ワニなつノート

まなざしの束

まなざしの束


それは知ってる。
加藤先生が教えてくれた。
それも知ってる。
教科書に書いてあった。
うん、それもわかる。
ミナミ先生に聞いた。
これも知ってる。
パソコンの授業があったから。
どれもちゃんと学校で習ったよ。

ぼくはいつも一人で学習していた。
いつも一人でそれを見ていた。
ぼくがよく見えるように。
ぼくが集中できるように。
ぼくの気が散らないように。
ちゃんと学習できるための環境。
それがぼくへの「支援」だった。
ぼくのため、ぼくだけのための「支援」。


ぼくがそれを見ているとき、
誰もそれを見ていなかった。
ぼくがそれを見ているとき、
ぼくと一緒に見る仲間は誰もいなかった。
ぼくと一緒に見るまなざしはひとつもなかった。
ぼくにはそれも見えた。
ぼくの他には誰も見ていないことを、
ぼくはいつも見ていた。

小さい子どもは、誰でもそれを見てる。
だから小さな子どもは、
「ママ、いっしょにみよ」って言うんだ。
「みて、みて、ママ、みて」
「ママ、いっしょにみよ」

それは、「ママとぼくのいっしょのまなざしで見ようね」
ってことなんだ。
「二人のまなざしの束をいっしょにつくろうね」
って思ってるんだ。

ぼくがまなざしの束を見たのは幼稚園のとき。
幼稚園のときは何もかもが違った。

ぼくが庭のうさぎを見てると、いつもみんなが見に来た。
休み時間が終わっても動かないぼくを、
みんなが迎えにきて、そのままいっしょにうさぎを見るんだ。
ぼくが見ているうさぎをみんなも見ていた。

うさぎを見ているぼくのまなざしと一緒に、
30人とぼくの62、ううん、先生もいれて
64のまなざしでうさぎのランちゃんをみていた。
ぼくのまなざしと、みんなのまなざしが束になって、
うさぎのランちゃんをやさしくなでていた。

いまもペットやさんでうさぎを見かけると、
ぼくのまなざしにみんなのまなざしが、
よりそってくるのがわかる。

ぼくはうさぎを見るとき
今もみんなといっしょになれる。
うさぎを見るとき、
いつもぼくはひとりじゃない。
ぼくとうさぎとみんなといっしょにここにいる。
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