今日のことあれこれと・・・

記念日や行事・歴史・人物など気の向くままに書いているだけですので、内容についての批難、中傷だけはご容赦ください。

自然薯の日

2009-11-16 | 記念日
日本記念日協会の今日(11月16日)の記念日の中に「自然薯の日 」があった。
冬が来るのにそなえて、体に良い自然薯を食べて体力をつけてもらおうと、自然薯の食事処「麦とろ童子」を静岡県熱海市で営む清水元春氏が制定したものだそうだ。日付は、11月16日を「いいいも」(6=もの字に似ている)と読む語呂合わせと、自然薯の最盛期であることから。 ・・・だそうだ。
以下参考に記載の※:「麦とろ童子」を見てみると、その店の写真・地図等が見られるが、この店は、海側の一面は全面ガラス張りにしてあり店内からの眺めも素晴らしく相模湾を見下ろしながら食事を楽しむことがが出来るそうだが、なかなか店の雰囲気もよさそうだ。ただ店の説明の中に”麦とろ童子では店主のおじさんが注文の前にいろいろと料理の内容を説明してくれます、親父ギャグを織り交ぜながらメニューの選び方や食べ方の講義のあと注文を受けます。そのあともお茶を運んで来てはお茶と器の説明、箸と漬物を運んで来ては漬物の説明とすべてのお客さんに丁寧におなじ話を繰り返しています。”・・とある。これを、親切にありがたいことと受け取るか、いろいろとおせっかいなことと受け止めるかは、人それぞれだろうな~。
静岡といえば、江戸時代後期の十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の弥次さんと喜多さんが旧東海道鞠子宿(現静岡県静岡市駿河区丸子)の名物とろろ汁を食べるところがあり、このことは、以前にこのブログ6月16日「麦とろの日」でも書いたことがあるが、丸子宿のとろろ汁や「丁子屋」は今も健在とか。このとろろ汁には、麦飯がよくマッチしたから、「麦とろ」として、現代にまで伝えられており、麦とろご飯は麦飯にすりおろした自然薯(ヤマノイモ)の汁をかけて食べる料理で、静岡は自然薯が有名だよね。
自然薯(ジネンジョ)とは、ヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性多年草ヤマノイモ(山の芋、学名:Dioscorea japonica)の一名(ヤマイモ【山芋】とも云う)であり、この植物のいもとして発達したもののことをいう。Wikipediaでは、このいもとして発達したものを担根体としているが、百科事典-担根体 では、”ヤマノイモのいもも一種の担根体と考えられてきたが、発生過程をみると、これは胚軸(はいじく)や茎の基部が異常成長したものである。"・・・としている。以下参考の※:「担根体とは何か 」でもそう書かれており、こちらが正解なのだろう。
「いも」の漢字は難しい。漢字で普通に「芋」とだけ書くと、これは里芋のことで、「藷」は蕃藷(さつま芋)を意味し、「薯」は馬鈴薯(じゃが芋)をいい、「蕷」は山の芋(自然薯)をさしていた(漢字については以下参考の※:「漢字辞典ネット」参照)。
「ヤマノイモ(山の芋)」は、元来、日本原産の野生の植物である天然山芋であり、自然生(じねんじょ)が転じ「自然薯」(薯とはいものこと)と言われるようになったが、かつては山へ行って掘ってくるものだった。フランス料理にも使う、世界三大珍味の1つ「トリュフ」(セイヨウショウロ属のきのこの総称)は養殖が困難なため、訓練された犬又犬並の嗅覚をもつ豚などによって楢・樫の林に自生しているものを探し当てるというが、自然薯の場合も豚と同類の猪の方が探すのは上手で、人よりも先を越して掘り返えし、人に遺されたのは深いところの部分だけ・・・といったことも多かったともいう。
中国原産で17世紀に日本に移入されたナガイモ(長芋)(D. batatas)やダイショ(大薯)(D. alata)のことをヤマノイモ、ヤマイモと呼ぶことがある。又、古くは「薯蕷」と書いてヤマノイモと読んでいたようだが、これも誤りで、「薯蕷」はナガイモのことであることを指摘したのは、「日本の植物学の父」といわれ、多数の新種を発見し命名も行った近代植物分類学の権威である植物学者・牧野富太郎 であり、それを指摘したのは、1927(昭和2)年12月31日発行の『植物研究雑誌』第四巻第六号での「やまのいもハ薯蕷デモ山薬デモナイ」の中であると、自身の随筆集『植物一日一題』の中で書いている(以下参考の※:「牧野富太郎: 植物一日一題【青空文庫】」の中の”薯蕷とヤマノイモ”、”ナガイモとヤマノイモ”のところを参照)。
