【 2017年7月17日 記 】
この本を買ったのは2012年の9月だった。それまで知らなかった山本美香さんというジャーナリスト(戦場カメラマン)がシリアで政府軍の砲撃にあって、死亡したというニュースが入った後だった。本自体は2006年に初版が出版されていたもので、その後、この事件が起こり、《緊急出版》された「第2版」のものを手にした。
2001年の「9・11テロ」を受けて、ブッシュのアメリカがアフガニスタンに侵攻したのに続いて、イラクに対しては「大量破壊兵器がある」という口実で2003年にはイラク戦争を開始した。それから、アフリカやアラブ諸国で《独裁政権》を倒す民衆革命が起き、世界の不安定さが増していく。フセインのいなくなったイラクは無政府状態になり、シリアではアサド大統領が政権にしがみつき、反政府軍も民間人も見境なく爆撃を繰り返し、イラク同様内戦状態になる。その間隙をついて《IS》が勢力を拡大し、両国を勢力範囲に置き、国家樹立の宣言をする。有志国連合が同じく空爆を繰り返した末は、世界各地でテロと誘拐事件が頻発する。
そんな激動の時代の新たな局面を迎える前の1996年から、山本さんはジャパンプレスに所属してジャーナリストとしての海外での取材活動の一歩を始める。1996年というのはアフガニスタンのカブールがタリバンによって制圧された年だ。
この本には、その頃から2006年ころまでに山本さんが訪れた世界各地の紛争地での取材レポートが、多くの写真と共に載せられている。
【 目次 Ⅰ 】
アフガニスタンは、1979年のソ連による侵攻(介入)を受け、1989年にその撤退が完了した後も、混乱が続き、結局上記のようにタリバンによる支配が始める。タリバンによる「バーミアン遺跡」の破壊の記憶は強烈で、鮮明に残っていっるが、下の写真はその頃のものである。、
【 ブルカを着る女性 】
【 アフガニスタンの女性 】
アフリカのウガンダも訪問したようだ。私個人の記憶では「ウガンダ」より、隣の国である「ルワンダ」の方が強烈に印象に残っている。でも、この地域は、同じような紛争が絶えない。以前読んだ「ジェノサイドの丘」を思い出す。【《愛》に対置する言葉は《憎しみ》でなく《無知》である。】という言葉もあるが、その本の表紙に、『知らないことは《恥》どころか、《罪》になることがある-わたしはそのことをこの本から学びました』と、一書評家の言葉が記されていたのが強く印象に残っている。
ルワンダ内戦に関する本『ジェノサイドの丘』-マイブログへ
【 ウガンダにて 】
【 ウガンダの少年 】
【 目次 2 】
チェチェンも大変なところだ。一時、ロシア各地でテロ事件が起きたり、チェチェンの報道を巡ってロシアの女性ジャーナリスト(アンナ・ポリトコフスカヤ)が暗殺されたり、FSB(ロシア連邦保安庁)の一連のテロ事件への関与を明らかにした元諜報部員(リトビネンコ)がイギリスで暗殺されたりと、プーチン大統領周辺の黒い疑惑が付きまとう地域だ。その後、ウクライナや他の地域と違って、チェチェンの独立が棚上げになってしまった関係から、《内政問題》として外国の干渉を受けない立場に立っているから、国際社会の関心が遠のいてしまったように感じるが、何も問題は解決していない。
下の写真は、いつのものか判然としないが、相変わらずチェチェンは大変なんだろうと思う。
【 チェチェンの爆撃されたアパート 】
【 チェチェンの母子 】
【 チェチェンでの炊き出し風景 】
【 チェチェンの瓦礫の下で 】
チトー大統領がなくなった後の旧ユーゴ―スラビア地域も大変だ。「ボスニア・ヘルツェゴビナ」や「サラエボ」などの活字が新聞をにぎわした時期があった。「コソボ紛争」もややこしい。
【 コソボで 】
そして最後に、再びイラクである。ブッシュのとんでもない《言いがかり》から始まった戦争で、バグダッドをはじめイラクの住民はとんでもない目にあっている。その惨状は、一般の映画でもいろいろな形でたびたび描かれている。『ルート・アイリッシュ』、『告発の時』、『ドローン』、まだまだたくさんあるが、ごく最近では『EYE IN THE SKY』と。こんな戦争、空爆を続けても《IS》は壊滅できないどころか、ますますその種を蒔いているようなものだ。
小泉首相から始まる自民党政権は、アメリカについていくことしか考えていない。安倍首相に至っては、アメリカと一緒に戦場に行くことまで実行に移そうとしている。
【 引き倒されるフセイン 】
【 サマワの自衛隊 】
イラクの人は、軍服を着た自衛隊ではなく、普通の格好をして平和的に支援してくれる民間人に来てもらいたかったといっている。
【 イラクの子ども 】
今回この本を本棚から引っ張り出して読むきっかけをつくったのは、前回読んだ『「テロとの戦い」を疑え‼』と、《ISに支配されていたモスルが解放された》というニュースだった。本当に、【ISは滅びて、世界からテロがなくなるのだろうか】という疑問と、【その後の世界の紛争地はどうなっていくのか】ということだった。
もし、現地に行って取材をするジャーナリストがいなかったら、【自分らはどうやって世界の実情を知ることができるのか】、ということだ。一時(今でもそうなのかもしれないが)、現地に入ってボランティア活動をしているNGOの人や、ジャーナリストが人質として捉えられた時に、《自己責任》を問われた事があった。《あんな人のために貴重な税金を使うことはない》と、《身代金の支払いや帰還のための費用を負担することはない》と。
ジャーナリストにしろ、NGOやその他のボランティアをする人は、物見遊山で現地に行っているわけではない。『海外渡航危険情報』は、一般の旅行者には一つの目安にはなるかもしれないが、それにによって真実を探るジャーナリストの足を止めようとするのは問題が違う。
【その土地の支配者や権力者が流す《彼らにとって都合の良い情報》だけで(そのわずかな情報すらないことの方が多い)どれだけの真実がわかるのか】。【現地の人がどんな助けを求めているのか、そのために何をしなければいけないのか】-そうした問題意識の下、凡人には出来ない仕事を我々に代わって、やむに止まれず現地に入っているのである。
一方、自己責任を押し付けておきながら、彼らを味方ではなく《敵の一部》とみなされる行為をしているのは爆撃を繰り返す国々とそれに追随する日本の今の政府ではないか。
山本さんは、2012年8月、再度シリア政府軍(アサド軍)と反政府軍とISが血みどろの戦いを繰り広げる現地に入り、アレッポで命を落とした。
【《愛》に対置する言葉は《憎しみ》でなく《無知》である 】
【 知らないことは《恥》どころか、《罪》になることがある 】
『山本美香記念財団』ホームページ
『山本美香さんについての記事』(早稲田大・瀬川教授のブログ)へ