渥美清の鼻歌の話
渥美清が東京と九州を結ぶブルートレイン「さくら」と「富士」の車掌・青木に扮した人情喜劇『喜劇急行列車』(67)を久しぶりに再見。
青木が、心臓の手術を控える乗客の少年に、「砂撒き管が壊れた蒸気機関車の奮闘ぶり」をしみじみと語り聞かせるシーンは、語り部としての渥美清の真骨頂が発揮される。後の寅さんの見事な語りのシーンにもつながるものがある。
妻役の“ビンチャン”こと楠トシエ、乗客役のWけんじ、三遊亭歌奴(現圓歌)、桜京美など、懐かしい昭和の喜劇畑の人々も登場する。
東映が製作した渥美清主演の「列車シリーズ」は3本に終わったが、監督の瀬川昌治は引き続き松竹でフランキー堺主演の「旅行シリーズ」(全11作)を撮っている。
どちらも、昔はテレビの年末年始映画の定番。旅と鉄道と喜劇が好きな人間にはたまらないごちそうだった。
ところで、渥美清が憧れの人である佐久間良子に長崎の街中を案内するシーンで「♪赤い花なら曼珠沙華 阿蘭陀屋敷に雨が降る♪」と歌っていた。聴き覚えがあったので調べてみるとこの曲は「長崎物語」だった。
と、ここからは渥美清の鼻歌の話になる。
渥美清といえば、『男はつらいよ』やテレビドラマ「泣いてたまるか」の主題歌の名唱が有名だが、例えば、『男はつらいよ』の第一作(69)で歌った「♪殺したいほど惚れてはいたが 指もふれずにわかれたぜ♪」の「喧嘩辰」など、実は劇中で何気なく口ずさむ鼻歌が抜群にうまい。
「男はつらいよシリーズ」では相当な数の鼻歌を披露しているはずだ。中でも『寅次郎 心の旅路』(89)のウィーンのドナウ川で歌った「大利根月夜」は絶品だった。
この当意即妙の鼻歌の多くは、粋で博識だった彼のアドリブではないかとも思うのだが、どうだろうか。