岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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佐藤佐太郎45歳:台風のあらぶる中に聞いたものは

2010年10月26日 23時59分59秒 | 佐藤佐太郎の短歌を読む
・颱風(たいふう)のあらぶるなかに鶏の産卵の音しばらくきこゆ・

 「地表」所収。1951年(昭和26年)作。

 台風の風雨が激しい、自然の猛威が振るう。しかしその中でも鶏は産卵をする。おそらく産卵時の啼き声だろうが、「音」とした。「声」と「音」。


 台風のあらぶるさまと鶏の産卵。意外な取り合わせだが、双方とも「自然の摂理」である。しかも聴覚をはりめぐらしている作者。そこが暗示的である。だから「声」よりもやはり「音」がよいだろう。


 不思議な感覚の歌。「台風の風雨」と「鶏の産卵」の脈絡にこだわると、一首の魅力は感じとれないだろう。


 ひとつのことに何か普遍的な意味が感じられる時それが象徴、と佐太郎は規定した。意外なものの組み合わせに、詩の味わいがあるとも言った。「意外なものの組み合わせ」は「象徴詩やシュールリアリズムの手法」のひとつだが、こういう感覚をたもちつつ、「写実」をしているところが、岡井隆のいう「象徴的写実歌」たる所以だろう。


 昼か夜かは詠い込まれていないが、もし夜なら幻想的な印象、昼なら家に閉じこもっている印象。連想が連想を呼ぶ一首とは言えまいか。






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