定員内入学拒否と64(ロクヨン)
昭和の終わる年、中学3年生は200万人を超えていた。
進学率は94%だったが、高校入学者は190万人。
昭和の終わりに190万の机と椅子があった。
そして昭和の時代には「定員内不合格」があった。
平成の終わりに、子どもの数は半分に減った。
190万の机と椅子の半分も捨てた。
進学率は約99%まで上がった。
この状況でなお0.2%の子が「定員内不合格」とされるのは、もはや「合否」の問題ではない。
この社会の、公立学校の、「定員内・入学拒否」の問題だ。
◇
1000人の子のうちの二人を、定員が空いているにも関わらず、公立学校が入学を拒否する。
「学校に行きたい」という15才の子に、お前の座る椅子はない、という。
1000人の子のなかの二人には、「教育を受ける資格」がないという。
これは公平か。公正か。平等か。
これが大の大人のやることか。
生まれくる子どもに、こんなにも冷酷な学校、残虐な社会を、私たちは望んできたのだろうか。
今日、生まれてくる赤ちゃんのうち、1000人に2人は、15年後「定員内入学拒否」される社会に、わたしはいま生きている。
◇
昔、ヒトラーに協力した人々は、子どもを安楽死させる「制度」の規則に従った。
その人たちにとって「従順のシステム」がはるか昔から唯一の正しい馴染深いもので、それを疑うなどということは一度もなかったから。
残虐と闘うためには、まずそれを残虐であると認知する能力が必要だ。
1000人のうちの2人の中学生に、「あなたには教育を受ける資格がない」と社会が見捨てるのは、当然か、残虐か。
教育委員会は、公平・公正であるという。
1000人のうちの2人の中学生に、「あなたには教育を受ける資格がない」という校長の判断を尊重するという。
◇
残虐と闘うためには、まずそれを残虐であると認知する能力が必要だ。
けれどヒトラーの支持者たちは、子ども時代を通して、厳格さと容赦ない権力の行使しか知らなかった。それに代わるものがあろうなどとは、夢にも思えなかった。
「高校は義務教育じゃない」「勉強したくないなら来なくていい」という言葉を使い、入学したばかりの生徒に「一学期でこの学校に適応できないなら、留年はできないので進路変更するように」と、まず脅迫と切り捨てる宣言から「教育」を始める教師がたくさんいる。
「義務教育じゃないから、お前は《守られてはいない》」
「点数をつける権利は教師にあるのだから、教師が単位を出さなきゃお前は落第だ」という「言葉」が、今もふつうにある。
それに疑問に感じる人は少ない。
だから昭和時代には「定員内不合格」という言葉で、「不合格」になるのは、できの悪い生徒の責任にした。
どのような形であれ、弱さ、優しさは蔑まされるばかりだ、という場合、子どもは大人が振るう力を完全に正しいものと感じるようになる。
捨てられるのは、捨てられる子が悪いからだと考える子どもに育つ教育を守り、迫害の制度も守ろうとする。
彼らには、それに代わる教育の姿勢があろうなどとは、夢にも思えないだろう。
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