田中雄二の「映画の王様」

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MoMA ニューヨーク近代美術館映画コレクション 『暗黒の恐怖』

2014-11-07 21:13:27 | 映画いろいろ

 フィルムセンターで開催中の「MoMA ニューヨーク近代美術館映画コレクション」



 続いてはテレビで見て以来、久しぶりの再見となった『暗黒の恐怖』Panic in the Street (1950・20世紀フォックス)。

 肺ペストの蔓延を防ぐため、ニューオリンズの公衆衛生局の医師(リチャード・ウィドマーク)とベテラン警部(ポール・ダグラス)が、保菌者である殺人事件の犯人(ジャック・パランス、ゼロ・モステル、トミー・クック)の居所を探る3日間を、セミドキュメンタリータッチで描く。

 こちらも『真昼の暴動』に勝るとも劣らない濃厚な96分。港町ニューオリンズでのロケーションが功を奏している。エボラ熱の恐怖が叫ばれる現在と通じるところも多々ある。

 スタッフは、製作サル・C・シーゲル、監督エリア・カザン、原作エドナ&エドワード・アンハルト、脚本リチャード・マーフィ、ダニエル・フュチス、撮影ジョセフ・マクドナルド、音楽アルフレッド・ニューマンという豪華な布陣。

 この映画は(ウォルター)ジャック・パランスのデビュー作だが、こんなエピソードが伝えられている。

 『死の接吻』(47)などで残忍な悪役として売り出し、ハイエナと呼ばれたウィドマークが、この映画では良き家庭人で仕事熱心な役人医師を演じる。つまり善人役だ。そこで、ウィドマークの悪役時代を忘れさせるような、彼を凌ぐほどの怖い風貌を持った悪役が必要とされた。そこに現れたのが、戦災で顔にやけどを負い、整形手術を余儀なくされたパランスであったという。

 というわけで、この映画にはウィドマークからバランスへと引き継がれた戦後アメリカ映画の悪役の系譜が見られるのだ。

 もう一つの見どころはウィドマークの妻を演じたバーバラ・ベル・ゲデスの存在。絶世の美女ではないが、いかにも人柄の良さそうなかわいらしい笑顔が魅力的な女優さんだ。出演作は少ないが『ママの想い出』(48)『めまい』(58)『五つの銅貨』(59)など、いい映画でいい役を演じている。

 同時代に、社会派のセミドキュメンタリーの佳作を撮った二人の監督ジュールス・ダッシンとエリア・カザン。この後、ダッシンは赤狩りでハリウッドを追われ、カザンは赤狩りの密告者として終生十字架を背負った。
何たる皮肉であろうか。

 併映はGW・ビッツァーが1905年に撮った4分間の『ニューヨークの地下鉄』。ここに映っている人はもう誰もこの世にはいないのだなあ…という妙な感慨が浮かんできた。

パンフレット(51・アメリカ映画宣伝社(American Picture News))の主な内容
解説/梗概/この映画に寄せる米誌の讃辞/新鋭監督イリア・カザン

 

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MoMA ニューヨーク近代美術館映画コレクション 『真昼の暴動』

2014-11-07 21:03:30 | 映画いろいろ

 フィルムセンターで開催中の「MoMA ニューヨーク近代美術館映画コレクション」

 

 まずは、大先輩方から「とても面白い」という話を飽るほど聞かされ、いつか見たいと思っていた『真昼の暴動』Brute Force (1947・ユニバーサル) 日本公開は57年。

 ウエストゲート刑務所を牛耳る残忍な看守長のマンジー(ヒューム・クローニン)と対立する、タフな囚人ジョー・コリンズ(バート・ランカスター)は、仲間たちと白昼の集団脱走をもくろむが…。という、前年にアルカトラズ刑務所で実際に起きた暴動を基に映画化したハードなセミドキュメンタリー風の社会派劇。ランカスターは後に『終身犯』(62)でアルカトラズ刑務所に収監される役もやっている。

 製作マーク・ヘリンジャー、監督ジュールス・ダッシンのコンビは、この映画の翌年に、セミドキュメンタリーの代表作『裸の町』(48)をものにするが、ヘリンジャーの死でコンビは解消。ダッシンは苦難の時代を迎え、やがて赤狩りの嵐の中、ハリウッドを追われる。

 脚本は後にランカスター主演の『エルマー・ガントリー/魅せられた男』(60)や『プロフェッショナル』(66)を監督するリチャード・ブルックス。撮影は名手ウィリアム・H・ダニエルズ、音楽はミクロス・ローザ。

 コリンズの囚人仲間に、チャールズ・ビックフォード、ハワード・ダフ、サム・レビン、ジェフ・コーリー、ジョン・ホイト、ジェイ・C・フリッペン、ホイト・ビゼル…。
刑務所内の医師にアート・スミス。

 刑務所内で新聞を発行している知性派のビックフォードが言うこんなセリフが印象に残る。「ここの門は三度しか開かない。入る時と、刑期を終えた時と、死んだ時だ」。

 囚人たちの過去のロマンスを回想シーンとして挿入することで、男くささを緩和するという趣向も面白い。ロマンスの相手となる女優陣は、イボンヌ・デ・カーロ、アン・ブライス、エラ・レインズ、アニタ・コルビー。

 ちなみに刑務所内で上映される映画が、同年に公開されたチェスター・アースキン監督、クローデット・コルベール、フレッド・マクマレー共演のホームコメディー『卵と私』(47)というのもしゃれている。

 伝説の映画がその通りの姿を見せてくれた喜びを感じながら、モノクロ映像が迫力を助長する濃厚な98分のドラマを堪能した。

パンフレット(57・外国映画出版社)の主な内容
解説/スタア・メモ バート・ランカスター、アン・ブライス、エラ・レインズ、イヴォンヌ・デ・カーロ/梗概/ジュールス・ダッシンと暴力描写の限界(植草甚一)/監督のメモ ジュールス・ダッシン/「真昼の暴動」の意味するもの(清水千代太)

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