江の島へは、よく行きます。今回はじめて知ってちょっとした驚きがありました。
江の島には、八方睨みの亀、亀石、亀岩と、カメの名がつくもののゆかりがあります。その中で「八方睨みの亀」は、神社の天井に張り付いている亀で、下から見ると、こちらの身体をどう動かそうとも、この亀に正面から睨まれてしまうものです。もっともこれには種明かしがあり、写真でも絵でも被写体の視線が正面にあるものは、見る者の視線がどう動こうとも正面から見つめられるようになります(試しに、誰かの正面を向いた写真でやってみてください)。
さて、小さな驚きはそういうことではなく、この作者です。賽銭を入れて掌を合わせ、天井を見る。四角い格子のある海の中を、とぼけた顔をしてゆうゆうと泳いでいる。海を泳いでいるのか天を泳いでいるのか。この発想は、思えば奇抜で素晴らしいものです。作者は、あの酒井抱一です。
今までも訪れているのに、うかつにも気が付きませんでした。ちゃんと亀の横に「抱一作」とあるではないか。酒井抱一といえば、あの「風神雷神」を描いた三大絵師の一人です。俵屋宗達が「風神雷神」を創り出し、あとを継いで尾形光琳が描き、酒井抱一は直接には宗達の「風神雷神」図を見ていないので、光琳の絵を見て模写したと言われています。この三絵師の「風神雷神」を見比べると、やはり最初に描いた宗達のものが圧巻です。実物を見ていて、飽きがくることがありません。光琳、抱一に下ってくるに従って戯画化し、コミック化してきます。神格から人、動物化してきます。
どうも愛嬌のある亀で、睨まれている気がしません。神格化から動物化して、むしろペットに思えます。ゆったりゆったり、宙を泳ぐさまは、まあ、ゆっくり生きましょうやと、ほっとさせるものがあります。亀は万年生きるそうですから、私たち人間とは、呼吸数が違うのでしょうね。
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