山の芋によく似た長芋、は、中国原産の渡来種であったが、いつのまにか自生化し、長芋は自然薯と違って栽培しやすいことから栽培種となった。本来ちがう種が、この時指摘されるまでずっと混同されていたようである。
牧野の同随筆集の中で、”このジネンジョウはやはり「野に置け」の類でその天然自然のものが味が優れているので、これを圃(圃【圃場=作物を栽培する田畑。農圃】)につくってその味を落とすようなオセッカイをする間抜け者は世間にないようだ。やはり山野を捜し回ってジネンジョウ掘りをすることが利口なようである。”と記している。日本の山に自生している自然薯は、ナガイモよりも細く長く成長し、くねくね蛇行し地中深く直下して、時には1m以上も下に伸びており、これを掘るにはなかなか労力を要するようだ。
田山 花袋の『現代日本紀行文学全集 東日本編』の中におさめられている「日光」(青空文庫参照)には、以下のような記述がある。
“日光の山の中には種々な自然生の食物がまだ澤山に殘つてゐた。山獨活(うど)、山人參、山蕗(ふき)、ことに自然薯が旨かつた。秋の十月の末から初冬の頃になると、山の人達は、それを掘つたのを背負籠に負つて、そして町の方へと賣りに來た。寺の坊などではそれを待ちつけて買つた。髮を棕櫚箒のやうにした山の上(かみ)さんが、「そんなことを言つたつて、中々掘るが難儀だでな……」などと言つて、白い衣を着た莞爾(にこ/\)した老僧と相對してゐるさまは到る處で見懸けた。”・・と。
栽培種の長いもとはちがい、天然ものの自然薯は非常に粘りが強いのが特徴で、とろろ汁のようにすりおろして食べるのに適している。近年は自然薯も栽培もされているようだが、収穫に手間がかかるため流通量が少なく、貴重な食材で、高価であることにはちがいない。
牧野の随筆集には、”昔から山ノイモが鰻になるという諺があって、それが寺島良安( Yahoo!百科事典参照)の『倭漢三才図会』(以下参考に※:倭漢三才図会【九大デジタルアーカイブ】参照)に書いてある。しかしこれはまじめなこととは誰も信じていないだろうが、””鰻もヤマノイモも共に精力を増す滋養満点の物だからその両方の一致した滋養能力から考えてそういったのだろう””トロロにするにはヤマノイモの方がまさっている。ナガイモの方には粘力が比較的少なくて劣っている。そしてこのように生のまま食う根は他にはない。”・・とあるように、日本人は古来よりヤマノイモを苦労して掘ってきて、擂り下ろして「とろろ」にしてご飯(麦が合う)に掛けて食べ、滋養・強壮の食としてきたのだろう。又、食用としてではなく、薬用としても用いられてきたというが漢方薬である「山薬」を、牧野は、”「やまのいもハ薯蕷デモ山薬デモナイ」、つまり、中国産のナガイモであったとしているようだが、日本では、今は自然薯の根茎の外皮を除去して乾燥したものも使われているようだ(以下参考の※:「山薬:漢方・中医学用語説明【生薬】参照)。
今昔物語』や『宇治拾遺物語』にその出典が見られる芥川龍之介の短編『芋粥』に”五位は五六年前から芋粥(いもがゆ)と云ふ物に異常な執着を持つてゐる。芋粥とは山の芋を中に切込んで、それを甘葛(アマヅラ)の汁で煮た、粥の事を云ふのである。当時はこれが、無上の佳味として、上は万乗(ばんじよう)の君の食膳にさへ、上せられた。従つて、吾五位の如き人間の口へは、年に一度、臨時の客の折にしか、はいらない。"(以下参考の※:芥川龍之介 「芋粥」【青空文庫】及び、※:書評『芋粥』など参照)とある。
現代は、サツマイモを用いても芋粥と言うことが多いが、さつま芋やじゃが芋など、外国の芋が日本に入ってきたのは江戸時代のことであり、それ以前の日本の芋といえば、ヤマノイモとサトイモ、つまり、山で獲れた「山の芋」と里でとれた「里芋」があっただけであり、外来種の芋が入る以前の芋粥は採るのに非常な苦労を要するヤマノイモを、これまた当時は貴重品であった甘葛で煮込んだものであり、無上のよい味だが、摂政藤原基経( Yahoo!百科事典参照)に仕えている五位のような身分のものでは普段は食べることの出来ない高級な食べ物だったのだ。『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』に、藤原利仁将軍が下級役人をわざわざ自分の任地の敦賀(つるが)まで連れて行き、いも粥を御馳走(ごちそう)したと書いてある。
