仮題「心なき身にもあわれは知られけり」
(9)
ニーチェは、「ニヒリズム」を「最高の諸価値が無価値になると
いうこと」と捉え、それは《目的》《統一》《真理》という三つの
《理性のカテゴリー》への信が「ニヒリズム」をもたらす原因であ
ると結論する。
「要するに、われわれが世界に価値を嵌め込むために用いてきた《
目的》、《統一》、《存在》というカテゴリーが、再びわれわれに
よって世界から抜き取られる――すると世界は、無価値の相を呈す
ることになる・・・」。
つまり、われわれは世界(存在)をわれわれにとって《意味(価値)》
のあるものとして認識しようとするが、それは「自分自身を事物の
意味と価値基準として設定すること」にちがいなく、「相も変わら
ず、人間の途方もない素朴さである」とニーチェは言う。つまり、
そのような認識は世界を擬人化して歪められた世界(存在)観でしか
ないと言うのだ。つまり、「形而上学は擬人化であり――人間の像
にかたどって世界を造形し直観することである。」
(つづく)