「わが町の祭りとお会式」
私がこの土地に来て初めてその祭りを観たのは、もう20年以上
も前のことだった。それぞれの集まりの老いも若きもが笛の音に合
わせて団扇太鼓や鉦を叩いて旧街道を囃しながら練り歩く。その前
の週には、花火大会も行われて人口5万余りの町の中心地は祭り一
色に染まります。
その後、わたしはこの地を離れて東京へ出た。東京では何度か住
居を変えたが、東京での最後の夜を過ごした地は大田区の池上だっ
た。池上は、かつて日蓮聖人が病気治療のため身延山から常陸の湯
に向かわれる途中にこの地で入滅され、その後、日蓮宗の霊場とし
て池上本門寺が築かれ、古くより多くの信者によって崇められてき
た。その門前には、蒲田と五反田を結ぶ東急池上線の池上駅が置か
れ、そもそもは本門寺の参拝客のために鉄道が引かれた、とあった。
日蓮聖人が入滅された命日には毎年「お会式」が盛大に行われ、全
国各地の信徒がこの地に集まり聖人を供養します。私は、初めてそ
の「お会式」を観た時に、その様子がこの土地で観た祭りと全く同
じだったことに驚きました。団扇太鼓の音頭も踊り子を先導する万
灯もそっくり同じでした。その後、この町に帰ってきて毎年この地
で団扇太鼓のリズムを耳にしますが、その度に池上本門寺の「お会
式」を思い出さずにはいられません。ふたつの祭りには繋がりがあ
ると思っていましたが、ところが、いくら調べてみても日蓮宗の「
お会式」との関連はいっさい触れられていない。宗派間の何らかの
拘りからその宗教色を消し去ったのかもしれませんが、しかし、謂
われ(物語)を失った祭りとはいったい何のために行われるのだろ
うか?そのまさに換骨奪胎たる祭りは来週の土曜日にあります。
町のあちらこちらからその日に備えて団扇太鼓を打ち鳴らす音が
聞こえてきます。
(おわり)