21世紀の定員内不合格(№04)
《孤立・無力・透明にはさせない》
二つの中学校の「適応指導教室」というところに13年間いた。
その間に、つきあった中3の子どもたちのうち、高校に行かなかった子は二人しか記憶がない。
一人は病気で受験の前に亡くなった。
もう一人は、これ以上親父の世話になって生きたくない、と就職を選んだ。
他の子どもたちは、みんな高校生になった。
「不登校」で、自分の学籍のある中学校には通えなかったのに、高校にはみんなが行く、という。
◇
保育園の次は、みんなで小学生になり、みんなで中学生になってきた。
その途中で、少しつまずいて、少し休憩して、みんなより少し歩みがおくれた。
でも、中学の次はみんなが高校生になる。そこから大人への道が続いている。
子どもたちの目にはそういう未来が見えている。
いや、この社会は子どもたちが幼いときから、そういう大人への道を教えてきた。
もちろん、ただ形だけ「みんな同じ」を求めているんじゃない。
形だけ「みんな同じ」を求める学校だったからこそ、「不登校」という形を生きてきた子どももいる。
「不登校」という立場の生きづらさ、社会の冷たいまなざしを、みんな身を持って知っている。
その子たちが、高校には行きたい、という。
それは、形だけ、「みんなと同じ」を求めているんじゃない。
自分の人生を自分で決める、最初の覚悟の一つとして、高校に挑戦する、という形と思いがある。
高校は義務教育じゃない。義務じゃない。
みんな義務で、学校に行かされている訳じゃない。
それなら、自分の意思で、自分の人生を切り開く一歩として、高校生から始めようとおもう子たちがいた。
◇
その子どもたちを、「定員」が空いているのに、受けとめない「高校」、受けとめない「教員」、そんなことがあり得るか?
何のために高校はあるのか。
何のために教員という大人たちは、そこにいるのか。
{ここで結論を言わないと気がすまないから、言っておく。
「定員」が空いているのに15才の子どもを門前払いする高校の校長も教員も、やっぱりかなりの「人権侵害」する大人だと思う。
家庭から子どもを捨てる親=虐待する親、と同じくらい、「高校」から子どもを捨てる教師は、子どもを虐待する教師だと思う。}
「誰の目にもとまらず、誰にも知ってもらえず、どちらを向いても安全に感じられないというのは、何歳の人にも著しく有害だが、…子供にとってはなおさらだ。
彼らはまだ、世の中に自分の居場所をみつけようとしているところだからだ。」(※1)
◇
東京の中学校で、不登校の子どもたちとつきあいながら、自分の生徒を全員、高校生にしてあげられる、ということ。
その大人としての安心感と、その「大人の安心」を感じながら中学時代を過ごせる子どもの安心感。
「定員内不合格」を出さない高校がある、ということ。
「定員内不合格」を出さないのが当たり前のことだという常識をもつ教員が多数派だという社会。
それは、高校生になれない、という形で、「孤立」させる子を、一人も出さないでいられる、ということだった。
それは、高校生になれない、という形で「無力」だとおもう子を、一人も出さないでいられる、ということだった。
それは、高校生になれない、という形で「透明」にされる子を、一人も出さないでいられる、ということだった。
「誰の目にもとまらず、誰にも知ってもらえず、どちらを向いても安全に感じられないという思い」を、誰にもさせずにすんだということだった。
「世の中に自分の居場所をみつけようとして」いた子どもたちに、とりあえずの十代後半の仲間のいる場所を用意してあげられた、ということだった。
(※1)「身体はトラウマを記憶する」ベッセル・ヴァン・デア・コーク 紀伊國屋書店
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