《なっちの現場検証 2》
「現場検証」のことは、お見舞いに行ったとき、なっちにも話しました。
なっちママが言うには、「本人はどうして事故に合ったのかぜんぜん分かってない」と。
だから、ちゃんと教えないとまた…。
でも、どうしたら…。
片足がなくなりそうな事故からまだ数日。
なっちが事故の状況を覚えてないのは、当然のことに思えました。
「なっち、大変だったね~。退院したら、もう車にぶつからないように調べにいこうか」
「うん」
なっちは、とても素直にうなずきました。
なっちとのつきあいは約6年になりますが、このときほど素直ななっちに会ったことはありませんでした。
その時、聞いた事故の状況は以下のようなものでした。
◇事故に合ったのは、自宅付近ではなく、おばあちゃんの家の近く。
◇おばあちゃんと一緒に歩いていた。
◇道路の反対側のペットショップにお母さんがいるのが見えた。
◇二車線の道路のなっち側は渋滞していて、自動車はみんな止まっていた。
◇その車と車の間を、「おかあーさん」と呼びながら駆け抜けて…。
◇ペットショップで背中を向けていたなっちママの耳に、
「おかあさーん」と、呼ぶ声が聞こえ、
振り向こうとした瞬間…。
◇振り向いた瞬間、「死んだ」と思ったそうです。
◇泣き叫ぶお母さんの声に、なっちは必死に起き上がろうとしました。
◇何事もなかったことにしようと、何度も起き上がろうとしたそうです。
それからなっちママは、このままじゃ絶対にまた事故にあうと心配します。
学校に行く途中でも、何度も危ない場面が何度もあったと。
だから、このままじゃ絶対にまたぶつかる…。
こうして思い出して言葉にするだけで、私も落ち着かなくなります。
でも怖がっているだけでなく、ただ交通ルールを守ることを教えるだけでなく、「なっち」にとって必要なことを伝えるには、なっちがどう「危なさ」に無頓着なのかを知らなくてはいけません。
なっちが「使える注意」を、私たちが理解しなければならないのです。
◇
一昨日、なっちの家に行きました。
まず驚いたのは、家のすぐ前が4車線の国道だったことです。
4車線ともひっきりなしに車が走っています。
なっちの両親にいろいろ聞きました。
「このマンションはいつから?」
「なっちが生まれた時から」
「なっち、この道路を歩いて渡ることはあるの?」
「ない」
「中学はこの道路の向こう側だよね…」
「そう。でもさすがにこの道路は渡らない。向こうの信号か、向こうの歩道橋を渡る…」
「もし、少し車がまばらになったりして、急いでいるとき、なっちがここを渡ることってあるかな…」
「ないと思う。ここは渡らない」
絶対にまた交通事故に合う!という割に、「この道路を渡ったりはしない!」いう返事は確信に満ちていました。
ちなみに、私の印象では2年生、3年生ころのなっちは天下一品の落ち着きのない、人のいう事を聞かない、鉄砲玉のような子どもでした。
落ち着きがないというより、好奇心が服を着ているような子ども。
だから、小さいころには、一度や二度、道路に飛び出しかけたことがあっても不思議じゃないと思ったのです。
でも、それがない、ということは、自動車の危険性は小さいころから分かっているということです。
◇
それから学校までの通学路や、家の周りをなっちと一緒に歩いてみました。
なっちママは言います。
「ここを歩いているときも、道の真ん中を歩いて、後ろなんか全然気にしてないし…」
「いや、この道路なら、子どもやおばさんは真ん中を歩くでしょ。」
「でも、けっこう車もくるし…」
「でも、ここでひかれたことはないんでしょ」
途中、事故と同じような2車線の道路がありました。
「ここは? 信号や横断歩道以外で渡ることはあるの?」
なっちパパに聞きました。
「ないですね」
「たとえば、なっちが向こう側にいて、お母さんお父さんをこっち側に見つけた時、渡ろうとしたりってあるかな?」
「それもないなぁ。あのたこ焼き屋の先とか、信号以外、渡らないなぁ」
「…そうなんだぁ」
家の周りや、通学路を歩きながら、私の気持ちは落ち着いていきました。
途中、部活帰りの子どもたちが「なっちだー」と声をかけてくれて、なっちは自分で車椅子をこいで走っていきました。
子どもたちの埋もれて、なっちは幸せそうでした。
