安倍政権は前から女性活躍を言ってましたし、筆者も日本の引越し慣行が女性のキャリア形成を邪魔をしているのではないかと何度か指摘しましたが、今年は首相公邸に女性論客4人を招いて【新春2018年 安倍晋三首相と語る】という対談で象徴的に示したように、「日本はまだまだやれるもっとやりたい」という首相の強い意志を感じましたので、じゃあもうちょっとやってみようかと思った次第です。筆者はそもそも適任ではありませんが、放置していても中々進まない感じですし、保守派でこういう問題に正面から取り組もうという人もあまりいないようですので、やってみる価値はあるのではないかと思いました。
参考書は「日本の労働市場 経済学者の視点」(有斐閣 2017)で第6章「女性の活躍が進まない原因 男女賃金格差からの検討」(原ひろみ 日本女子大学家政学部准教授)のパートを下敷きに考察を進めていきます。所詮は付け焼き刃ですので、あまり体系だった内容にはならず、本に書いている内容を頭から自分なりに箇条書きで纏めていって、自身の考察を付け加える形で進めます。
①労働力率は50%程度だった1975年から上昇傾向にあり、2015年には67%となっている。男女間賃金格差は1990年を60(男性の6割しか給料を貰っていない)だったが、2015年には73となっている。
何かイメージと異なりますね。政治家や企業のトップ、事務次官など上の上に女性がほとんど見当たらないから女性が活躍していない印象が強いですが、国民の大きな流れとしてはずっと改善傾向にあります。この理由は日本の女性が高い教育を受けていることから、自然な流れで働き、能力があるから給与が増えていると考えるのが妥当であるように思います。
②ストックでの高学歴割合は男女間格差が大きい(2012年の15歳以上人口の最終学歴構成を見ると、男性は大卒割合が28%で院卒が3%、女性は大卒割合が12%で院卒は1%)。フローに当たる大学進学率はやや男性が上回るものの、現在では4%程度の差である。
出世するには先輩の引き立ても必要ですから、男性社会を続けてきた結果が女性の活躍を妨げているひとつの要因でもあるのでしょう。ストックは直ぐに変化するという性質のものではありませんから、ストックが女性の活躍を妨げているとしても(そんな気はしますが)、急激に改革を断行することは難しいということにはなるとは思います。フローの大学進学率はもっと差が大きいというデータも見つかりますが、これは圧倒的に女性が多い短大を含むか含まないかの問題のようです。高等専門学校は男性の進学がかなり多いですが、規模が短大より随分小さいので、含んでも含まなくても大勢に影響しません。フローも質的には大きく改善の余地はありそうです。
③大学教育の内容に男女差は大きい。男女共に社会科学系の学部に在籍する学生の割合が最も高いが(男性38%、女性25%)、男性は工学(23%)、保健(9%)、人文科学(9%)と続くが、女性は人文科学(21%)、保健(17%)、教育(10%)と続く。
保健が女性が多いのは多分数が多い看護師が含まれほとんど女性だからではないかと思います。理工系が男性社会で、人文科学は女性が多いもイメージ通りです。男性は数学の能力があって理系で、女性が言語能力があって文系のイメージがあると思いますが、妥当と言えるか検索してみました。
なぜ理系に進学する女子が少ないか(プレジデントオンライン 2013.11.27 東北大学大学院医学系研究科教授 大隅 典子)
言語的推理は女性が強く説明能力は一般に女性が高いと言えそうですが、それ以外の分野では上位も下位も多いのが男性で、能力にバラつきが少ないのが女性と言えるようです。ノーベル賞が男性の独壇場になり易いのはこの辺の理由があるのかもしれませんが、世の中のほとんどの人はノーベル賞など無縁な訳で、男女の能力の違いを強調し過ぎることは、高い能力を持つ多くの女性の力を眠らせてしまうことに繋がりかねないと思われます。ノーベル賞が男性が多いとしてもだから男性の能力が高いのだと言ってしまうと、テロリストは男性ばかりだから男性はテロリストということになってしまいます。並外れた能力を持つ人も並外れて能力がない人も数は多くありません。体力格差は兎も角、男女間でそれほど能力格差はないという基本認識に立つべきでしょう。そう考えると、日本の女医の少なさは気になります(医者は高収入の代名詞です)。
女性医師の年次推移 - 厚生労働省
2ページ目を見ると、OECD諸国のデータですから欧米中心ですが、日本(と韓国)は断トツで女医が少ない傾向です(日本18%、韓国19.3%)。アメリカも30.8%ですから女医は少ない方ですが、それに比べてもなお低い。これは日本においては医者のモデルとしてブラックジャックのような手術が得意なスーパードクターが採用されてきたことと無関係ではないと思います。空間認識能力は一般に男性上位とされますから、男性医師の方が手術で命を預けるには適している傾向があるのは否めないでしょうが、医者が手術ばかりをしているかと言えばそんなことはない訳で、女医は増えて何の問題もないのではないかと考えられます。開業医なんかは長男相続の慣習の壁もあるかもしれませんが、勤務医が能力だけで選ばれるなら客観的に見て男女差は(手術の巧拙を除き)ほとんどないのではないかと思われます。日本の大学最難関は東大理Ⅲ(ほぼ医学部)とされ女性の入学はごく少数のようです。女性の能力が低いとは思いませんが(学生時代女性がテストできないなんて思うことはなかった訳ですが)、やはり男性の方が並外れて能力がある人は多く、結果的に男性の方が能力が高いという誤解が広まっているのではないかと思われます。ズバ抜けて勉強ができる人を医者にするのも微妙ですが、医者は山ほど必要な訳で東大理Ⅲの医者ばかりで医療は回せませんから、能力だけを考えてももっと女医は増えていいんじゃないかという気はしますね。
