最も印象深いのは久松静児監督の『警察日記』(55)だ。磐梯山の麓、猪苗代湖の近くにある警察署を舞台にした群像劇で、人情警官役の森繁久彌をはじめ、東野英治郎、三島雅夫、殿山泰司、織田政雄、十朱久雄、伊藤雄之助、左卜全、多々良純、杉村春子、飯田蝶子、沢村貞子といった名脇役たちと、若き日の三國連太郎、宍戸錠、岩崎加根子、小田切みき、そして子役の二木てるみ等が見事なアンサンブルを奏でる。

 久松演出は、のんびりし過ぎてだれるところもあるのだが、同じようにアイルランドの田舎の村を舞台にした群像劇である、ジョン・フォードの『静かなる男』(52)をほうふつさせる余裕と楽しさがある。そして、さまざまな人々がそれぞれの思いを胸に町を去るラストシーン。汽車が出るプラットホームに、少々頭のいかれた元校長(東野)のバンザイの声が響くところは、おかしさと切なさが同居して胸に残る。舞台は違うが『祭りの準備』(75)のラストで江藤潤を送り出す原田芳雄のバンザイもこれに重なるものがあった。

 

 他にも清水宏監督、大河内伝次郎主演の人情劇『小原庄助さん』(49)があり、西部劇に出てくるような磐梯山を舞台にした小林旭主演の『赤い夕陽の渡り鳥』(60)では、主題歌「赤い夕陽の渡り鳥」のほか「アキラの会津磐梯山」も聴ける。そして衣笠貞之助監督の日ソ合作映画『小さい逃亡者』(66)は、現地ロケはなかったものの、民謡「会津磐梯山」がストーリーの重要な鍵を握る。最近の『バルトの楽園』(06)でも磐梯山近辺でロケが行われたそうだ。

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『人生はマラソンだ!』『超高速!参勤交代』

2014-07-17 17:54:59 | 新作映画を見てみた

登場人物がとにかく“走る”マラソン映画を2本

まずは珍しく公開されたオランダの映画『人生はマラソンだ!』から。



 ロッテルダムで自動車修理工場を営むギーアは滞納した税金を払うため、3人の中年従業員と共にイチかバチかの賭けに出る。ある資本家との間に「ロッテルダムマラソンで全員が完走できたら借金を肩代わり。できなければ工場を譲る」というスポンサー契約を取り付けたのだ。それぞれが問題を抱える4人の生活とマラソンにのめりこんでいく様子を交差させて描く男たちの再生物語。『がんばれ!ベアーズ』(76)『ロッキー』(76)『クール・ランニング』(93)といった過去のスポーツ映画が描いてきた「結果よりも努力の過程が大事なのだ」という“敗北の中の栄光”がテーマとなる。

 全くマラソン経験のない4人をエジプトからの移民で元マラソンランナーだった若者がコーチをするという設定も面白いが、そこにさり気なく人種や性差別の問題も盛り込んでいる。メタボ腹の中年男たちが徐々にマラソンランナーらしくなっていく心身の“変化”が見どころとなる。

 ちなみに、ロッテルダムマラソンはカルロス・ロペス(ポルトガル)やベライン・デンシモ(エチオピア)が当時の世界最高を記録し、日本の谷口博美が優勝したことでも知られる有名な大会だ。

もう一本は現代風時代劇とも言うべき『超高速!参勤交代』

 

 舞台は江戸時代。現在の福島県いわき市に位置する小藩・湯長谷藩が参勤交代を終えた直後に再度の参勤交代を命じられる。その裏には湯長谷藩の取り潰しを狙う幕府老中の悪だくみがあった。果たして5日間のうちに彼らは江戸にたどり着けるのか…というお話。セリフも含めて現代風の要素を盛り込んだコメディー時代劇。『のぼうの城』(12)に似た味わいがあり、地方から中央に物申すという裏テーマも隠されている。

 湯長谷藩の面々は、何とか定められた期日内に江戸までたどり着こうととにかく走る。だから途中までは“長距離走”を見るような楽しさがあるのだが、彼らが走る姿を見せるだけでは映画にならないと思ったのか、幕府の隠密に邪魔をさせたり、佐々木蔵之介扮する藩主が深田恭子の宿場女郎と恋仲になるなどさまざまな“困難”を仕込んでいる。時代劇だからすごろくかと思いきや、コンピューターゲームの感覚の方が近いかもしれない。そこがニュー時代劇たる所以。こちらとしては彼らがひたすら走る姿を見たかった気もするのだが…。



 さて、マラソンを描いた映画と言えば、市川崑のドキュメンタリー『東京オリンピック』(65)に登場する、アベベや円谷幸吉の姿を追ったマラソンのシーンが印象深い。

 

 他にも、オリンピックでのマラソンをクライマックスとした『栄光への賭け』(70)、南アフリカ産でフランク・シナトラの歌をテーマソングとした『マイ・ウェイ』(76)、ボストンマラソンに出場した主婦ランナーを描いた『マイ・ライフ』(78)、マイケル・ダグラス主演の『ランニング』(79)などがある。よくマラソンは人生に例えられるが、これらの映画はどれもマラソンを通して主人公の再生をテーマにしている。そういえば、森一生監督、勝新太郎主演の珍品時代劇『まらそん侍』(56)もあったっけ。

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