名画投球術No.10 「枯れないおじいさんが観たい」ジャック・レモン&ウォルター・マッソー
今回、うれしいことに読者からリクエストを頂いた。お題はズバリ「おじいさんが観たい」。さて、おじいさんと問われて真っ先に思い浮かんだのは笠智衆。だが、実は彼は常連だった小津映画の中でも“おじいさん”はあまり演じていない。
では『コクーン』(1985)のような“老人群像劇”か、はたまた『ハリーとトント』(1974)、『ストレイト・ストーリー』(1999)のような“老人が主役の映画”か、とも考えたが、これらで3本まとめるのはなかなか難しい…。
そんな筆者の窮地? を救ってくれたのが、この名コンビだった。老境に入っても決して枯れなかった二人の“おじいさん”の姿を堪能してほしい。
OB戦なんて言わせないぞ 『ラブリー・オールドメン/釣り大将LOVE LOVE日記(1995・米)』
隣り合わせに住むジョン(レモン)とマックス(マッソー)は50年来のケンカ友達。だが彼らの聖地である釣りえさ屋がイタリアン・レストランに改装されると聞いて一時休戦。協力してさまざまな妨害工作を敢行するが、マックスが店主のマリア(ソフィア・ローレン)にほれたことから事態は思わぬ方向へ…。抱腹絶倒のドタバタ・コメディー。
『恋人よ帰れ!わが胸に』(1966)から始まった名コンビの晩年の当たり役。前作『ラブリーオールドメン』(1993)よりもさらにパワーアップした老人力が炸裂する。
本作でもマッソーの意地悪に翻弄されるレモンという昔からの図式(例えば『おかしな二人』1968)は健在。まったくしょうがないじいさんたちだが、どこか子供じみていてかわいらしく、憎めないと感じさせるのがこの二人の素敵なところだ。レモンの父親役を演じたバージェス・メレディスのじいさんもすごい。
“監督”もするぞ 『コッチおじさん(1971・米)』
妻に先立たれ、老境を迎えたコッチ(マッソー)。息子夫婦は彼を老人ホームへ入れようとするが、まだまだ元気な彼は家を飛び出し一人暮らしを始める。だがそこに15歳で妊娠してしまった知り合いの娘が転がり込んできて…。
レモンの監督デビュー作。当時まだ中年だったマッソーが70歳という老け役に挑戦。頑固だが実は心優しい“おじいさん”を好演し、親友のデビューに花を添えた。
対してレモンは正攻法の演出でマッソーの演技力を引き立たせ、ここに名優同士の見事なキャッチボールが成立。役柄とは違い、実は二人は仲がいいのだ。
コッチとそりが合わない息子の嫁役を、私生活でのレモンの愛妻フェリシャ・ファーが演じているのはご愛きょう。
遺言はジョー・ディマジオ 『晩秋(1989)・米』
ウォール街で働く仕事人間のジョン(テッド・ダンソン)は、母倒れるの報を受けて久々に帰郷。母親は回復したものの、今度は元気だった父親(レモン)が寝込み、急激に衰えていく。家族の大切さに気づいたジョンは、仕事を辞めて故郷にとどまり父の看護をすることに。
父と子、そして孫の3代を通した家族愛が描かれるヒューマン・ドラマ。『アパートの鍵貸します』(1960)などで活躍したレモンが人生の黄昏を演じる姿は、ファンにとっては感慨深い。
中でも死の床で息子に、ニューヨーク・ヤンキースの往年の名選手、ジョー・ディマジオの逸話を遺言のように語るシーンは、アメリカの男にとってベースボールがいかに大きな存在であるかをあらためて知らされ、「名画投球術」的にも忘れ難い。
なおディマジオはアーネスト・ヘミングウェイ原作の『老人と海』(映画化は1958)でも象徴的に語られている。