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登山家ラインホルト・メスナーが原作の「ヒマラヤ運命の山」(原題:NANGA PARBAT)という映画を見てきた。
-------------------------
<内容>
1970年6月、若き登山家メスナー兄弟はヒマラヤ山脈のナンガ・パルバット(標高8125m)への初登頂を果たす。
しかし登頂成功から1週間後、キャンプ地に戻ってきたのは兄ラインホルトだけで、弟ギュンターの姿はなかった。
下山途中の兄弟に起こったある悲劇が、ドイツの国中を騒がすスキャンダルへと発展していく。
ナンガ・パルバット初登頂者をめぐる裁判のためこれまで語られていなかった事実を、メスナー本人の協力により映画化。
監督: ヨゼフ・フィルスマイアー
原作: ラインホルト・メスナー
-------------------------
■
日本の山野井泰史さんと並び、ラインホルト・メスナー(Reinhold Messner, 1944年~)は個人的に最も尊敬するイタリアの登山家のひとりです。
超人メスナーの登山の記録は圧倒的です。
1970年、この映画のテーマとなるナンガ・パルバット (8125m)に登頂。
1975年、ガッシャーブルムI峰で世界で初めて8000メートル峰をアルパインスタイルで登頂。
1978年、ナンガ・パルバットで世界で初めて8000メートル峰をベースキャンプから単独・アルパインスタイルで登頂。
同じ1978年、ハーベラーとのコンビで人類初のエベレスト(8848m)無酸素登頂に成功。
1980年、エベレスト無酸素単独登頂に成功。
1986年、初の8000メートル峰全14座完全登頂(無酸素)を成し遂げてるのです。
登山をしてない人にはマニアックな知識かもしれませんが、
・ヒマラヤを酸素なしで登った。(当時、無酸素で人間が登ることは不可能だと思われていた)
・単に登っただけではなくて、アルパインスタイルと言う、登山の中で一番美しいスタイルで登った。
・この世界に8000メートル以上の山は14座ありますが、すべてを無酸素で登った。
この辺りだけ覚えてもらえれば完璧です。
メスナーが追求したアルパインスタイルというのは、大勢の隊員で大量の物資を少しずつ荷上げして登頂するスタイルではなくて、最小限の食糧と装備だけで単独で登っていく究極のスタイルです。
個人で完結したシンプルでもっとも厳しいスタイル。
メスナーがこのスタイルをとるようになったのも、1970年に集団で登ったナンガ・パルバットの苦い経験があるからです。
極限の登山では、究極的な判断が迫られます。それぞれ登山能力も体力も精神力も違う。一瞬の判断が生死を分ける。
そういう極限の登山では、自分が自分一人の生命を守るのが精一杯なのです。
1978年にメスナーとハーベラーがエベレスト無酸素登頂に成功してから、医学の教科書が書き換えられました。
それまでは、人間が無酸素で8000m以上の地帯で生存することは不可能だと言われていたのですから。
人間のすごさ、偉大さを感じます。
学校で学ぶ医学や学問は、そういう偉人たちが限界を押し広げることによって少しずつ作られたもの。絶対的なものではないのです。
メスナーの登山スタイルを映像で見たことがありますが、8000mでも近所を歩くようにスタスタと軽やかに歩いているのは驚愕でした。
体格も、ヨガ行者のように痩せています。すべてが常人離れしています。
■
メスナーは建築学科を出ているだけあってインテリです。客観的な視点から冷静に自分の登山を記述します。
その簡潔な文章はリズムがあり、登山での激しい精神の高揚をじっと息を潜めて抑えている文体には迫力があります。(心は熱く、頭は冷静に)
メスナーの本はかなり読みこみました。
○『第7級―極限の登攀』(山と渓谷社,1974年)
