・氷塊のせめぐ隆起は限りなしそこはかとなき青のたつまで・
「冬木」所収。前後の作品から知床の海ということが分かる。
流氷に覆われた海は、白・白・白の連続である。その流氷は絶えず動いている。互いに衝突しするときはおそろしいほどの力がはたらく。そして褶曲山脈がそうであるように、隆起をかたちづくる。色はやはり白である。そこに「そこはかとなき青」があらわれるという。(たつ=顕つ=見えなかったものが現れる)
光の具合か、水の色か、空の色か。それはどれでもよい。作者にはそのように見えたのである。那智の滝が傾いて見えたようにである。
それともうひとつ。「そこはかとなき青」が「たつ」だけでなく、そこに「まで」がついていることにも注意が必要だ。「青のたつまで」が3句目の「限りなし」と対応している。それほど「限りない」のである。自然科学的な説明は不可能である。その意味で極めて感覚的である。岡井隆をして「象徴的」と言わしめたのは、こういうところだろう。
叙景歌だが、上の句の実景を下の句の感覚的表現が支えているとも言える。「そこはかとなき」が声調を整え、全体が大きく揺らいだようになっている。この音楽性にも注意が必要だろう。