田中雄二の「映画の王様」

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渥美清の鼻歌の話 『喜劇急行列車』

2014-11-11 18:41:58 | 男はつらいよ

渥美清の鼻歌の話



 渥美清が東京と九州を結ぶブルートレイン「さくら」と「富士」の車掌・青木に扮した人情喜劇『喜劇急行列車』(67)を久しぶりに再見。

 青木が、心臓の手術を控える乗客の少年に、「砂撒き管が壊れた蒸気機関車の奮闘ぶり」をしみじみと語り聞かせるシーンは、語り部としての渥美清の真骨頂が発揮される。後の寅さんの見事な語りのシーンにもつながるものがある。

 妻役の“ビンチャン”こと楠トシエ、乗客役のWけんじ、三遊亭歌奴(現圓歌)、桜京美など、懐かしい昭和の喜劇畑の人々も登場する。

 東映が製作した渥美清主演の「列車シリーズ」は3本に終わったが、監督の瀬川昌治は引き続き松竹でフランキー堺主演の「旅行シリーズ」(全11作)を撮っている。

 どちらも、昔はテレビの年末年始映画の定番。旅と鉄道と喜劇が好きな人間にはたまらないごちそうだった。

 ところで、渥美清が憧れの人である佐久間良子に長崎の街中を案内するシーンで「♪赤い花なら曼珠沙華 阿蘭陀屋敷に雨が降る♪」と歌っていた。聴き覚えがあったので調べてみるとこの曲は「長崎物語」だった。

 と、ここからは渥美清の鼻歌の話になる。

 渥美清といえば、『男はつらいよ』やテレビドラマ「泣いてたまるか」の主題歌の名唱が有名だが、例えば、『男はつらいよ』の第一作(69)で歌った「♪殺したいほど惚れてはいたが 指もふれずにわかれたぜ♪」の「喧嘩辰」など、実は劇中で何気なく口ずさむ鼻歌が抜群にうまい。

 「男はつらいよシリーズ」では相当な数の鼻歌を披露しているはずだ。中でも『寅次郎 心の旅路』(89)のウィーンのドナウ川で歌った「大利根月夜」は絶品だった。

 この当意即妙の鼻歌の多くは、粋で博識だった彼のアドリブではないかとも思うのだが、どうだろうか。

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『嗤う分身』

2014-11-11 16:40:17 | 新作映画を見てみた

謎めいたところが魅力なのか!?



 原作はドストエフスキーの『分身(二重人格)』。小心で内気、要領の悪い主人公が、容姿はそっくりだが、性格は正反対の分身=ドッペルゲンガーに、仕事も生活も奪われていくという不条理劇。くせ者俳優のジェシー・アイゼンバーグが二役を演じる。

 監督のリチャード・アイオアディは、いつの時代とも、どこの場所とも判別できない不思議な空間を現出させ、イギリス人らしい皮肉とブラックユーモアで悪夢のような世界を描いている。工場のセットなどは、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』(85)をほうふつとさせるところもあるし、暗い色調など、映画全体としては先に公開された『複製された男』ともよく似ている。

 こういう映画は、シーンの意味を深く意味を考えたり、ストーリーを追ってはいけない。そもそも作り手自体が、分かりやすく…などということは毛頭考えずに作っているのだから。謎が解けなくても仕方がないのだ。

 挿入歌として日本の「上を向いて歩こう」(坂本九)や「ブルー・シャトー」(ブルーコメッツ)が使われているが、これも何故使ったのかは分からない。謎めいたところが魅力ではあるが、万人が好む映画ではないことも確か。

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