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○『ナンガ・パルバート単独行』(山と渓谷社,1981年)
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○『死の地帯』(山と渓谷社,1983年)
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・・・他にもいろいろあります。
■
「ヒマラヤ運命の山」(原題:NANGA PARBAT)の映画の件ですが、ともかくすごかった。
映像美もすごいし、メスナー自身が監修しているだけあって迫力がすごい。映画の世界に完全に引き込まれた。
メスナーが生きて下山してくるところ、足が凍傷になって食料もなく極限状態で這って下山するシーンには泣けました。
弟のギュンターを亡くすシーンにも泣けました。
メスナーが「サードマン」と言われる、霊魂と言うか幻と言うか、そういうものを見る映像もさりげなく入っています。
この件については、
○ジョン ガイガー「奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」」新潮社 (2010/09)
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という本もいつか紹介したいなと思います。この世界には分からないことがたくさんあります。
平均的なひとを見てわかることもあるし、極限のひとを見てわかることもある。
わかることは海岸の砂粒くらいで、わからないことは大海原のように広大。だからこそ、この世界はおもしろいのでしょう。分からないことには謙虚でありたいものです。
■
映画を見て、極限の世界を見て、<ああ自分は甘えてるなぁ>と、ふと思いました。
自分の全存在を燃焼して、登山にすべてをかける生き様はかっこいい。素直にそう思います。
それは冒険家の植村直巳さんの本を読むときも思うのです。
登山家や冒険家の圧倒的に純粋な生き方を見ていると、自分の生命の奥底が燃焼してくるのを感じるのです。
自分はあそこまで完全燃焼できているだろうか。
極限状態を生きのびた人に比べれば、自分はまだまだ色々とやるべき仕事がたくさんあるんじゃないだろうか。
天から授かったこの生命。完全燃焼して生きていかないと失礼なのではないか。
人はそれぞれ違う。全員が全員違う。
顔も見かけも生い立ちも人生も違う。健康な人もいれば病気で苦しんでいる人もいる。富む人も貧しい人もいる。
いろんな立場の人がいて、いろんな状態の人がいる。
そんな中での自分の人生。
この授かりものの生命を、燃焼させて生きていかないと人生そのものに対して失礼なのではなかろうか。
・・・・そんな色んな想いが複雑に去来しました。
映画を見ていると、自分がナンガ・パルバートの冬山に閉じ込められているような感覚になりました。
自然の圧倒的な姿。その中での人間の絶対的な孤独。
その中で、生き延びること。生きようという強い意思を持ちづけること。
生きようという強い意志が、真の意味で人間を生きさせるのだということ。
それが、<生きている>という状態と、<生きる>という状態との違い。
世界最高レベルの登山家の生き様から、生きる姿勢として学ぶべきことは多い。
自分への挑戦。自分の限界を広げるための登山。自分の成長のために。
<純粋な生命の燃焼>を感じました。
■
いやはや。ほんとによかった。
東京でも、有楽町と池袋でしかやってないからか満員御礼でした。
観客に山好きの人が多いからか、なんとも言えない熱気があった。
山をやっている人はもちろん、山をやってない人でも楽しめると思います。極限の世界を垣間見てください。普段の悩みも吹き飛びます。
自分的に、いまのところ本年度ベストの映画です。単に登山が好きだからなのかもしれませんし、メスナーが好きだからなのかもしれません。
でも、登山をしたことがないひとが見たとしても、圧倒的にいい映画だと思います。
P.S.
