・颱風(たいふう)のあらぶるなかに鶏の産卵の音しばらくきこゆ・
「地表」所収。1951年(昭和26年)作。
台風の風雨が激しい、自然の猛威が振るう。しかしその中でも鶏は産卵をする。おそらく産卵時の啼き声だろうが、「音」とした。「声」と「音」。
台風のあらぶるさまと鶏の産卵。意外な取り合わせだが、双方とも「自然の摂理」である。しかも聴覚をはりめぐらしている作者。そこが暗示的である。だから「声」よりもやはり「音」がよいだろう。
不思議な感覚の歌。「台風の風雨」と「鶏の産卵」の脈絡にこだわると、一首の魅力は感じとれないだろう。
ひとつのことに何か普遍的な意味が感じられる時それが象徴、と佐太郎は規定した。意外なものの組み合わせに、詩の味わいがあるとも言った。「意外なものの組み合わせ」は「象徴詩やシュールリアリズムの手法」のひとつだが、こういう感覚をたもちつつ、「写実」をしているところが、岡井隆のいう「象徴的写実歌」たる所以だろう。
昼か夜かは詠い込まれていないが、もし夜なら幻想的な印象、昼なら家に閉じこもっている印象。連想が連想を呼ぶ一首とは言えまいか。