1月20日朝日新聞は、「ウクライナ停戦戦略は」題する石井正文氏に対するインタビュー記事を掲載しました。聞き手は小村田義之氏ということです。石井氏は、1957年生れの元駐米公使で、現在学習院大学特別客員教授だということですが、その主張には、いろいろ問題があると思いました。
私は停戦には大賛成ですが、石井氏が主張するようなの停戦の仕方には賛成できないのです。
石井氏の言うように、人間の尊厳や人命を考慮するのであれば、まず停戦することが大事であり、停戦は無条件でなされるべきで、両国がどのように妥協するかは、停戦後に話し合うべきだと思います。
彼は、
”ウクライナの戦地で多くの命が失われている状況は、昨今、日本政府が唱えている人間の尊厳にも反しています。これ以上、戦争を続けるのはやり過ぎでしょう。欧米には『支援疲れ』が広がり、米大統領選挙で共和党のトランプ前大統領は『自分が大統領になればウクライナ戦争を止める』と明言しています。」
「トランプ氏が返り咲くかはまだわかりませんが、いずれにせよ欧米の支援が細っていけばウクライナは戦えなくなります。こうした事態を想定し、停戦を模索すべきタイミングです。ロシアが侵略で得をした形にならないような停戦条件を各国が話し合い、共通認識を築くことが必要です」
と主張しています。”これ以上、戦争を続けるのはやり過ぎでしょう”とか、”停戦を模索すべきタイミング”とかいう考え方は問題だと思います。また、負けそうだから停戦した方がよいと言っているようにも思います。それは、戦えるのであれば、停戦しなくてもよいと言っているに等しいと思うのです。ウクライナ戦争は最初から、”人間の尊厳”に反するするものであったと思います。
また、ロシアが侵略で得をした形の停戦にならないようにというような、西側諸国に都合の良い条件を関係国で事前に話し合って、停戦を提起するというのは、いかがなものかと思います。
停戦には妥協が必要です。ウクライナ戦争が、ロシアの侵略で始まったというようなことを前提にしては、停戦は実現しないと思います。また、”人間の尊厳”や人命を考慮して、なによりも停戦を優先すべきで、話し合いが進まなければ、戦争を続けるというようなことではいけないと思います。
特に問題だと思うのは、石井氏が、「停戦の結果 ロシアが得をする形にしないことが重要です。侵略したロシアに甘く対応すれば、戦争が多発する世界になってしまいます」と主張していることです。停戦して、国際社会が法に基づいて対処すれば、「戦争が多発する世界」などには決してならない、と私は思います。この主張は、バイデン政権の戦略に基づくプロパガンダだと思います。
ふり返れば、圧倒的な軍事力と経済力をもって、あちこちで武力行使をくり返してきたのは、アメリカを中心とする西側諸国であり、また、現在パレスチナを攻撃しているイスラエルです。イスラエルは不当に領土を占領し、圧倒的に有利な軍事力を背景に、パレスチナ人の人命や人権を無視する対応をくり返してきたと思います。
イスラエルのユダヤ人は、誰も住んでいない荒れ地に入植したのではないのです。何世代にもわたってパレスチナの地に住み続けてきたパレスチナ人から土地や家を奪って移住したのです。だからそれは「入植」などではなく、「侵略」です。「入植」などという言葉でごまかしてはいけないと思います。
でも、それがイギリスの「二枚舌外交」とか「三枚舌外交」といわれるような外交によってもたらされたので、国際機関は、そうした不当なイスラエルの「侵略」を、国際法に基づいて裁くことをしなかったし、できなかったのだと思います。
だから、西側諸国が国際法を遵守すれば、戦争が多発することなどないと思います。ハマスやヒズボラやフーシの戦いは、抵抗の戦いであり「ジハード」であることを理解すべきだと思います。だから、石井氏の主張は、バイデン政権の戦略からきているのではないか、と私は想像せざるを得ないのです。
さらに、次期大統領がトランプになりそうだから、その前に停戦した方がよいというのも、いかがなものかと思います。それは、人々を欺瞞する停戦であることを、告白しているようなものだと思います。