BBCが『アース』『オーシャンズ』に続いて、ネーチャードキュメンタリーの映画『ライフ』が9月1日から封切になります。
これも楽しみにしています。やはり、自然の映像美は映画の大画面で見たい。
さらに感動的なことに、ミスチルの『蘇生』が主題歌に使われているのです。これは見ないわけにはいきません。
自然は美しくもあり恐ろしくもある。
ただ、それは単に人間がそういう感情を投影するだけの問題だと思います。
自然は、人間とは関係なく畏怖すべき対象として常にそこにあるだけ。
そして、そこに常にすべてがあるんだと思います。
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=====================
Reinhold Messner
「目の前の山に登りたまえ。山は君の全ての疑問に答えてくれるだろう。」
=====================
「重要なのは、エベレストの頂上に立ったか否かではない。そこに至る過程で何を経験したかだ。」
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「もしあなたに『なぜ生きているのですか』とたずねたら、何と答えますか。私にとって登山と生きることとの間に違いはありません。」
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「私はクライミングをスポーツという面ではなく、創造的活動という面で見ています。
私のクライミングに自分の能力も恐れも表現したいのです。私のクライミングは実際に芸術活動なのです。
ルートは残り、だれかがそこへ行って同じ体験をすることができます。
良い岩壁の良いルートは芸術作品です。それは人生のようなものです。」
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<内容>
1970年6月、若き登山家メスナー兄弟はヒマラヤ山脈のナンガ・パルバット(標高8125m)への初登頂を果たす。
しかし登頂成功から1週間後、キャンプ地に戻ってきたのは兄ラインホルトだけで、弟ギュンターの姿はなかった。
下山途中の兄弟に起こったある悲劇が、ドイツの国中を騒がすスキャンダルへと発展していく。
ナンガ・パルバット初登頂者をめぐる裁判のためこれまで語られていなかった事実を、メスナー本人の協力により映画化。
監督: ヨゼフ・フィルスマイアー
原作: ラインホルト・メスナー
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■
日本の山野井泰史さんと並び、ラインホルト・メスナー(Reinhold Messner, 1944年~)は個人的に最も尊敬するイタリアの登山家のひとりです。
超人メスナーの登山の記録は圧倒的です。
1970年、この映画のテーマとなるナンガ・パルバット (8125m)に登頂。
1975年、ガッシャーブルムI峰で世界で初めて8000メートル峰をアルパインスタイルで登頂。
1978年、ナンガ・パルバットで世界で初めて8000メートル峰をベースキャンプから単独・アルパインスタイルで登頂。
同じ1978年、ハーベラーとのコンビで人類初のエベレスト(8848m)無酸素登頂に成功。
1980年、エベレスト無酸素単独登頂に成功。
1986年、初の8000メートル峰全14座完全登頂(無酸素)を成し遂げてるのです。
登山をしてない人にはマニアックな知識かもしれませんが、
・ヒマラヤを酸素なしで登った。(当時、無酸素で人間が登ることは不可能だと思われていた)
・単に登っただけではなくて、アルパインスタイルと言う、登山の中で一番美しいスタイルで登った。
・この世界に8000メートル以上の山は14座ありますが、すべてを無酸素で登った。
この辺りだけ覚えてもらえれば完璧です。
メスナーが追求したアルパインスタイルというのは、大勢の隊員で大量の物資を少しずつ荷上げして登頂するスタイルではなくて、最小限の食糧と装備だけで単独で登っていく究極のスタイルです。
個人で完結したシンプルでもっとも厳しいスタイル。
メスナーがこのスタイルをとるようになったのも、1970年に集団で登ったナンガ・パルバットの苦い経験があるからです。
極限の登山では、究極的な判断が迫られます。それぞれ登山能力も体力も精神力も違う。一瞬の判断が生死を分ける。
そういう極限の登山では、自分が自分一人の生命を守るのが精一杯なのです。
1978年にメスナーとハーベラーがエベレスト無酸素登頂に成功してから、医学の教科書が書き換えられました。
それまでは、人間が無酸素で8000m以上の地帯で生存することは不可能だと言われていたのですから。
人間のすごさ、偉大さを感じます。
学校で学ぶ医学や学問は、そういう偉人たちが限界を押し広げることによって少しずつ作られたもの。絶対的なものではないのです。
メスナーの登山スタイルを映像で見たことがありますが、8000mでも近所を歩くようにスタスタと軽やかに歩いているのは驚愕でした。
体格も、ヨガ行者のように痩せています。すべてが常人離れしています。
■
メスナーは建築学科を出ているだけあってインテリです。客観的な視点から冷静に自分の登山を記述します。
その簡潔な文章はリズムがあり、登山での激しい精神の高揚をじっと息を潜めて抑えている文体には迫力があります。(心は熱く、頭は冷静に)
メスナーの本はかなり読みこみました。
○『第7級―極限の登攀』(山と渓谷社,1974年)
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○『ナンガ・パルバート単独行』(山と渓谷社,1981年)
