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映画「散り椿」@109シネマズ木場

2018-10-09 23:57:43 | 映画感想
2018/9/30、109シネマズ木場。
3番スクリーン。良い席は早々と埋まっていたので、中央通路2つ前のH列を選択。



岡田准一、西島秀俊、麻生久美子、黒木華、池松壮亮、緒方直人、新井浩文、富司純子、石橋蓮司、奥田瑛二



物語は享保年間(1716~1736年)の出来事。
今の富山地方にあったとされる扇野藩で藩政を揺るがす不正を告発した瓜生新兵衛(岡田准一)の訴えは
うやむやのうちに処理され、新兵衛は失意のうちに藩を出て、妻の篠(麻生久美子)とともに京に移る。

しかし、なおも刺客が新兵衛を襲うような日々。
最愛の妻、篠は病に倒れ、新兵衛に「散り椿を見てほしい」と言い残して死ぬ。

散り椿は、花びらが一枚一枚と落ちる種類の椿。「五色八重散り椿」というらしい。



ここで、物語の背景、新兵衛が藩を出たいきさつをおさらいしておく。
扇野藩は藩主の親家が高齢であることを良いことに、城代家老の石田玄蕃(奥田瑛二)が
藩の特産品和紙の独占販売を田中屋惣兵衛(石橋蓮司)に任せる代わりに上納金を着服し、さらに
嫡男である政家(渡辺大)を失脚させようと企んでいた。

新兵衛が訴え出た当時、平山道場に藩でも有名な四天王と呼ばれる剣豪がおり、その一人が瓜生新兵衛だった。
残りの3人は、現在は側用人である榊原采女(西島秀俊)、馬回り組頭、篠原三右衛門(緒方直人)、
そして訴え内容の責任を問われ切腹した当時の勘定方、坂下源之進(駿河太郎)だった。

一方坂下家の長女、篠は采女と恋仲であったが、采女の養母、滋野(富司純子)が猛反対し破局、
後に篠は新兵衛と結婚した経緯がある。

采女の養父である榊原平蔵は、不正の中心人物とされていたが、お咎めなく過ごしていた。
しかし、ある日、何者かに襲われて非業の死を遂げている。
滋野は不正が源之進の切腹で幕引きとなったことに腹を立てた新兵衛の仕業だと思い込んでいる。
何より藩を出たのがその証拠ではないかと考えていた。
坂下家は、源之進の切腹でそれ以上の責は問われず、長女の篠が新兵衛と結婚したのは前述通りだが、
次女の里美(黒木華)と弟の長男、藤吾(池松壮亮)はそのまま家にいる。
藤吾は源之進の死は新兵衛のせいだと思って、恨んでいる。



もう一つ藩の権力構造についても触れておく。
石田玄蕃は藩特産和紙を藩財政に利用し、政家は新田開発に注力したいと考えている。
藩は石田派と政家派の勢力争いで、新兵衛らはそれに巻き込まれたと言えなくもない。

映画では、原作にある石田派による庶子跡継ぎ候補の刑部一派の工作資金という一面は語られず、
もっぱら石田一派が汚職で私腹を肥やしていることになっている。
刑部の部分がすっぽり端折られているが、物語の簡略化単純化のためにやむを得ないものと思われる。



さて、物語は篠の死後、扇野藩に新兵衛が戻った所から再開される。

新兵衛は平山道場に向かった後、坂下家に向かい、篠の遺言である「散り桜」が見たいという。
しかし、季節は椿が終わったばかりで散り椿までは1年近くある時期だった。
新兵衛が藩に舞い戻った真意を計りかねた玄蕃と采女。
玄蕃は新兵衛を排除しようと考え、采女は真意を探ろうとする。

藤吾によれば、非業の死を遂げた篠原平蔵の斬り口は、四天王しか使えないとされる
「かげろう切り」(陽炎、蜻蛉)と見られ、それも新兵衛犯人説を強く示唆するものであった。

藤吾は新兵衛を疎ましく思うものの追い出すこともできないでいた。
季節が進むにつれ、剣の稽古に励む新兵衛の姿は藤吾の心にも響き、稽古をともにする仲となる。

そのうちついに政家が帰国。三右衛門が護衛して城に入る。
ここへきて石田玄蕃派は政家を亡き者にしようと動きを加速する。

果たして事態はどう動いていくのか。
はたまた新兵衛の狙いは本当に散り桜を見るだけなのか。

不正事件から榊原平蔵視察に至る事件の真実とは。



「剣岳 点の記」などの木村大作監督。
氏は撮影監督、カメラマンとしても有名で、CG嫌いともいわれる。
本作でも撮影を手掛けている。



散り椿とは単に椿の花が散ったものではなく、「五色八重散り椿」という種類で、
花弁が一枚一枚と散っていく種類だそうだ。

椿と言えば、花が全体がぼとっと落ちるものだとばかり思っていたから驚き。
椿を扱った映画はなんといっても「椿三十郎」もうすぐ四十郎だがな、ですが。



原作は葉室麟。
もともと原作とは異なるのが映画の常で、原作と違う展開にすることに異はない。
例えば原作に出て来る刑部が省かれているようだし、政家の父で現君主の親家も
病気だからだが、姿を現さない、などなど、人物相関も端折られるのはしょうがない。

