・結界はいずこぞ妻子奪いたる青澄む海に漁師頭(ず)を垂る
青木陽子作(国民文学)
2011年3月11日の東日本大震災は12都道府県で18.425人の死者、行方不明者を出した。
掲出の一首は死者を悼む作品だ。結界とは「ある特定の場所へ災いを招かないために作られる宗教的な線引き」(注連縄や葬儀の幕がそれにあたる)。
震災に妻子を奪われた漁師。男性だがその漁師が、青く澄んだ海に向かって、頭を下げている。祈りか落胆かはわからない。
作者はそれを目撃して作品化した。「結界はいずこ」とあるからには、作者は祈りを捧げているのだろう。
これ以上の説明は無用である。静かな祈りを捧げたい。
『東日本大震災歌集』でひときわ目を引く作品だ