「言葉のひびき」
(3)
さて、漢字のことを取り上げながらその創始国である中国に触れ
ないわけにはいかないが、断わるまでもなく私は漢字の専門家では
ないので何一つ確信を持って言えないが、と言うのも、すでに中国
は漢字を簡体字に簡略化していて、それがどこまで漢字文化を継承
しているのかすら知らないのですが、ただ、そもそもの漢字の始ま
りは権力者によって重用されたことからによるのは間違いないだろ
う。そして漢字は日常で使う「話しことば」とは異なって儒教道徳
に従った「何か高尚な」言葉として使われ、封建時代の武家社会に
おいて厳格さを重んじる言葉として広まった。ここでニーチェの言
葉を引用すると、このような言葉の「ひびきの魔力」に憑かれると
、「きまりきったひびきに仕付けられた習慣は、性格に深く食い入
るからだ。――やがて人々は、このひびきにぴったり合った言葉や
言い廻しや、ゆくゆくはまたそうした思想さえも、身につけるだろ
う!」と「没趣味な横柄な」「言葉のひびき」がやがては覇権的な
思想を育むと言うのだ。それは我が国の武家社会においても同様で
、王朝社会が「ひらがな」文化とするなら、武家社会は「漢字」文
化を養った。やがて近代化へと転換した社会の下であまりにも乖離
した言文の一致を求めて「書き言葉」を改めるまでは「没趣味な横
柄なひびき」の「書き言葉」が高尚な言葉と看做された。
(つづく)