「守りたい思い」と「守られるもの」(その11)
【この子に「あなた」として出会うこと】
村瀬学さんの本のなかで、「あなた」という言葉が、特別な意味をもって使われています。
『「あなた」の哲学』という本もあります。
難しいことは分からないのですが、子どもに「あなた」として出会うことがとても大切なことだということは分かります。それは、子どもが「自分をあなた=わたし」として感じることにつながるからです。私は、子どもの存在の中に「あなた」を感じることを、もっとちゃんと理解してゆく方法を知りたいと思います。
この子は「障害児」ではなく、「朝子」だと、「康司」だと、「知子」だと、いうとき、それは「障害」を拒んでいるのではありません。「障害児」というラベル貼りが嫌だというだけではありません。ただ、《この子を「あなた」とみるまなざし》が全くないことへの違和感を表していたのだと思うのです。
私は、障害児や障害者とよばれる人を、「あなた」と感じる出会いをしたことがないまま、大人になりました。だから、たっくんのお母さんに出会ったとき、心から知りたいと思ったのです。「この子がこんなにも大事にされ愛される理由が少しも分からない」自分に、何が足りなかったのかを、知りたいと願ったのでした。
『技法以前』という本の一節を紹介します。
◇
《一緒に考えてくれる人間と同時に、自分が現れる》
《西坂さん》
一方的に聞き役にまわられると、相手の存在がみえなくなります。
あいてがどういう人間なのか、
どんなふうに考えるタイプの人なのかが見えません。
すると、しゃべったことが一方通行になって
問題が自分に返ってこないのです。
どんな形でもいいからその人がどう考えるのか、
どう思ったのか返してもらわないと、
その次の「自分で考える」「自分で動いてみる」作業ができない。
一緒に考えてくれるときの相手は、いつも自分と同じ目線の高さにいます。
上から言われる感じも下から言われる感じもしません。
「同じ目線だ」と感じます。
それに、「これが人間だ」と思ってうれしくなります。
しかも「こんなちっぽけな自分のことを
一緒に考えてくれるのはなぜか」とも思います。
でもそうやって、同じ目の高さで話してくれているうちに
「ああ、自分はそんなにちっぽけなものじゃなかったのかもしれない。
こんなふうに一緒に考えてくれるということは、
この人は自分の存在も自分のできる力も信じてくれているし
認めてくれているんだ」と思います。
だから、一緒に考えてくれる相手が現れると、
同時に、自分が現れることになるのです。
けっきょく人間は、人間がいないと、自分がいるということに
気づかないのかもしれないと思います…」
◇
ここに書かれているのは、
「人は向かいあうものに応じて、自分を意識する仕方がかわる」
ということです。相手のなかに、自分を「あなた」とみてくれるまなざしを感じられると、同時に、「わたし」が現れることになるのです。では、相手のなかに「あなた」とみるまなざしとは、どういったものなのでしょう。
◇
【《統合失調症サトラレ型の清水里香さん》
彼女は、主治医に、自分の考えていることが周囲に漏れ伝わる恐怖と羞恥心を話し、「自分が超能力者になってしまった」と打ち明けた。主治医はじっと聴いてくれたけれど、「信じてもらえたようには思えなかった」という。それは彼女を失望させた。
縁あって浦河に住むことになった彼女が、川村先生の外来を受診したときのことをこう綴っている。
「病気のことで自分が肯定されたのもはじめての経験でした。…
『私はエスパーだ』と言っても、ちゃんと理解してくれているんだとわかったとき、ほっとしました。それは、私自身が誉められたというのではなく、七年間悩み苦しんでいた病気の経験を認められたような感じがしたからです。」】
◇
ここには、おもしろいことが書いてあると思うのです。
「私自身が誉められたというのではなく」、
「七年間悩み苦しんでいた病気の経験を認められたような感じ」
つまり、私の悩みも私そのもの、ということ。
私の悩みを抜き出して、そうでない私、
病気でない私、だけを認められても、
それは、「まるごとの私」ではない、ということ、になります。
子ども時代の、みつこさんとまいちゃんは、どうだったでしょう。二人の違いは、手袋をしているかどうか、手袋を外すかどうか、ということ以上に大きなものがあったことを感じるのです。
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