いずれにせよ、男性と女性は大学進学の時点で目指す学部に違いがあり、生徒(中高)の段階で男性の方がより稼ぐ仕事を意識しており、短大の女性の多さから考えても、女性が専業主婦という選択肢を意識しているのではないか(そもそも一家を養えるだけ稼ごうと思っていない)と考えられます。ですから、高い能力を持つ女性に活躍してもらうことを考えるなら、生徒の段階での学習や進路相談ぐらいから見ていかないと、社会に出てからの対処療法では十分ではないということになるだろうと思います。
④職業能力開発は質量ともに男女格差がある。そもそも職業能力開発を受けるのは正社員でも非正社員でも男性の方が多い。企業による従業員教育には、日常の業務につきながら行う教育訓練(On The Job Training)と、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(Off The Job Training)があるが、Off-JTにおいて男性が受けるのは、管理者向け研修、評価者訓練、コーチング、ロジカルシンキングの研修、女性が多く受けているのはビジネスマナー等の基礎知識や社内の事務手続き・ルールに関するものである。訓練にはコストがあるので、継続的な雇用が見込める男性の訓練が多くなる。
この辺は筆者も指摘してきていますが、女性が何処を目指しているかにもよると思うんですよね。出産を機に辞めることを否定はしませんけれども、そういった女性に訓練を施したいと思っている企業はないと思います。女性が活躍するためには、女性が例えば会社で出世する意識を持つことが必要条件のはずです。女性に様々なハンディがあるのは間違いありませんから、そこのところを殊更強調するべきでもなく、社会の側でも女性活躍を可能にする条件を整えていくことが必要でしょう。例えば日本の引越し慣行は事実上家庭を持つ女性のキャリアの分断を招きますから、女性活躍の大きな障害になっていると考えられます。何でも適性はあるでしょうが、人口の半分であるところの女性の能力を眠らせておくというのはもったいない話です。
ひとまず以上です。筆者にはありがちですが、当初の予想より時間がかかるテーマでしたので分割します。できれば3分割程度で連休中に終わらせたいところですが、自信はありません。
参考書は「日本の労働市場 経済学者の視点」(有斐閣 2017)で第6章「女性の活躍が進まない原因 男女賃金格差からの検討」(原ひろみ 日本女子大学家政学部准教授)のパートを下敷きに考察を進めていきます。所詮は付け焼き刃ですので、あまり体系だった内容にはならず、本に書いている内容を頭から自分なりに箇条書きで纏めていって、自身の考察を付け加える形で進めます。
①労働力率は50%程度だった1975年から上昇傾向にあり、2015年には67%となっている。男女間賃金格差は1990年を60(男性の6割しか給料を貰っていない)だったが、2015年には73となっている。
何かイメージと異なりますね。政治家や企業のトップ、事務次官など上の上に女性がほとんど見当たらないから女性が活躍していない印象が強いですが、国民の大きな流れとしてはずっと改善傾向にあります。この理由は日本の女性が高い教育を受けていることから、自然な流れで働き、能力があるから給与が増えていると考えるのが妥当であるように思います。
②ストックでの高学歴割合は男女間格差が大きい(2012年の15歳以上人口の最終学歴構成を見ると、男性は大卒割合が28%で院卒が3%、女性は大卒割合が12%で院卒は1%)。フローに当たる大学進学率はやや男性が上回るものの、現在では4%程度の差である。
出世するには先輩の引き立ても必要ですから、男性社会を続けてきた結果が女性の活躍を妨げているひとつの要因でもあるのでしょう。ストックは直ぐに変化するという性質のものではありませんから、ストックが女性の活躍を妨げているとしても(そんな気はしますが)、急激に改革を断行することは難しいということにはなるとは思います。フローの大学進学率はもっと差が大きいというデータも見つかりますが、これは圧倒的に女性が多い短大を含むか含まないかの問題のようです。高等専門学校は男性の進学がかなり多いですが、規模が短大より随分小さいので、含んでも含まなくても大勢に影響しません。フローも質的には大きく改善の余地はありそうです。
③大学教育の内容に男女差は大きい。男女共に社会科学系の学部に在籍する学生の割合が最も高いが(男性38%、女性25%)、男性は工学(23%)、保健(9%)、人文科学(9%)と続くが、女性は人文科学(21%)、保健(17%)、教育(10%)と続く。
