・黄昏にふるるがごとく鱗翅目ただよひゆけり死は近からむ・
「翼鏡」所収。
「鱗翅目」は蝶と蛾の類。どちらでもいいが、「蝶」と表現した場合、やや表現が甘くなる。「死は近からむ」の表現からして「蛾」の印象があるが、「黄昏・・・」とのかねあいで見ると「蝶」のような気もする。
「写実派」の場合「あいまい」という批評がなされるところだが、斎藤茂吉の歌にも「菊」と言わずに「菊科」としたのが確かあったと思う。
「黄昏にふるるがごとく」とあるから、夕暮れに弱弱しく飛んでいるのだろう。「死は近からむ」というのは、その「鱗翅目」のことだろう。これを「秋の蝶」と言ってしまっては台無しである。
これも「写実派」であれば「死とは誰の死か、作者か蝶か」と批評されるだろう。
前後関係からみて「鱗翅目の死が近い」ということになろうが、どこか作者自身を重ねているようで、暗示的である。
言葉遣いは「線が太い」という印象が残る。それがこの一首の魅力でもあろう。
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