この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『キリマンジャロの雪』-フランス・マルセイユを舞台にした映画だが、日本にもありそうな現実感が。

2012-07-28 23:36:49 | 最近見た映画



      【2012年7月22日】   京都シネマ

 フランスのマルセイユの港湾労働者の姿を描いた映画だが、遠い外国での日常を描いたものとは思えない親近感を感じた。


            


 組合が会社のリストラを受け入れ、指名解雇者の名前を読み上げるところから始まる。解雇者名を読み上げるのは組合の委員長を務め、定年も間近いミッシェルである。もっとも公平と思われる、《くじ引き》で20名の解雇者を決めたのだ。その中に自分自身の名前も含まれていた。

 ミッシェルには、長年戦いを共に支えてきた妻と子どもたち、それに孫もいる。
 夕方、ヘルパーに入っている家まで妻を迎に行き、夕食を外でと誘い、その場で解雇名簿に自分も入ったことを告げる。妻は優しく微笑むだけだった。

 この年で解雇されるということは、もうまともな仕事に就けないということを意味する。

 数日後、元職場の仲間とともひらかれたパーティーで、ミッシェルと妻は子供らから『キリマンジャロ』を巡る旅行をプレゼントされる。
 しかし、その晩強盗に襲われ、プレゼントされた航空券も預金も奪われてしまう。


                                   


 日本に比べたら、セーフティーネットも整備され、社会保障も充実していると思われたフランスでも、日本と同じように整理解雇もあり、再雇用もままならぬ状況が有るというのは、改めて資本主義経済のグローバルな展開を実感する。

 映画の中で一番の衝撃は、《世代間の断絶》がここにもある、ということだった。

 新自由主義が世界を闊歩し、世界的な規模で規制緩和が行なわれ、カジノ資本主義が荒れ狂い、政府の機能まで民営化が進む事態となり、社会保障が削られ大量の失業者が街に放り出され、《若者》にも《老齢者》にも、貧困と格差が襲っている。しかし、今若者にとって、いちばん身近な対立点が、資本家対労働者や、大金持ちと貧しきものではなく、《先の見えない若者》対、既得権を得た《恵まれた老齢者》という《世代間の格差》として映っている様な気がしてならない。


 ミッシェルとしては自分を犠牲にしてまでも、組合員の為に《よし》とした事をしたつもりだったのが、犯人が元同僚のクリストフであることがわかり、取調室で面談した時、自分の息子ほどの若い世代の彼から発せられた《意外》と思われる言葉に愕然とし、思わず彼に暴力をふるってしまう。

 『・・解雇手当は受け取った?・・・なくても平気なんだろ。あんたの日曜日が目に浮かぶぜ。脂ぎったステーキで、よく冷えたロゼを飲む。組合の金でな。腐りきった交渉や妥協を耐えたご褒美か。裏金をいくらもらった?・・・』


 そうしたことがあった後、もう一度、犯人と顔を合わせる場面がある。取り返した旅行の航空券を解約し、その金を持って、面会に出向く。

 『告訴を取り下げたが、既に手続きが進行中で無駄だった。』とクリストフに告げたあと、

 『わたしにできることはないか。』と問う。それに対し、クリストフは

 『今さらなんだい?方向転換?・・・謝って欲しいのか?・・人の蓄えをかすめたから?旅行をダメにしたから?・・貧しさを見に何千キロも旅行かよ。野獣ならこの街にもいるぜ。』と心を開こうとしない。さらに、看守に向かって

 『彼のせいで捕まった・密告されてな。』
 『こいつは早期退職者で、ちいさないえでのんきに暮らしている。』

 ミッシェルは、前回と違い黙って聞いている。
 
 『むかしとは違うんだ。職を失って暮らせるか?新入りだから解雇手当ももらえない。』

 『クジが一番公平だった。』

 『まず金持ちや共働きの人から解雇。給料や労働時間も減らす。それか工場に放火だ!汚い妥協よりましだ。』

 そして、部屋を黙って出て行くミッシェルにむけたクリストフの最後の捨て台詞、『あんたが本気なら、俺の家で、植木や金魚の世話でもしな!』
 ということばをうけ、その後黙々と実行に移すミッシェルの姿を映像は捉える。妻もまた独自に、クリストフの子どもの世話を始める。


 監督は、この問題《世代間の断絶》にこだわっているのではないか思われる。この問題を解決しない限り、家族のきずなや、隣人をいとおしむ気持ちが有っても、将来の展望は開かれないと考えているのではないか、と思われる。

 日本でも、この問題は深刻だとわたしも考えている。今のお年寄は、介護の問題にせよ年金にしろ、手厚い社会保障を受けていると思われている。一方、若い世代は、まともな職もつけず、年金財政も社会保障費も枯渇し、自分らの老後にはまともな年金も社会保障も受けられないと思っている。

 狭い職場の中で、世代間の対立や正規職員と非正規職員(派遣・非常勤)の対立に矮小化したのでは、何の解決にもならない。それは、支配する側の論理だ。



 ラヴェルの『なき王女のためのパヴァーヌ』のメロディーと共に、《絆》や《家族の大切さ》が心にしみる、そして経済学の本では表現しきれない《ハッとさせられる》何かを感じさせる、いい映画だった。



 作品とは関係ないが、一部(それが肝心な部分でたびたび)、白い背景で字幕が非常に読みづらい画面が見受けられた。制作者(日本の字幕の)の配慮がもう少し欲しいところである。










   『キリマンジャロの雪』-オフィシャルサイト  

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