日常

ブレヒト『コーカサスの白墨の輪』

2013-06-13 00:13:03 | 芸術
東京ノーヴイ・レパートリーシアターの『コーカサスの白墨の輪』というお芝居を見てきました。


素晴らしかった!本当に感動した!
今後、東京ノーヴイ・レパートリーシアターの方々のお芝居を継続的に見たい!と心から思った。

先日、田口ランディさんの出版祝いでこの劇団の方とお知り合いになり、その御縁で早速見に行ったのです。仕事終わらせて行けてよかったー。





場所は両国・シアターXカイ
昔、チェーホフの芝居を何度か見に行った覚えがある。


芝居小屋での狭く暗い空間。
観客と舞台と、場を一体化させるのに程良い大きさ。


絶妙で軽妙な語りと共に芝居は動く。
語りの横では声や音で拍子を合わせる女性たち。


進行が音楽的。リズミカル。
その世界観に、異次元へと一気に引き込まれた。


芝居の中では、笑いやユーモアがちりばめられていたのが最高だった。

閉塞した時代にこそ、「笑い」は最高の特効薬。
「笑い」は、閉じた世界に「開け」を起こす。口から笑みが漏れる時、世界は開かれる。
日本神話の古事記でも、アメノウズメというカミサマが裸で踊る。そのおかげでアマテラスは天岩戸から出てきて、この世は暗闇から光の世界へと戻る。そうして闇から光へと世界は反転し「開かれ」が起きる。実際、アメノウズメは芸能のカミサマとなった。



芝居の台詞、方言がメインだったのもリズムに一役かっていた。
土着的で親近感がわく。方言には何とも言えない包容力がある。建前ではなく本音の持つ力というか。
自分も熊本生まれなので、九州弁も最高だった。愛を感じた。


最後の出演者全員の踊りも、不可思議な踊りが面白かった。
なぜか「韃靼人の踊り」を思い出した。イスラムのスーフィズムみたいな感じでもある。


ブレヒト『コーカサスの白墨の輪』の前日にドストエフスキー「白痴」もやっていたけど見れなくて残念。
ただ、次回も開催されるようなので必ず行きたい。


あと、今回の芝居ですごいのは、今回の公演はたった1000円で見れた、ということ。
こんなに質の高いものを1000円で見れるなんて信じられない。
本当に贅沢な時間とお金の使い方だと思った。あのお芝居の労力たるや・・。







『コーカサスの白墨の輪』の原作はブレヒト
ドイツの詩人であり劇作家でもあるらしい。芝居にうとい自分は初めて知った。



外人だとチェーホフくらいしか、まともに見たことがないかもしれない。


ブレヒトは、役への感情移入を基礎とする従来の演劇を否定して、出来事を客観的・批判的に見ることを観客に促す「叙事的演劇」を提唱したらしい。
その方法として、見慣れたものに対して奇異の念を抱かせる「異化効果」を始めとするさまざまな演劇理論を生み出し、戦後の演劇界において大きな影響力を持ったとのこと。






今回の劇団は東京ノーヴイ・レパートリーシアター。

NOVYI(ノーヴイ)とは、ロシア語で「新しい」。「新しい演劇芸術を創造していく」意味があるとのこと。
2004年、演出家レオニード・アニシモフのもと、3つの劇団(特定非営利活動法人劇団京、ペレジヴァーニエ・アートシアター、スタジオ・ソンツェ)が結集して作られたと、HPにあった。



ロシアの演劇理論、スタニスラフスキー・システム(Stanislavski System)は、ランディさんからときどき聞いていた。

スタニスラフスキー・システム(Stanislavski System)では、舞台上でいかに「俳優ではなく生きた人間」として存在できるか、インスピレーションを得る事ができるかを考え続けた末に生まれた演技方法らしい。


究極的に、「自分を成長させる道具」としているのはとても好きだ。

ユング心理学を自分が好きなのも似ている。
ユングは、自我Egoから自己Selfへと自分の全体性を獲得していくプロセスを「個性化の過程」とする。その手段がユング心理学。自分の心を見つめるための心理学であって、相手の行動を心理学で無理やり説明したり当てはめたりするためのものではない。



スタニスラフスキー・システムも、それぞれが「生きた人間」として躍動するための演劇理論だ、ということに非常に興味を持った。
今後、実際に演劇を見に行きながら、色々と学びたい。




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ということで、東京ノーヴイ・レパートリーシアターは素晴らしい劇団でした。是非体感してみてくださいね。
「体験」や「体感」は、脳でこしらえた理屈を越えます。



芸術には、すごい力がありますよね。
「いい」とされているものに対して「本当に、いいの?」と常識を疑うきっかけを与える。
「わるい」とされているものを、いつのまにか「いい」ものへと反転させる風力を与える。

みんなが歩いている安全で広い道に対して、狭いけど面白く愉快な道を切り開く。

こういう世界で地道に表現を続けている方々に敬意の念を覚えます。
こういう方々が、「文化」や「芸術」を見えないところで縁の下で支えているのだ、と強く感じます。





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<東京ノーヴイ・レパートリーシアター日誌>より
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ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』で開幕します!!