納豆とか概して粘るのものは身体に良い。特に、自然薯は長芋より、粘りがあって良いことは分かるのだが、自然ものの自然薯は、品質にも差があるようだが何れにしても今の時代でも非常に高く、庶民の我々でもなかなか普段口にすることが出来ない。時々、進物でいただくが、それ以外は大概スーパーで買ってきた長芋で間に合わせている。
自然薯は、やはり、「麦とろ」が一番良いが、皮をむかずに食べるのが風味を活かすこつのようだ。自然薯のつるにできるムカゴ(零余子)をごはんに炊き込んだ、零余子飯もいけるそうで、俳句では、晩秋の季語にもなっているそうだが、私は、残念ながら食べたことがない。どこかで、見たら、一度食べてみよう。
(画像は自然薯)
参考:
※:麦とろ童子
http://homepage2.nifty.com/koaji/shokujitokoro/ito/warabe.htm
※:担根体 - Yahoo!百科事典
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E6%8B%85%E6%A0%B9%E4%BD%93/
※:担根体とは何か
http://www.mus-nh.city.osaka.jp/tokuten/2002plantevo/virtual/3/3_4.html
※:牧野富太郎: 植物一日一題【青空文庫】
http://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/46820_29303.html
※:倭漢三才図会【九大デジタルアーカイブ】
http://record.museum.kyushu-u.ac.jp/wakan/
※:山薬:漢方・中医学用語説明【生薬】
http://www.hal.msn.to/kankaisetu/chuyaku058.html
※:芥川龍之介 「芋粥」【青空文庫】
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/55_14824.html
※:書評『芋粥』
http://www.geocities.jp/npowaro/raku-100.htm
※:漢字辞典ネット
http://www.kanjijiten.net/index.html
牧野富太郎 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A7%E9%87%8E%E5%AF%8C%E5%A4%AA%E9%83%8E
日本記念日協会
http://www.kinenbi.gr.jp/index2.html
東海道中膝栗毛 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E9%81%93%E4%B8%AD%E8%86%9D%E6%A0%97%E6%AF%9B
芋粥 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%8B%E7%B2%A5
自然薯のうんちく【(株)波賀メイプル公社】
http://www.haga-net.co.jp/jinenjyo/jinenjyo.html
いも-Yahoo!百科事典
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%81%84%E3%82%82/
田山花袋 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E5%B1%B1%E8%8A%B1%E8%A2%8B
芋粥 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%8B%E7%B2%A5
季語・零余子飯
http://cgi.geocities.jp/saijiki_09/kigo500c/432.html