10年近くの仙台赴任を終え、2015年5月から大阪へ赴任中のオヤジの日記です。
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よっぱのときどき日記



 ゆらゆらと影が揺らめき一人の(恐らく)男が近づいてくる。俺は、慌てずに手を後ろに回し、足を揃えて少し丸まるような体制を作って、鉄格子の扉の方へ向いて寝転がった。


 カチャッ

 鉄格子の鍵が開いた。

 コツコツ…

 誰かが俺に覆いかぶさるように覗きこんでいる気配がする。どうやら眠りの深さを確かめているようだ。

 俺は左手で相手の鼻と口を一度に塞ぐと身体を起こしながら奴の後ろに廻り込み右腕で頸動脈を締めた。そう、わかりやすく言うとスリーパーホールドみたいな型だ。奴は一体何が起こったのかもわからないまま一瞬にして白目をむいている。俺が本気になれば有名な柔術家だって俺のチョークスリーパーからは逃れられやしない。

 そう、俺の名は「よっぱ」。ある時はカメラマン、ある時はゴルファー そしてほとんどの時はサラリーマンの酔払いヲヤヂのふりをしながら活動している… だが、ここの所あんまり秘密に動きすぎて全く皆から忘れ去られた存在になっちまっていた(笑)
 まぁ世間でいう所の秘密諜報員ってやつだ。

 ちょっとした油断から後頭部をいきなり殴られ、薬で眠らされたまま4日間を囚われの身になった事にも気付かずに過ごしてしまったのは些か間抜けだったが、何とか自由は取り戻せそうだ。
 気を失った敵の服を全部脱がしすばやく着替える。少し小さめでムチムチに見えてしまうのはご愛嬌だ。素っ裸でこれ以上戦うのも脱出するのもご免だし、この際贅沢は言っていいられない。
 奴の被っていた帽子を深めに被る。ん?俺が深くかぶれるってことは… こいつも随分でっかい頭だぜ(笑)

 鉄格子の扉を閉め、奴が来た方へ向かう。あんまりソロソロ動いているとかえって疑われそうなので、コツコツと奴の足音をまねて少し大股で近寄っていく。今の所まだノープランだ。出たとこ勝負で何とかするしかない。

 「おい、奴はまだ眠っていたか? なんだってお頭は奴を生かしておくんだろうな。 何者か分らないが、我々のアジトに潜入してきた野郎だ。薔薇の雷計画を嗅ぎつけてやってきた日本の特命かもしれないし、そうじゃないにしろ生かしておいたら後々面倒なことになっちまう。
 そうだ、俺に奴を拷問させてくれないかなぁ。奴が何者で、何のためにここへ潜入し、どこまで掴んでいるのか。じっくり聞きだしてやるのになぁ… ふへへへへへ。」

 「あぁ、そうだな。」
 俺は小さめの声で素早く答えた。何しろさっき俺を確認しに来た奴は一言も発する暇なく落ちてしまったのだから、いくら物まねの得意な俺でも真似のしようがない。
 
 「ん?」
 奴がピクリとして、ゆっくりとこちらを向いた。
 ヤバい!気付かれたか!?俺はテーブルのマッコリを口に含んだ。

 「おまえ、今まで拷問とかはローズの名に相応しくないとか固いことばっかり言っていたけど、ようやくおいらの言う事に理解を示したな。ふへへへへ。」
 
 全く能天気な野郎だ。こちらを向いても俺に入れ替わっていることに気付きもしない。こんな奴が見張りを仕切っているようじゃ「ローズガーデン」も上部はそこそこしっかりしているようだが所詮は穴だらけのしょぼい組織のようだ。
 俺は口に含んだマッコリを奴に吹き付け目を潰すと同時に、喉を握りつぶし、首をねじ曲げた。グキッと嫌な音が響き、奴は白目を剥きながらご丁寧に泡まで噴きやがった。死んではいないだろうが当分の間、横を向いたまま暮らさなくてはいけないだろう。
 俺様を拷問にかけようなんて生意気なことを考えていたような奴にはこれくらいやってやらないと気が済まない。
 こいつもさっきの奴と同様、自由を奪い鉄格子の部屋に放り込んで鍵をかける。
 
 部屋の奥は武器庫になっていて、手榴弾が数発とマシンガンにライフル・拳銃と選り取り見取りだ。
 取りあえず、手榴弾をポケットにねじ込み、マシンガン1丁を肩からかけ拳銃をベルトに挟み込む。とはいえ、火薬類を使うのはどうしようもなく追い詰められた時か、敵が大勢の時だけだ。だいたいこんな閉鎖的な場所でマシンガンなんかぶっ放した場合にゃ、跳弾で自分の身の安全もあったもんじゃない。
 だから、手にはダサいサバイバルナイフだ。できれば音は出したくない。わざわざ敵を呼び寄せる必要はないのだ。

 ここからの俺の素晴らしい戦いぶりは割愛して…(笑)

 じっくりと時間をかけて奴らのアジトをチェックしたが、金の動きに関しては大した証拠も残されていなかった。組織の上層部はすでにこのアジトを引き払い移動してしまったようだ。しかし、キャビネットの中にあった数10冊のファイルにはさっき奴が口にしていた「薔薇の雷作戦」の文字が…
 よし、今回の任務は「薔薇の蕾」の謎を追うことだ。このファイルさえ手に入ればよしとするか。
 俺は、突入してきたブラックフラッグの下にあるハッチを開け外の様子を覗った。周りには長閑な田園風景が広がっているだけだ。
 ファイルを外へ放り出し、自分も外へ身を滑らせる。
 ハッチを締める直前、使わずにポケットに残されていた手榴弾を投げ込んだ。

 田圃の中から黒い煙と「ボンッ!!」という音が何度か聞こえて再び静かになった。

 さて、指令部のヴァッキーにこのファイルを送るか…

 ん!? 「薔薇の雷」!?
 蕾じゃなくて雷!?
 や、ヤバい… 
 駄目だこりゃ…

 
 まぁいい。シカトして取りあえずファイルは着払いで送っておこう

 だけど、多分また調査費もらえねぇな
 仙台までの旅費ぐらい出してくんねぇかな… ヴァッキー



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