「そういえば、お母さんが言ってた、通学路で何度もぶつかりそうになったり、他の子が教えてくれたなっちの危険な場所ってどこ?」
「あそこ、あそこ」
なっちママが指差した場所は、車一台が通るのがやっとの道路の十字路でした。国道への抜け道に使う車が、けっこうスピードを出すのでちゃんと一時停止しないと危ない!のだと言います。
「だけど、今まで、ぶつかったことはないんだよねー」
「でも、危なかったことは何度もあるって、周りの子どもたちもいうし」
「だけど、ぶつかってはいないんだよねー」
学校までの通学路と、寄り道通学路を歩きながら、私にはなっちがふつうに学校に通っている姿がしっかりイメージできました。
ピンポンダッシュした家も、いかにも「ピンポンしてください♪」って感じの家だったり。ふつうに道草しながら通う姿が浮かびました。
少なくとも、お母さんが心配しているような「無謀さ」や「危険に無頓着」であることはないと思いました。
(つづく)
《補足》
これを書く前に、今日の事故の記事を読みました。
通学路に車がつっこむ事故。
◇
【交通事故:小学生の列に車、小3軽傷…茨城・守谷】
31日午前7時50分ごろ、茨城県守谷市・・の市道で、集団登校するため道路脇に集まっていた小学3~5年の児童6人の列に軽乗用車が突っ込んだ。
一番後ろにいた小学3年生の男児(8)が両ひざなどを打って軽傷を負った。
県警取手署は・・容疑者(22)を自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕した。
毎日新聞 2012年1月31日
他にも、最近の事故を少し拾っただけで次々と見つかります。
◇
【登校中の列に車、小学生3人けが--那珂の市道交差点 /茨城】
19日午前7時40分ごろ、那珂市菅谷の市道交差点で、登校中の小学生6人の列に軽乗用車が突っ込んだ。5年生の女児(11)と男児(10)、4年生の女児(10)の計3人が手足に擦り傷を負った。
那珂署は、軽乗用車を運転していた・・容疑者(29)を自動車運転過失傷害の疑いで現行犯逮捕した。
同署によると現場はセンターラインのない幅約4メートルの直線道路。小学生らは横断歩道を渡り、約100メートル先の小学校に向かう途中だった。
・・容疑者は通勤途中で、同署の調べに対し、「太陽がまぶしくて気付くのが遅れた」と話しているという。
◇
【小学生の列に車突っ込む、女児2人けが 習志野】
15日午前8時ごろ、千葉県習志野市谷津5の市立谷津小正門前の横断歩道で、登校中の小学生の列に乗用車が突っ込み、小学3年の女児2人がひざを打撲するなどの軽傷を負った。
県警習志野署は・・容疑者(72)を自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕・・。
同署などによると、青信号の横断歩道を児童7人が渡っていたところ、車が突っ込み、はねられた女児(9)と、その女児に当たった別の女児(8)が病院に運ばれたという。
・・容疑者は「信号を見落とし、突っ込んでしまった」などと容疑を認めているという。
毎日新聞 2011年12月15日
◇
【加西小学生死亡:小池容疑者を起訴 自動車運転過失致死で】
兵庫県加西市の県道で12月10日夜、飲酒運転の軽トラックに小学生の兄弟がはねられ死亡した事故で、神戸地検は・・容疑者(54)を自動車運転過失致死などの罪で神戸地裁に起訴した。
起訴状などによると、・・被告は同夜、複数の飲食店で飲酒後、呼気1リットル中0.4ミリグラムのアルコール分を含んだ状態で軽トラックを運転。
午後11時5分ごろ、同市立北条小6年、生田敦弘君(12)と同2年、汰成(たいせい)君(8)の兄弟をはねて死亡させたとされる。
県警は、泥酔状態で正常運転が困難だったとみて、より罰則の重い危険運転致死容疑で追送検したが、地検は立証に足りる十分な証拠がないと判断したとみられる。
毎日新聞 2011年12月31日
◇
(子どもたちを守りたいと本気で願うなら、私たちは子どもの側の注意よりも、運転者の側への注意や、道路や街づくりそのものをもっと安全なものにする意識が必要なのだと思いますが、この話はまた別の機会に。)
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