保健が女性が多いのは多分数が多い看護師が含まれほとんど女性だからではないかと思います。理工系が男性社会で、人文科学は女性が多いもイメージ通りです。男性は数学の能力があって理系で、女性が言語能力があって文系のイメージがあると思いますが、妥当と言えるか検索してみました。
なぜ理系に進学する女子が少ないか(プレジデントオンライン 2013.11.27 東北大学大学院医学系研究科教授 大隅 典子)
言語的推理は女性が強く説明能力は一般に女性が高いと言えそうですが、それ以外の分野では上位も下位も多いのが男性で、能力にバラつきが少ないのが女性と言えるようです。ノーベル賞が男性の独壇場になり易いのはこの辺の理由があるのかもしれませんが、世の中のほとんどの人はノーベル賞など無縁な訳で、男女の能力の違いを強調し過ぎることは、高い能力を持つ多くの女性の力を眠らせてしまうことに繋がりかねないと思われます。ノーベル賞が男性が多いとしてもだから男性の能力が高いのだと言ってしまうと、テロリストは男性ばかりだから男性はテロリストということになってしまいます。並外れた能力を持つ人も並外れて能力がない人も数は多くありません。体力格差は兎も角、男女間でそれほど能力格差はないという基本認識に立つべきでしょう。そう考えると、日本の女医の少なさは気になります(医者は高収入の代名詞です)。
女性医師の年次推移 - 厚生労働省
2ページ目を見ると、OECD諸国のデータですから欧米中心ですが、日本(と韓国)は断トツで女医が少ない傾向です(日本18%、韓国19.3%)。アメリカも30.8%ですから女医は少ない方ですが、それに比べてもなお低い。これは日本においては医者のモデルとしてブラックジャックのような手術が得意なスーパードクターが採用されてきたことと無関係ではないと思います。空間認識能力は一般に男性上位とされますから、男性医師の方が手術で命を預けるには適している傾向があるのは否めないでしょうが、医者が手術ばかりをしているかと言えばそんなことはない訳で、女医は増えて何の問題もないのではないかと考えられます。開業医なんかは長男相続の慣習の壁もあるかもしれませんが、勤務医が能力だけで選ばれるなら客観的に見て男女差は(手術の巧拙を除き)ほとんどないのではないかと思われます。日本の大学最難関は東大理Ⅲ(ほぼ医学部)とされ女性の入学はごく少数のようです。女性の能力が低いとは思いませんが(学生時代女性がテストできないなんて思うことはなかった訳ですが)、やはり男性の方が並外れて能力がある人は多く、結果的に男性の方が能力が高いという誤解が広まっているのではないかと思われます。ズバ抜けて勉強ができる人を医者にするのも微妙ですが、医者は山ほど必要な訳で東大理Ⅲの医者ばかりで医療は回せませんから、能力だけを考えてももっと女医は増えていいんじゃないかという気はしますね。
いずれにせよ、男性と女性は大学進学の時点で目指す学部に違いがあり、生徒(中高)の段階で男性の方がより稼ぐ仕事を意識しており、短大の女性の多さから考えても、女性が専業主婦という選択肢を意識しているのではないか(そもそも一家を養えるだけ稼ごうと思っていない)と考えられます。ですから、高い能力を持つ女性に活躍してもらうことを考えるなら、生徒の段階での学習や進路相談ぐらいから見ていかないと、社会に出てからの対処療法では十分ではないということになるだろうと思います。
④職業能力開発は質量ともに男女格差がある。そもそも職業能力開発を受けるのは正社員でも非正社員でも男性の方が多い。企業による従業員教育には、日常の業務につきながら行う教育訓練(On The Job Training)と、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(Off The Job Training)があるが、Off-JTにおいて男性が受けるのは、管理者向け研修、評価者訓練、コーチング、ロジカルシンキングの研修、女性が多く受けているのはビジネスマナー等の基礎知識や社内の事務手続き・ルールに関するものである。訓練にはコストがあるので、継続的な雇用が見込める男性の訓練が多くなる。
この辺は筆者も指摘してきていますが、女性が何処を目指しているかにもよると思うんですよね。出産を機に辞めることを否定はしませんけれども、そういった女性に訓練を施したいと思っている企業はないと思います。女性が活躍するためには、女性が例えば会社で出世する意識を持つことが必要条件のはずです。女性に様々なハンディがあるのは間違いありませんから、そこのところを殊更強調するべきでもなく、社会の側でも女性活躍を可能にする条件を整えていくことが必要でしょう。例えば日本の引越し慣行は事実上家庭を持つ女性のキャリアの分断を招きますから、女性活躍の大きな障害になっていると考えられます。何でも適性はあるでしょうが、人口の半分であるところの女性の能力を眠らせておくというのはもったいない話です。
ひとまず以上です。筆者にはありがちですが、当初の予想より時間がかかるテーマでしたので分割します。できれば3分割程度で連休中に終わらせたいところですが、自信はありません。