岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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黄昏の鱗翅目の歌:小中英之の短歌

2010年04月06日 23時59分59秒 | 私が選んだ近現代の短歌
・黄昏にふるるがごとく鱗翅目ただよひゆけり死は近からむ・

 「翼鏡」所収。

 「鱗翅目」は蝶と蛾の類。どちらでもいいが、「蝶」と表現した場合、やや表現が甘くなる。「死は近からむ」の表現からして「蛾」の印象があるが、「黄昏・・・」とのかねあいで見ると「蝶」のような気もする。

 「写実派」の場合「あいまい」という批評がなされるところだが、斎藤茂吉の歌にも「菊」と言わずに「菊科」としたのが確かあったと思う。

 「黄昏にふるるがごとく」とあるから、夕暮れに弱弱しく飛んでいるのだろう。「死は近からむ」というのは、その「鱗翅目」のことだろう。これを「秋の蝶」と言ってしまっては台無しである。

 これも「写実派」であれば「死とは誰の死か、作者か蝶か」と批評されるだろう。

 前後関係からみて「鱗翅目の死が近い」ということになろうが、どこか作者自身を重ねているようで、暗示的である。

 言葉遣いは「線が太い」という印象が残る。それがこの一首の魅力でもあろう。




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