「やんばるは雨」馬場あき子 『沖縄詩歌集』より。
・海みれば彼方に島見ゆ波照間(はてるま)と呼べば妹のごとくなつかし
・沖縄の入り口はここ洞窟に植物の香を放つ死者たち
・したたれる御嶽(うたき)の岩に向かひゐていくさよに死にし夫を問ふ人
・やんばるの夏の夜淡く明るくて月桃(げっとう)の葉を濡らす雨の香
・木の葉蝶がたべし名残のスズムシ草しどろに咲きてやんばるは雨
一首目。波照間とは沖縄本島のはるか西にある島。日本で唯一南十字星が見えるとされる。戦争中は島民が西表島に強制移住されて日本軍の守備隊が駐屯した。移住した住民はマラリアにかかって多くはなくなった。悲劇の戦績の一つと言っていい。「妹のごとくなつかし」。死者を悼む作品だ。
二首目。沖縄戦では洞窟で多くの悲劇があった。集団自決がそれであり、「島唄」でも歌われている。そこで死者たちが植物の香を放っている。死者が植物に乗り移っているのだろうか。
三首目。御嶽とは沖縄独特の祭祀施設。琉球王朝の時代に出来たとされるが、今でも信仰の場である。葬祭の儀式が行われることもあると聞いた。そこで戦死した夫を偲ぶ女性がいる。
四種目。やんばるの森。沖縄本島にある亜熱帯の森。ヤンバルクイナ、ノグチゲラなどが棲息する。沖縄戦ではこういうジャングルで多くの死者がでた。月桃、生姜の仲間の植物で、沖縄戦が終わった6月23日にの前後に咲いて散る花。
五首目。木の葉蝶は草食の絶滅危惧種の蝶。草を蝶が食べた。その名残に雨がしとどに降っている。死者を悼む涙の象徴だろうか。
これを6月の国会議事堂前の「民衆の歌大合唱」の「月桃の歌」を歌う前に音読した。沖縄戦を悼むためだ。「月桃の歌」は毎年の、沖縄戦慰霊の集いで歌われる歌である。