フィルムセンターで開催中の「MoMA ニューヨーク近代美術館映画コレクション」
続いてはテレビで見て以来、久しぶりの再見となった『暗黒の恐怖』Panic in the Street (1950・20世紀フォックス)。
肺ペストの蔓延を防ぐため、ニューオリンズの公衆衛生局の医師(リチャード・ウィドマーク)とベテラン警部(ポール・ダグラス)が、保菌者である殺人事件の犯人(ジャック・パランス、ゼロ・モステル、トミー・クック)の居所を探る3日間を、セミドキュメンタリータッチで描く。
こちらも『真昼の暴動』に勝るとも劣らない濃厚な96分。港町ニューオリンズでのロケーションが功を奏している。エボラ熱の恐怖が叫ばれる現在と通じるところも多々ある。
スタッフは、製作サル・C・シーゲル、監督エリア・カザン、原作エドナ&エドワード・アンハルト、脚本リチャード・マーフィ、ダニエル・フュチス、撮影ジョセフ・マクドナルド、音楽アルフレッド・ニューマンという豪華な布陣。
この映画は(ウォルター)ジャック・パランスのデビュー作だが、こんなエピソードが伝えられている。
『死の接吻』(47)などで残忍な悪役として売り出し、ハイエナと呼ばれたウィドマークが、この映画では良き家庭人で仕事熱心な役人医師を演じる。つまり善人役だ。そこで、ウィドマークの悪役時代を忘れさせるような、彼を凌ぐほどの怖い風貌を持った悪役が必要とされた。そこに現れたのが、戦災で顔にやけどを負い、整形手術を余儀なくされたパランスであったという。
というわけで、この映画にはウィドマークからバランスへと引き継がれた戦後アメリカ映画の悪役の系譜が見られるのだ。
もう一つの見どころはウィドマークの妻を演じたバーバラ・ベル・ゲデスの存在。絶世の美女ではないが、いかにも人柄の良さそうなかわいらしい笑顔が魅力的な女優さんだ。出演作は少ないが『ママの想い出』(48)『めまい』(58)『五つの銅貨』(59)など、いい映画でいい役を演じている。
同時代に、社会派のセミドキュメンタリーの佳作を撮った二人の監督ジュールス・ダッシンとエリア・カザン。この後、ダッシンは赤狩りでハリウッドを追われ、カザンは赤狩りの密告者として終生十字架を背負った。
何たる皮肉であろうか。
併映はGW・ビッツァーが1905年に撮った4分間の『ニューヨークの地下鉄』。ここに映っている人はもう誰もこの世にはいないのだなあ…という妙な感慨が浮かんできた。
パンフレット(51・アメリカ映画宣伝社(American Picture News))の主な内容
解説/梗概/この映画に寄せる米誌の讃辞/新鋭監督イリア・カザン