知人の紹介で、伊勢佐木町近くの横浜シネマリンに『レミニセンティア』という自主製作映画を見に行った。
この日は、終映後に監督の井上雅貴氏のトークショーも開催された。
本作が監督デビュー作となった井上氏は、イッセー尾形が昭和天皇を演じたアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』(05)にスタッフとして参加し、ロシアの映画製作を学んだという。
その時、通訳を務めたロシア人女性のイリーナさんと結婚。この映画は彼女がプロデュースし、娘の美麗奈ちゃんが重要な役で出演している。いわば本作は、ロシアを舞台に、家内制手工業で作られた映画なのだ。
タイトルの『レミニセンティア』はロシア語で「追憶」を表し、映画のキャッチコピーとしては「記憶の万華鏡」と訳されている。
そのことからも明らかなように、本作は人間の記憶をテーマに、少々哲学的なSF(少し不思議)話を展開させる。
簡単にストーリーを紹介すると、人の記憶を消す特殊な能力を持つ作家のミハエルが主人公。彼のもとには「記憶を消してほしい」という人々がやってくる。
ミハエルは金の代わりに人々の記憶(小説のストーリー)をもらうのだが、自身は幼い娘と過ごした過去が思い出せずに悩んでいた。そんなミハエルの前に、記憶を呼び起こす特殊能力を持ったマリアが現れる。というもの。
正直なところ、冒頭は独特のテンポや雰囲気に面食らい、睡魔に襲われたが、じわじわと引き込まれていき、最後は、面白いものを見せてもらったという思いに変化した。
舞台となったロシアの地方都市ヤロスラヴリの巨大工場、マンション、テレシコワ記念館などが、不思議な雰囲気を醸し出し、SF的な効果を存分に発揮している。
何より、ロシアという遠い国の風景がとても新鮮に映った。その点で言えば、この話を日本で撮らなくて正解だったと思う。
また、記憶、夢、水といった隠喩はアンドレ―・タルコフスキーの『惑星ソラリス』(72)を思わせるものがある。
終映後、その印象を監督に話すと、「不思議なことに、ロシアで映画を撮ると何故かあんな感じになってしまうんですよ」という答えが返ってきた。
もちろん、監督デビュー作ということもあり、粗削りな面や独りよがりなところも見られるが、独自のストーリー展開や映像美などを見ながら、将来性は十分にあると感じた。
横浜シネマリンで1月6日まで上映中。興味のある方はぜひ足をお運びください。↓
http://cinemarine.co.jp/