これはこちらの理解不足でしかないが、聞き方が悪かったのか親家を政家の弟と勘違い。
姿は見せないので勘違いしてしまったが、兄派と幼い弟派のお世継ぎ騒動かと思った。

***

以下、戯言ですが、いくつか気になったことがあった。

ひとつは終盤近く、新藩主の政家が、藤吾に対し、
「篠原家を絶やすわけにはいかぬ。お前が美鈴の婿養子になり篠原家を継げ」というもの。
(聞き間違いで、実は采女の「榊原家を絶やすわけにはいかぬ」なら話は変わるが)

続けて、「坂下家は一旦絶えるが、息子を坂下家の養子にするがよかろう」と言うと
藤吾が男児が二人必要だ、と答え、政家が「励め」と言って笑いに包まれるシーン。

この藤吾を篠原家の養子とし坂下家を一旦絶やすやり方はちょっと納得がいかない。

仮に篠原家を藤吾に継がせるとしても里美を坂下家の戸主(女戸主)にできるはずだ。
ま、その場合いろいろとややこしいことがあるだろうから、藤吾を坂下家に
残したままのほうが都合が良いだろうが。

では、その場合、篠原家はどうするか。
篠原三右衛門が亡くなって美鈴が藤吾の家に身を寄せた時、台詞はなかったものの
男の子がいたではないか。
幼いながらもその子に篠原家を継がせれば、篠原家は安泰で藤吾は坂下家の戸主でいられる。

子供の髪形に記憶がないが、元服前のいわゆる前髪ではなかったような気もするので、
十分に跡目相続ができたであろうし、元服していなければ元服させればいい。
さらにそれでは、篠原家が心配であれば姉婿になる藤吾を後見人にすればよろしい。

それともあの子は全くの赤の他人で篠原家とも坂下家とも関係がないのか。



もう一つは、政家のお国入り。
確か「初のお国入り」と言っていたような気がした。
親家が病床に伏し余命いくばくもなく、政家に家督を譲って隠居するということで、
江戸住まいだった政家が新藩主として国に帰る、すなわち初のお国入りと推察する。
とすれば、大名行列が必要で、高々5、6騎の馬で国に入るのはおかしくないか。

さらに政家がお国入りする前に云々と言っていたのも合点がいかない。
そもそも、藩主の交代がその藩の都合だけで行えるわけではなく幕府の許認可を得るはず。

とすれば、政家が国入りを完了するかどうかが藩主交替の条件ではないだろうし、
仮にお国入りやその後の藩内視察などで藩主謀殺ともなれば、お家騒動で藩の一大事。
石田派の息のかかった藩主が生まれるとは限らず、下手すればお取り潰し、国替えなど、
とんでもないことになる可能性は城代家老ともなれば容易に想像がつくはずだ。

江戸時代、設定は享保15年(1730年)頃らしいが、そのころの武士や藩の扱いに関する
法がどうなっているのか、実務上どうだったのかなどなど自分に知識がなさ過ぎて、
疑問符ばかりが浮かんでしまう。

時代劇が必ずしも実態を表していないことは重々承知だが、当たらずとも遠からずなのか、
実際には違うけど物語の展開上その程度の脚色はまあいいんじゃないでしょうなのか、
いくら何でもそりゃないよ、なのかは、浅学菲才、無知薄学な私には分からない。



以下、ラストのネタバレに絡む感想。

で、こういうエンディングはどうかな、と言う私見だが、
里美は新兵衛を追って断られたが、そのままついていく、と言うのはどうか。
新兵衛も里美に篠を見た、などと言っているのだから、里美がごり押しすれば、
娶るとは言わないまでも、傍で世話をすることは認めてもらえたのではないか。

坂下家をいったん絶やそうが、藤吾に継がせようが、里美がどこへ嫁ぐかには
さほど影響がないと思われる。

里美もその覚悟があれば、旅支度をするなどして新兵衛を追えばよかったのでは。
(断られても無理やりついていく場合に備え、柄本時生(役名失念)を連れて行けばよい)

ただ、原作や映画の感想で里美、藤吾、美鈴、あるいは篠原家、坂下家に触れた意見が
全く見られないことから、この部分は大した意味はないのかもしれない。

それでも個人的には気にはなった。

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