下記は、「君はパレスチナをしっているか」奈良本英佑(ほるぷ出版)から「3 大国のエゴイズム」の「サイクス・ピコ協定」と「シオニストの計画にイギリスが力を貸す理由」を抜萃しました。「バルフォア宣言」と「フサイン・マクマホン書簡」に、この「サイクス・ピコ協定」を加えて、イギリスの「三枚舌外交」と揶揄されるようですが、世界中でやりたい放題をやってきたのは西側諸国であることがよくわかると思います。だから、西側諸国が一致して国際法を遵守すれば、「戦争が多発する」ことなどないと思うのです。
朝日新聞は、イスラエルの ネタニヤフ首相が ガザのイスラム組織ハマス提案の「停戦」について、「拒否する」との声明を発表したことを報じました。そして、”人質解放のための停戦などを目指した協議を促す米政府にも反発した”ということで、”米側との「溝」も改めて浮き彫りとなった”というのですが、私は、アメリカとイスラエルの間に、「溝」などないと思っています。
バイデン政権は、ハマス殲滅のみならず、パレスチナ人の殲滅を目標としているイスラエルが、国際社会で孤立することを避けるために、あえて「溝」があるようにふるまって、イスラエルのパレスチナ人殲滅戦争を支えているのだと想像します。
バイデン政権がイスラエルを支援する背景には、アメリカに600万人前後のユダヤ人が存在し、ユダヤ・ロビー(イスラエル・ロビー)が影響力を行使していることがあると思います。それは、イスラエル建国の父といわれるベングリオンが、ユダヤ人国家の樹立を宣言した時、当時のアメリカ大統領トルーマンが、世界に先駆けてイスラエルを国家承認したことにもあらわれていたと思います。
また、ケネディ大統領が、イスラエルとの関係を「特別な関係」と呼んだこともよく知られていることだと思います。
現在アメリカは、アラブ諸国に接近する中国やロシアに対抗するため、イスラエルとの関係を今まで以上に強固なものにする必要に迫られていると思います。
アメリカがイスラエルを見放せば、中東における足がかりを失うことになり、影響力の衰退に拍車がかかってしまうので、バイデン政権は、イスラエルがどんなに人道犯罪をくり返しても、決して見放すことはないと思います。
だから、国際世論を欺くために、あえてイスラエルと「溝」があるように装っている、と私は想像しているのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サイクス・ピコ協定
さて、もう一つの約束は、ふつう「サイクス・ピコ協定」の名で知られる。
サイクス・ピコ協定は、アラブの反乱が始まる1916年5月までに成立した秘密協定だが、その要点は、シリア・パレスチナとメソポタミアという、アラブ地域のなかでももっとも重要なところを、イギリスとフランスが勝手に分割して、それぞれの「縄張り」にすることだ。
この協定のなかで、エルサレムを中心とするパレスチナだけは国際管理されることになっていた。国際機関(例えば今日の国際連合)とか、数か国からなる共同管理委員会のようなものがパレスチナを統治するという方法だ。
前に書いた「聖地問題」でもわかるように、ここではキリスト教のさまざまな宗派、それぞれに結びつくヨーロッパ諸国の利害関係が複雑に入り乱れていた。だからどこか一国が縄張りを主張すれば、おさまりがつかなくなっただろう。
要するに、この協定は、戦争に勝ったら、連合国側のヨーロッパ諸国の間で、オスマン帝国の遺産を「仲良く」分けあおうというものだった。東問題の産物そのものと言ってもいい。
オスマン帝国に住む人々から見れば、まったくひとをばかにした話だった。だから連合国側にすれば、こんな協定を表ざたにできるわけがなかったのだ。
こんな秘密協定などつゆ知らず、フサインはこの一ヶ月後、オスマン帝国に反旗をひるがえす。
そしてこの一年五カ月後に、あのバルフォア宣言が出る。
同じ月のソビエト革命で権力をとったばかりのボルシェビキ政権がこの秘密協定を暴露して、世界はおおさわぎになる。このさわぎの結末はつぎの章にゆって、話をバルフォア宣言にもどそう。
実をいうと、シオニストは、敵同士のイギリスとドイツの双方に対して、このような約束をとりつける工作をつづけてきた。だが、ドイツはオスマン帝国の同盟国なのでイギリスよりも慎重にならざるを得なかった。
