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岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

「短歌研究」4月号:特集 斎藤茂吉

2012年03月28日 23時59分59秒 | 総合誌・雑誌の記事や特集から
 特集は4部構成。4人のエッセイ、3人の座談会、23人の1首鑑賞、年譜。

 内容が豊富なのだが、特に4人のエッセイに注目した。


:茂吉・佐太郎から学んだこと:尾崎左永子

 「いま、さまざまな方向から斎藤茂吉が見直されはじめている。まもなく茂吉の没後60年人になる現在、何故茂吉なのか。それは、現代の新しい歌人たちがどっぷり浸って来た前衛短歌の時代的影響から脱け出て、むしろそれ以前の短歌の、歴史的な価値を見直そうとする現象の一つなのかもしれない。」

「戦後、いわゆる『第二芸術論』によって文壇、評論家から不当に圧迫された時期、すでに老境にあり疎開先で逼迫していた茂吉は、戦争協力者としての精神的迫害によく耐えたが、当時の作に、次の作がある。」

・短歌ほろべ短歌ほろべといふ声す明治末期のごとくひびきて・

「(茂吉没後の)昭和29年、ジャーナリズムの押し出した中城ふみ子、寺山修司の作品が大きなインパクトを与え、一方、青年歌人会議が超結社で結成され、それを足がかりとして前衛短歌が勢いを持つ。塚本邦雄、岡井隆、寺山修司、春日井建。あるいは前登志夫。」

「同じ『アララギ』系でも、島木赤彦、土屋文明系と、斎藤茂吉系とでは、ほとんど水と油なのは知るひとぞ知る事実だが、茂吉系の佐藤佐太郎は、当時、その寡黙な東北人気質もあって、ともあれ生活を削ってまで短歌の創作に打ち込み、作品に賭けた。」

「現在、歌壇はひとつの曲がり角にさしかかっている感がある。おそらくはまた、新しい前衛運動が起る時が来るのだろう。しかし、私が揺らぐことは無い。いま、私自身が享けついで来た短歌への態度は、一瞬一瞬の生に賭けること。そのことと思っている。」

 (=歌壇の戦争責任を一人で背負ったという意味で、精神的迫害だったと僕も思う。島木赤彦、土屋文明と、斎藤茂吉との「写生論」の違いは、カテゴリー「写生論アラカルト」を、「曲がり角」については昨日の記事を、それぞれ参照して頂きたい。)


:茂吉の歌の読み方:岡井隆

「まづは、茂吉の本を手にとって読むことから始まるだらう。」

1・岩波文庫「斎藤茂吉歌集」、「斎藤茂吉歌論集」、「斎藤茂吉随筆集」。

2・「斎藤茂吉選集」(岩波書店・全20巻)

3・「斎藤茂吉全集」(岩波書店)

 ことあるごとにもとの歌集を手にとるやうにしてゐる。

・最終歌集「つきかげ」を例に。

「戦中戦後の生活史のやうなものを背景として『つきかげ』の歌は、より具体的に、読まれる読まれるであらう。」

「佐太郎の『茂吉秀歌』を読みながら『つきかげ』への理解を深めるのはいいことであらうが、さしあたり、わたしたちは、茂吉の歌のよさを知るのに、・・・一首一首の歌に、素手でぶつかる方法といふのがあり、わたしはそれでいいのではないかと思ふ。」

 (=僕の方法は文庫本に「素手でぶつかり」、そのあと「茂吉秀歌」(佐藤佐太郎著)、「斎藤茂吉の秀歌」(長沢一作著)、「茂吉秀歌・全5巻」(塚本邦雄著)、「作歌40年」(「斎藤茂吉全集」第10巻)で背景を知る。)

「茂吉の魅力を知るには、やはり、わたしたちが、現代に生きて、作歌してゐる現実の上に立って、切実な問題意識をもって茂吉を読むところからしか、それは成就されないだらう・・・」

 (=言葉を選んでいるが、戦中の言動と現代からの視点ということに含みを残している。茂吉の言葉の真似をするなどというのを、戒めているのだ、と僕はとった。)


:具体を超越した傷み:栗木京子

「(15年戦争に)敗れたこの国を悲しみながらも、どうか見守っていてほしい。そんな心の底から振り絞るような茂吉の声が聞こえて来る。」

 (=やはり、茂吉と戦争とは切りはなせないようだ。)


:昭和7年の斎藤茂吉:大辻隆弘

「負債問題、金銭問題、病院の経営、煩瑣な人間関係・・・・。昭和7年の茂吉は人間が生きていく上で遭遇せざるを得ないそれらの雑事を淡々と受け入れ、淡々と処理しているように見える。」

 (=そうか。僕は1933年(昭和8年)の茂吉に注目して、土屋文明との違いを論じ記事にしたのだが。やはり戦中の問題は切り離せない。)


 やはり斎藤茂吉の作品を読むのには、現代の視点と戦中の言動のことと、この二点がはずせないようだ。


*僕の第一歌集「夜の林檎」は品切。福家書店若葉台店に残部一冊。
   第二歌集「オリオンの剣」は、同店に残部一冊、アマゾンにも出品中。
   第三歌集「剣の滴」(かまくら春秋社)は、アマゾン、楽天books、
        live door books、などのほか、全国の書店で注文できます。*


付記:< カテゴリー「歴史に関するコラム」「身辺雑感」「短歌史の考察」「短歌の周辺」「作歌日誌」「作家論・小論」「斎藤茂吉の短歌を読む」「茂吉と佐太郎の歌論」「写生論アラカルト」「岩田亨の短歌自註」「新カナ・旧カナをめぐって」 >をクリックして、関連記事を参照してください。


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