岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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戦死した若者を悼む歌:釈迢空の短歌

2015年05月03日 23時59分59秒 | 私が選んだ近現代の短歌
・兵隊は 若く苦しむ。草原の草より出でゝ、さゝげつゝせり

           『天地に宣る』1942年(昭和17年)所収

・戦ひにはてし我が子を 悔い泣けど、人とがねば なほぞ悲しき

            『倭をぐな』1959年(昭和34年)


 『天地に宜る』は戦中の刊行。表立って反戦の意思は表現できなかった。「兵隊は 若く苦しむ」と表現するのが精いっぱいだったのだろう。

 『倭をぐな』は釈迢空の死後に岡野弘彦らによって刊行されたものだ。「やまとをぐな」は「日本武尊」のもとの名で、クマソ征伐のあとに改名したと記紀神話に記述がある。父親の景行天皇に厭われ、諸国を転戦ののち戦地で病死したと伝わる。

 『倭をぐな』には戦死した、養子春洋の戦死を悼む作品が多い。記紀神話を戦争を悼む気もちで解釈したすえの命名だろう。

 二首目の歌意。「誰一人他人を咎めない」という表現が、切実で痛々しい。『倭をぐな』には次の作品もある。

・たゝかひに しゝむら焦げて死にし子を思ひ羨む 日ごろとなりぬ


・喰ふ物もなし誰びとか 民を救はむ。目をとぢて、謀反人なき世を思ふなり

 息子は戦死した。自身は食糧がない。「戦争の業火で焼かれたほうがよかった」とまで思う。こんな切実な表白があるだろうか。

 「謀反人なき」は『バグダッド燃ゆ』の岡野弘彦と同じ情感が表現されている。釈迢空と言えば、「葛の花」の歌が著名だが、戦争体験をこれぼど切実に表現した作品があるのは、現代に語り伝えられるべきものだろう。



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