「最終回」のつもりだったのだけれど、なにか、大事なことを忘れてる気がする。それは何だろう? はじめに書きたいと思ったのは、「この子を守る」とはどういうことか?でした。
5歳の娘が大火傷で右手の指のほとんどを失ってしまう…。本人はもちろんだが、親のショックは大きい。自分が気をつけていれば、自分がちゃんとしていれば、そんなふうに何千回何万回と後悔するのだろう。どうにもならないとわかっていても、「もしも、あのとき、…」と繰り返し思うだろう。
その小さな娘の傷が癒えてようやく退院というころ、小学校の入学を迎える。そのとき手袋を編む母親の気持ちを、「ありのままの右手を大事にしないこと」だとは言えない。
タイムマシンでその時に戻って、そんなふうに母親に話しても、何も変わらないだろう。その言葉は、「この子を守りたい」と願う母親の心には届かないだろう。まして、火傷の事故を、自分が「この子を守れなかった」思いとして苦しむ母親に、その火傷のあとを「ありのままのこの子の右手」だと言っても、聞こえないだろう。それは、その時代、お母さんの生きてきた人生のその時点では、自然なことに思えます。
でも、ふと思うのです。もし、みつこさんのお母さんが、「この子を守りたい」と思いながら編んだ手袋が、その思いとは別に、その「手袋」がみつこさんを寂しくさせるものになっていくと知ってしまったら、どう感じるだろう。手袋では、「この子を守ることはできない」と知ったら、どうするだろう。
小学校から、中学、高校、大学と、誰にも言えず、自分一人で孤独に抱えていた心が、作業所の「知的障害」のある人たちとの出会いで、「はじめてほっとした」と、知ったなら。
そして、ありのままの右手と向かい合う暮らしの先に、子どもが生まれ、その子どもによって、「この子を守りたい」と願ったお母さんの思いが、ようやくみつこさんを包むことになると知ったら…。そしたら、「孫のようになりたい」と思うのではないか。私はそんなことを思って、書いてきたのでした。
でも、私はこうも思うのです。みつこさんのお母さんがタイムマシンで、娘と孫が仲良く手をつないでいる場面と、それまでのみつこさんの孤独な旅を知ったとして。みつこさんが6歳で小学校に入るとき、お母さんはやはり手袋を編むんじゃないだろうかと。
そして、私のなかにも、そうしてほしいと思う気持ちがあることを、いま感じます。その上で、「この子がさびしくないように」、みつこさんが、友だちとの関係、自分自身との関係を、成長していく中で、「手袋」について話をすることができるはずなのです。
手袋をする、しない、ということでなく、子どもの「気持ち」、子どもが自分で引き受けようとしている「自分の人生」「かけがえのない自分自身の身体と心」について、率直に語り合えるようになりたいと願えば、それはかなうはずなのです。
元通りに「傷」を直してあげることはできない。
「障害」をなくしてあげることはできない。
それが「守ること」なら、親ができることはほとんどありません。
でも、この子を守ることが、「この子がさびしくないように」、この子がどんなときも、どんな問題にぶつかっても「決して一人じゃない」「あなたは一人じゃない」「いつもいつも、一人で抱えて苦しまなくていい」「あなたの話を聞いて、一緒に考えてくれる人は必ずいる」「苦しいときには、苦しいって言っていい」「手を借りていい、知恵を借りていい」
そのことを伝えて、この子がさびしくないように、この子を守る、行き方があるはずなのです。
そして、それはやはり、みつこさんやまいちゃんが、それぞれの苦労や悩みを抱えながらも、自分を一人の子どもであることに迷うことなく、自分の障害に向かい合い、自分の悩みを自分で悩むことができたからであり、「みんな」と一緒に、「みんな」と同じ学校に通い、ふつうの子ども時代を過ごせたからだと思うのです。
そして、そのことは「知的障害」であろうと、「自閉症」であろうと、障害で変わるものではないと思うのです。
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