演劇人なら誰もが知っているドイツの詩人であり劇作家、ブレヒトに取り組んでいます。

「人間的であることは危険だ!」

という彼の「考え」に新鮮な驚きを感じながら、日々稽古は進んでいます。

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生きる事を恐れるな!
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この作品は、産みの母親と育ての母親が、子供の手を両方から引き合い、本当の母親を決めるという「大岡越前」でもおなじみの中国の昔話を基に、戦争を背景に独自の視点で書き上げた寓話劇です。

ブレヒトは、ナチス政権下に、あえて誰をモデルにしたかが解る風刺を込めた作品を上演し、人生の大半を亡命先での創造活動に費やしました。
『コーカサスの白墨の輪』は三度に渡り書き直され、人間の持つ「負の感情」「弱さ」「醜さ」を無邪気にそしてエネルギッシュに突きつける作品として、観る者を『力強く生きる』ことへと駆り立てます。

この公演では、魂に語りかける歌い手、シャンソン歌手の渡辺歌子さんを客演にお迎えし、作品を高みに向かわせるお手伝いを頂いています。
衣裳は『白痴』の作品創りに加わって頂きました衣装デザイナー時広真吾氏にアドバイスを頂き、音楽には我々の創造活動に欠かせない音楽家、後藤浩明氏。
発音発声指導には、声優の永井一郎氏、橘貴美子氏にご協力頂いております。

領主の息子ミハイルもすでにロシアより来日(?)し、皆様にお目にかかるのを楽しみにしています。

東京ノーヴイ・レパートリーシアターの新たな挑戦にご期待ください。


2 コメント

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ざわざわする! (まーこ)
2013-06-13 09:47:40
去年から、現象学にとても興味があるので、「ブレヒト」と聞いて「おお!」と心がざわつきましたです。ブレヒト、フッサールとかメルロー・ポンティとか、読みたくて仕方ないのですが、諸事情により今は我慢。むむむ。

黒坂先生のお茶とお花のお稽古は、毎回現象学っぽいって思います。
ニーチェも、現象学と繋がってないですか?ニーチェ、今までなんとなく読まずにきてしまったのですが、読んでみたら超絶好み!で、最新のマイブームは今更ながらニーチェです。三島由紀夫もニーチェだよね?と思って検索すれば『三島由紀夫とニーチェ』という本がヒット。やっぱりぃ~!絶版でしたが中古で即買い。著者の青海健さんは、名古屋出身、私と同じ誕生日の方でした・・・縁って不思議!

読みたい本、見たい映画は尽きないから、あとどれくらい読めるだろう・・・って遠い目になることがありますが、自分に必要な本には必要な時期に出合えると信じたい。ウンベルト・エーコ様も「自分の本棚にある本を、必ずしも全部読む必要はないんだ」って言ってたしねっ。
そんな迷える私にとって、本ソムリエ・イナバさんは本当にありがたい存在です。感謝!

舞台っていいですよね。息子が、学校の発表会で自作コントを披露してウケた経験から、舞台に目覚めて、小さな劇団で毎週演技の練習をしています。いつも今だけを生きている彼にとって、舞台はとても相性がいいと感じます。
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即今、当初、自己 (いなば)
2013-06-16 08:45:17
>>>>>まーこさん
「ブレヒト」、さすがご存知ですか!
戯曲関係は、やはりいきなり活字で入っても分かりにくいですよね。生きた芝居で見て、それから活字で再確認、という方がより頭に入る樹がします。
安部公房とか三島由紀夫も、戯曲の作品多いですが、そういう意味でいつも頭にはいらんなーとか思ってました。


現象学、面白いですよね!
竹田青嗣さんの「現象学入門」(NHKブックス)はいいですよね。

あと、現象学で思い出しちゃうのが河合隼雄大先生の「影の現象学 (講談社学術文庫)」これはとんでもない本ですよね。
最近、河合先生熱が再燃して固め読みしてます・・・


メルロポンティは、なるほどフランス人だなぁというかっこよさがありますよね。詩人のような言葉。
ただ、フッサールの現象学もそうですが、本人自体の著作は難しそうで読んだことありません・・・解説書が主です。




ニーチェ、僕もあまり読んだことなかったのですが、光文社古典新約文庫で『ツァラトゥストラ』読んだら、面白い!と再確認。ここからは「道徳の系譜学」「善悪の彼岸」とかも出てて、一応買って、部屋に積んだタワーの一部分を形成してあります・・・。


【自分に必要な本には必要な時期に出合えると信じたい。】
自分も同じ心境。アマゾンでネットサーフィンするのも楽しいですが、リアル本屋に行くと止まらなくなり、さらに神保町で古書のワンダーランドに行くとさらに止まりません。昨日は20分ほど短時間で立ち寄った神保町の澤口書店で、シュタイナーの本を横尾さんが装丁したシリーズを見つけて即買い!(ルドルフ・シュタイナー選集 第2巻 『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』(シュタイナー選集 第 2巻)(1988/5)
)  本の装丁って、すごく好きです。文庫にはない良さがあります。


【いつも今だけを生きている彼にとって、舞台はとても相性がいいと感じます。】
ほんとそうですよね。過去も未来も、現代文明が作りだした新しい感覚であると同時に、そこに縛られているのが現代でもある、と思いますよね。
古代文化や先住民の暮らしをしている人の文化を見ると、ほとんどが「今」の感覚しかないのを学びます。ヤノマミもそうですし。 しかも、禅での悟りは、ある意味で『今と此処』に集中することから始まりますし。 禅で言う所の「即今、当初、自己」ってやつですね。

一回性のハプニングも含んでいるところが、舞台は生々しくていいなーって思います。
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