【2011年8月3日】 Tジョイ京都
原田芳雄さんがなくなったというニュースを聞いたのは、今回の山行に出発する前日だった。「ああ、また一人いい役者さんが亡くなってしまった。」くらいに思っていたのだが、夜行バスの中で、今回も一緒のYさんが、「原田芳雄という役者に興味ある?」と聞くので、そういえば、「先日亡くなったネ。」くらいしか思っていなかったので、改めてYさんがどうしてそんなことを私に聞くのかと思っていた。
今年の山行を計画していた段階でYさんは、自身まだ行ったことの無い南アルプスの『北岳』を希望した。私は以前一度行っているので、あまり乗り気ではなかったが、もうかれこれ30年以上も前のことなので、悪くはないと思っていた。北岳を登頂し下山するコースは、広河原から入り、北岳を制覇した後、間ノ岳、農鳥岳と白嶺三山を縦走して大門沢から奈良田に下りるのが一般的で、前回はそのコースをとった。だが、今考えても、あの大門沢の下りには、悩まされる。「二度とこんな辛い下りはたくさんだ。」と深く印象に残っている。当時でそうだから、いまの体力では、ヒザがゆうことを聞かなくなるのは目に見えている。
だから、北岳に行くのはいいが、大門沢だけは下りたくなかった。別の案として、塩見岳には行っていないので、間ノ岳から塩見岳に抜けるルートを提案した。日程的にも可能なことを確認し、下山は三伏峠から鳥倉林道経由で大鹿村に降り、そこの温泉で山の汗を流す計画を7月上旬には立てた。
宿はYさんが手配することになっていた。何回もいった温泉宿で気に入っているところがあるという。『鹿塩(「かしお」と読むらしい)温泉』に『山塩館』という宿があり、そこがいいという。
後で知ったのであるが、そこが今回の映画の舞台の中心の1つであり、撮影中原田芳雄が定宿として投宿していたところという。
ところが予約を入れたところ、Yさんの話では「予定の日は宿の主が旅行中で残念ながら営業していません。」ということで、代わりの宿を紹介してもらったという。
夏休みという『書き入れ時』なのに優雅な経営をしているなと思っていたが、これも後日談で、紹介してもらった先の旅館『赤石荘』の若旦那(専務?)の言うには、「実はボイラーが故障していて《売りの温泉》が使えないとあっては、営業できず止む無く休業している。」ということだった。もったいない話である。
山行の最終日、JR飯田線の「伊那大島駅」、「松川インター」行きのバスに乗り、大鹿村に入り途中の『大河原』バス停で降りる。そこから『赤石荘』の送迎車に乗り込んでからは、Yさんと運転手をしている宿の若旦那とは『大鹿村騒動記』の話題でもちきりだった。大鹿村に300年もつづく『大鹿歌舞伎』があることを、このとき知った。それをモティーフにして、映画「大鹿村騒動記」が村民総出で、まさにこの村で撮られ、最近封切られた事もはじめて知った。
その映画の中心人物の風祭善(歌舞伎の中では『影清』役)を演じるのが原田芳雄だった。
大鹿村で映画が撮られ、封切られ、その主役の原田芳雄が亡くなり、たまたま自分らがその村を訪れた事が、わずか10日間の日程に凝縮さてていたという『奇遇』が、何か運命的なものを感じさせた。
自分の映画の鑑賞リストには挙がっていなかったが、やはりこの映画は見ないといけない、と感じた。(リストに挙がってこなかった理由の1つに、上映館が「T-ジョイ」という、私にとって、めったに行かないマイナーな映画館、1つだけだったということがある。)
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喜劇である。映画のあらすじは、18年前に風祭善(原田芳雄)の幼なじみの治(岸辺一徳)が、善の妻・風祭貴子(大楠道代)と駆け落ちしたが、恒例の「大鹿歌舞伎」の公演日程の迫る中、突如大鹿村に二人で戻ってくる。貴子が認知症で手に負えなくなったから善に返す、という。
この最初の設定自体が、突飛もない話だが、大鹿村は「歌舞伎」の公演だけでなく、「リニア新幹線」が村を通るかどうなるかで村中がひっくり返っている。役を降りると言い出す者もあれば、折しも台風が村を襲い、300年の伝統を守ることができるのかどうか、様々なキャラが入り乱れて公演の日を迎える。
リニアがこの村を通るかも、という話も初めて知った。映画の中だけの話でなく、実際、工事やらで影響があるらしく、村民は淡い期待に揺れていた。たしかに地図を見ると、甲府と名古屋を結ぶ直線上に大鹿村はある。
阪本順治監督といえば、映画『闇の子供たち』が衝撃的だった。タイを舞台に、臓器売買を巡り子供たちが犠牲になる話で、ドキュメンタリー・タッチの内容は深く考えさせられた。
一方、原田芳雄は、宮沢りえと撮った『父と暮らせば』[井上ひさし原作](近々、NHKのBSで放映される。)が一番印象に残っている。『ニワトリはハダシだ』にも出ていたか。
その二人が今回、全然趣向の違う、脚本もオリジナルな映画を撮ったということは、何か別の考えがあったとしか思えない。たった、2週間の撮影期間、封切りから主役が亡くなる日まで3日。一律1000円の特別料金。
阪本監督には、すべてわかっていてたような気がする。
『大鹿村騒動記』-公式サイト