産油国や新興国 「国営」ファンド攻勢
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ドバイ政府系の投資会社などが集まる「ドバイ国際金融センター(DIFC)」(中村宏之撮影) |
産油国や新興国政府が運営する「政府系投資ファンド(SWF)」が、巨額のオイルマネーと外貨準備を元手に先進国の有力企業へ投資攻勢をかけている。米財
務省の推計では、運用総額は1・5兆~2・5兆ドル(175兆~292兆円)。先進国の間では、自国の主要企業が外国政府の支配下に組み込まれたり、金融
市場に思わぬ影響が出たりすることに警戒感が広がっている。19日からワシントンで開かれる先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)でも、規制のあり
方などが議論される見通しだ。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ取引所は9月20日、米ナスダック市場を運営するナスダック・ストック・マーケットの株式約20%を取得し、筆頭株主になると発表した。その直後から米議会で買収を懸念する声が噴出した。
「外国政府が米経済のインフラに大きな影響を持ってしまう」(チャールズ・シューマー上院議員)
ナスダックは、ソフトウエア大手のマイクロソフトなど米国を代表する企業が上場し、時価総額4兆ドル(468兆円)と世界4位の証券市場だ。資本市場の心臓部を外資に握られることに議会の危機感は強い。
米議会は昨年、UAE系のSWFが手がけたニューヨークなど米主要6港の管理会社の買収に、テロ対策などの安全保障上の理由から反対し、買収断念に追い込んでいる。
今年7月には、他国企業による米国企業の買収を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の強化法案を可決し、30日の審査期間を案件によって75日まで延長できるようにした。ナスダックの案件も審査にかけられる見通しだ。
ドイツ政府も、SWFによる買収を制限する立法措置の導入を検討中だ。特に先端技術やメディア、エネルギーなど国益に直結する部門への投資を恐れ
ている。メルケル首相は「SWFの目的は利益を最大化することだけではなく政治的な影響力もある」と、投資が外交の道具となることに警戒感をにじませる。
多くのSWFが資産額や運用方針などを明示していないことにも批判がある。欧州連合(EU)のホアキン・アルムニア欧州委員は「投資対象や基準を明らかにできない場合、相応の対応をとる」と警告する。
19日からのG7会合では、中国やUAEの代表を招き、運用実態などを開示するよう求める見通しだ。米財務省も国際通貨基金(IMF)と世界銀行による合同作業部会を設置して、SWFの透明性やガバナンス向上に向けた指針を策定する腹案を固めている。
(ワシントン 矢田俊彦、ロンドン 中村宏之)
注目は2000億ドルの外貨準備を原資に9月に発足した中国政府系ファンド「中国投資有限責任公司」。中国の外貨準備は9月末で1兆4336億ドルで、このうち6000億ドル以上が余剰資金との見方もある。
オイルマネーではUAE系ファンドの動きが目立つ。欧州航空防衛宇宙大手EADSなどに出資したドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)のサ
ミール・アル・アンサリ最高経営責任者(CEO)は「投資対象は業界トップ3までの会社。日本についても現在、そうした企業を検討している」と話す。
50~60%を欧米、20%をアジア、20%を中東に投資する方針だという。
1974年に設立されたSWFの老舗、シンガポールのテマセク・ホールディングスは、企業などへの積極投資で知られる。資産額は2007年3月末
で1638億シンガポール・ドル(約13兆円)と設立時の500倍近くに膨らんだ。02年以降の株式投資の年間利回りは38%と驚異的だ。 (北京 寺村
暁人、シンガポール 実森出)
(2007年10月15日 読売新聞)