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○『死の地帯』(山と渓谷社,1983年)
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・・・他にもいろいろあります。
■
「ヒマラヤ運命の山」(原題:NANGA PARBAT)の映画の件ですが、ともかくすごかった。
映像美もすごいし、メスナー自身が監修しているだけあって迫力がすごい。映画の世界に完全に引き込まれた。
メスナーが生きて下山してくるところ、足が凍傷になって食料もなく極限状態で這って下山するシーンには泣けました。
弟のギュンターを亡くすシーンにも泣けました。
メスナーが「サードマン」と言われる、霊魂と言うか幻と言うか、そういうものを見る映像もさりげなく入っています。
この件については、
○ジョン ガイガー「奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」」新潮社 (2010/09)
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平均的なひとを見てわかることもあるし、極限のひとを見てわかることもある。
わかることは海岸の砂粒くらいで、わからないことは大海原のように広大。だからこそ、この世界はおもしろいのでしょう。分からないことには謙虚でありたいものです。
■
映画を見て、極限の世界を見て、<ああ自分は甘えてるなぁ>と、ふと思いました。
自分の全存在を燃焼して、登山にすべてをかける生き様はかっこいい。素直にそう思います。
それは冒険家の植村直巳さんの本を読むときも思うのです。
登山家や冒険家の圧倒的に純粋な生き方を見ていると、自分の生命の奥底が燃焼してくるのを感じるのです。
自分はあそこまで完全燃焼できているだろうか。
極限状態を生きのびた人に比べれば、自分はまだまだ色々とやるべき仕事がたくさんあるんじゃないだろうか。
天から授かったこの生命。完全燃焼して生きていかないと失礼なのではないか。
人はそれぞれ違う。全員が全員違う。
顔も見かけも生い立ちも人生も違う。健康な人もいれば病気で苦しんでいる人もいる。富む人も貧しい人もいる。
いろんな立場の人がいて、いろんな状態の人がいる。
そんな中での自分の人生。
この授かりものの生命を、燃焼させて生きていかないと人生そのものに対して失礼なのではなかろうか。
・・・・そんな色んな想いが複雑に去来しました。
映画を見ていると、自分がナンガ・パルバートの冬山に閉じ込められているような感覚になりました。
自然の圧倒的な姿。その中での人間の絶対的な孤独。
その中で、生き延びること。生きようという強い意思を持ちづけること。
生きようという強い意志が、真の意味で人間を生きさせるのだということ。
それが、<生きている>という状態と、<生きる>という状態との違い。
世界最高レベルの登山家の生き様から、生きる姿勢として学ぶべきことは多い。
自分への挑戦。自分の限界を広げるための登山。自分の成長のために。
<純粋な生命の燃焼>を感じました。
■
いやはや。ほんとによかった。
東京でも、有楽町と池袋でしかやってないからか満員御礼でした。
観客に山好きの人が多いからか、なんとも言えない熱気があった。
山をやっている人はもちろん、山をやってない人でも楽しめると思います。極限の世界を垣間見てください。普段の悩みも吹き飛びます。
自分的に、いまのところ本年度ベストの映画です。単に登山が好きだからなのかもしれませんし、メスナーが好きだからなのかもしれません。
でも、登山をしたことがないひとが見たとしても、圧倒的にいい映画だと思います。
P.S.
BBCが『アース』『オーシャンズ』に続いて、ネーチャードキュメンタリーの映画『ライフ』が9月1日から封切になります。
これも楽しみにしています。やはり、自然の映像美は映画の大画面で見たい。
さらに感動的なことに、ミスチルの『蘇生』が主題歌に使われているのです。これは見ないわけにはいきません。
自然は美しくもあり恐ろしくもある。
ただ、それは単に人間がそういう感情を投影するだけの問題だと思います。
自然は、人間とは関係なく畏怖すべき対象として常にそこにあるだけ。
そして、そこに常にすべてがあるんだと思います。
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Reinhold Messner
「目の前の山に登りたまえ。山は君の全ての疑問に答えてくれるだろう。」
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「重要なのは、エベレストの頂上に立ったか否かではない。そこに至る過程で何を経験したかだ。」
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「もしあなたに『なぜ生きているのですか』とたずねたら、何と答えますか。私にとって登山と生きることとの間に違いはありません。」
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「私はクライミングをスポーツという面ではなく、創造的活動という面で見ています。
私のクライミングに自分の能力も恐れも表現したいのです。私のクライミングは実際に芸術活動なのです。
ルートは残り、だれかがそこへ行って同じ体験をすることができます。
良い岩壁の良いルートは芸術作品です。それは人生のようなものです。」
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ただひたすら感動!同感!
登山しない人にもやっぱり伝わる映画なんですねー。うれしい。