しかし、イギリスも、この宣告を出すにあたって、八方気をつかわねばならなかった。たがいに矛盾する約束のあいだに、つじつまをあわわせる余地を残しておきたかったからだ。
それだけではない。イギリスのユダヤ系市民の多数派は、シオニスト運動に猛烈に反対した。
かれらは、自分たちを「ユダヤ人」とはみなさず、キリスト教徒に何らひけをとらない立派なイギリス市民だと思っいた。この宣言が、パレスチナ以外の「他の地域に住むユダヤ人の権利や政治的地位」の保障をわざわざうたっているのは、かれらの抵抗をかわすためのものであった。
さらに連合国側は、戦争目的として「圧迫を受けている諸民族の解放」をかかげていた。これは、のちに連合国側に立って戦争に加わったアメリカのウィルソン大統領と、革命によって戦争をやめてしまったロシアのボルシェビキ政権が。共に強調した原則である。
だから、ともかく、パレスチナの「非ユダヤ人社会」の権利にも触れないわけにはいかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シオニストの計画にイギリスが力を貸す理由
こんなに無理を重ねても、なお、パレスチナにユダヤ人の国をつくるというシオニストの計画にイギリスが力を貸すことにしたのはなぜか? 多くの理由が考えられるが、もっとも重要なのはつぎの三点だろう。
第一ににスエズ運河のすぐ東側に、将来、イギリスの従属国 または、友好国をつくって、運河の安全を確保したいと思った。第二に、メソポタミア北部に発見された油田からのパイプ・ラインの出口を地中海沿岸側に求めていた。最後に、これらの要求を満たすには、シリア・パレスチナにおけるフランスの縄張りに割り込む必要があった。
第一点は、シオニスト自身がイギリスの援助を求めた際におおいに強調したことだ。イギリスの世界帝国にとってもっとも大切なのは、インドの植民地だった。本国とインドをつなぐスエズ運河は、この帝国の「いのちの綱」といってもよかった。イギリスは、パレスチナを、この海を守る「防壁」にしたかったのだ。
第二点は、この大戦までにイギリス海軍の燃料が石炭から石油切り替えられていたこと、大戦中、その石油輸送船がドイツの潜水艦攻撃の的となったことと関係する。イギリスは、より安全なパイプラインによる陸上輸送ルートの必要性を強く感じていた。メソポタミアから地中海に抜けるルートは、シリア・パレスチナを横切る以外なかった。
だが、シリア・パレスチナはすでにフランスが勢力を伸ばしていた。伝統的なアラブ・カトリック教徒の保護者として、フランスはこの地域との強い経済的つながりを持っており、ここは自分の縄張りだと主張していた。
これに対抗するため、イギリスはやはりパレスチナを聖地とするユダヤ人の保護者を名乗って登場したわけだ。いったんは国債管理することに合意していたパレスチナへの縄張りを主張して、シリア・パレスチナの一角に割り込もうとしたのである。これが第三点目だ。
ともかく、イギリスはこうしてパレスチナに足がかりを築く。だが、それが本当にイギリスの利益になったかどうかは、また別の問題だ。
(資料)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サイクス・ピコ協定(抄)
……前略……
フランス政府とイギリス政府は以下のことを了解する。
一、フランスと大英帝国は、付属地図のA領域とB領域において、アラブ人首長をいただく国家。またはアラブ国家連合を承認し、保護する。 A領域ではフランスが、B領域では大英帝国が、企業活動と借款の優先権を持つ。A領域でフランスが、B領域では大英帝国が、それぞれアラブ国家またはアラブ国家連合の求めに応じて、顧問ないし外国人公務員を提供する。
二、青領域はでフランスが。赤領域では大英帝国が。……直接または間接の統治を行うことを許される。
三、茶色領域には国際的な行政機構が設立される。その形態は、ロシアとの協議、さらに他の連合国およびメッカのシャリーフの代表との協議の後に決められる。
……後略……
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます