下記の、「無力のどん底」は、「イスラエル、イラク、アメリカ ─戦争とプロパガンダ3─」E.W. サイード:中野真紀子訳(みすず書房)から抜萃したものですが、アリエル・シャロンが首相であった、2001年から–2006年頃のイスラエルの蛮行の話です。圧倒的な軍事力を背景に、現在と同じようなパレスチナ人の殺戮や収奪、人権侵害、レバノン侵攻や爆撃が行われていたことが分かります。
見逃せないのは、下記のような記述です。
”・・・それでもなお、イスラエルは、パレスチナ人のテロリズムに抵抗して生き残る為に闘っているのだとシャロンは反論する。これ以上にグロテスクな主張があり得ようか。何しろ、この狂ったアラブ殺しは、そう言いながらF16戦闘機や攻撃型ヘリコプターや何百台もの戦車を、全く防衛のすべがない非武装の人々に差し向けているのである。彼らはテロリストだ、とシャロンは主張する。彼らの指導者は、イスラエルがまわり中を破壊するなかで崩れた建物に屈辱的に監禁されているのだが、史上最大のテロの頭目だと決めつけられる。・・・”
イスラエルは、現在も同じような主張で、同じようなことをやっていると思います。イスラエルはパレスチナ人、特にハマスの指導者を狙い撃ち的に殺害しています。報道によれば、しばらく前ハマス軍事部門トップのムハンマド・デイフ氏を殺害しました。また、イスマイル・ハニヤ指導者を敵対するイランの首都テヘランで殺害しました。そして先日、ハニヤ氏の後継者、ヤヒヤ・シンワル氏も殺害したのです。
びっくりするのは、それを受けて、”ネタニヤフ首相が声明で、「我々は世界に善が悪に勝利すること示したが、戦争は終わっていない」と述べ、今後も戦闘を続ける方針を示した(10月19日、朝日新聞)”ということです。だから私は、シャロン同様、ネタニヤフ首相も、”アラブ殺し”だと思います。
そして、シンワル氏殺害を知ったバイデン大統領は、「イスラエル、米国、世界にとって良い日だ」と歓迎したと伝えられています。
話し合うことをせず、裁判をすることもせず、軍事的優位な立場を利用して、敵対する者を殺害することは 法や道義・道徳を完全に無視した弱肉強食丸出しの考え方だと思います。
サイード氏が指摘するように、本当に”グロテスク”だと思います。
ふり返れば、かつて、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)は、米軍がリビアを破壊し、カダフィ大佐を殺害した時、「来た、見た、彼は死んだ!(Hillary Clinton laughed at killing Gaddafi and destroying Libya: "We came, we saw, he died!!" )」と笑ったとの報道がありました。
オバマ(Barack Obama)大統領も、米軍がビンラディン(Bin Laden)容疑者をパキスタンで殺害したとき、「正義はなされた(Justice has been done. )」と語りました。
でも、忘れてはならないことは、アメリカはアフガニスタンでソ連に抵抗していた武装勢力に武器や資金を援助していましたが、その中心にいたのがビン・ラディンだったということです。過去に支援した相手なのです。また、その殺害の米国の作戦について、パキスタン外務省は声明を出し、パキスタンの承認なしに実施されと、「深い懸念」を表明しているのです。それを「正義はなされた」と言ったのです。
だから私は、そんなアメリカとの同盟関係の強化にはとても問題があると思います。
しばらく前、アメリカ中央情報局(CIA)のバーンズ長官が、講演で、アメリカのインテリジェンス(機密情報)として、中国の習近平国家主席が「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」との見方を示しましたが、それは不安を煽り、日本や韓国、フィリピンその他との軍事的同盟関係を強化するためのアメリカお得意の「作り話」だ、と私は思います。
きちんと確認することなく、信じてはいけない話だと思います。
そういう意味で、DSの解体を宣言している大統領候補トランプ氏に、私は期待するのです。北朝鮮を訪れ、金正恩氏と握手をしたトランプ氏が大統領に返り咲けば、米軍の日本からの撤退のチャンスが訪れるかも知れないと思うからです。トランプ氏が大統領になれば、米軍駐留の経費の日本負担を倍増するよう求めるだろうと言われていますが、それを断れば、米軍が本当に撤退する可能性があると思うのです。
フランスの学者(人口統計学者、歴史学者、人類学者)エマニュエル・トッド氏(Emmanuel Todd)は、9・11 テロから1年後の 2002年9月、『帝国以後』 (Après l'empire) を出し”1991年のソビエト連邦の崩壊以降、アメリカが唯一の超大国になったといわれていたが、そのアメリカも同じ崩壊の道を歩んでおり、衰退しているからこそ世界にとって危険だと述べ、世に衝撃を与えたといわれています。
そのドット氏は、また、”もしロシアがウクライナ紛争で敗北すれば、アメリカに対するヨーロッパの服従が一世紀も長引くことになる(if Russia were to lose in the Ukraine conflict, this would allow “European submission to the Americans to be prolonged for a century.)”といっています。逆に、”アメリカが敗北すれば、NATOは崩壊し、ヨーロッパは自由になるだろう(Russian victory will liberate Europe)”と言っているのです。さらに、”ヨーロッパにおけるロシアの拡張欲望を空想する欧米のロシア嫌いヒステリーは、真面目な歴史家にとっては全くばかげている" とも言っているのです。
”2024年現在、世界は、文字通り(=比喩ではなく)、殺戮、謀略、略奪、嘘で溢れています。主体は決してアメリカだけではなくて、とくに目につくのはイギリス、それからフランス、ドイツ。私たちがずっと憧れ、手本としてきた国々が、一斉に狂気に陥っている”
ということも、その通りだと思います。
特に、”衰退しているからこそ世界にとって危険だ”という指摘は、アメリカが台湾有事を想定した動きをしているだけに、しっかり受け止めるべきだろうと思います。
だから、日米同盟を強化したり、日本がNATOに与するようなことは、歴史の流れに逆行することだと思います。被爆国日本は、日本国憲法の考え方で、軍縮や核廃絶の先頭に立つべきなのだと思うのです。
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無力のどん底
60年前、ヨーロッパのユダヤ人は集団としての存在の最低点にあった。家畜のように群れを作って運搬列車で誘導され、ヨーロッパ中から絶滅収容へとナチ兵士に移送され、ガス室で計画的に抹殺された。ポーランドでは若干の抵抗運動があったものの、たいていのところでは、ユダヤ人はまず市民の資格を失い、次いで職場を追われ、撲滅すべき公敵として名指しされ、やがてそのとうりの目に会った。重要なことについてはいつもユダヤ人はもっと無力な存在だった。自分たちよりずっと強い力を持つ指導者や軍隊から、油断のならない、圧倒的な強さを秘めた敵として扱われたからだ。実際には、後者の優勢はあまりに明らかで、ドイツやフランスやイタリアのような強大な国々にユダヤ人が脅威を与えるなど、とんでもない妄想だった。にもかかわらず、それは定説として受け入れられていた。ユダヤ人が虐殺されているときに、ヨーロッパの大部分はほとんど例外なく知らぬふりをしていたのだから。これは数ある歴史のいたずらの一つにすぎないが、ファシズム体制の胸の悪くなるような官庁用語でユダヤ人を表わすのにもっとも頻用された言葉は「テロリスト」であった。後に、アルジェリア人やベトナム人が彼らの敵から「テロリスト」と呼ばれるようになったのと全く同じである。
人間を襲う災いには、どれひとつとして同じものはない。ある災いと別の災いのあいだに等価を見出そうとしても意味がない。けれどもたしかに言えるのは、ホロコーストについての一つの普遍的真理は、単にそれがふたたびユダヤ人に起こってはならないものだというだけでなく、そのように残酷で悲惨な集団懲罰はどんな人々に対しても起こってはならないということだ。等価を探すことには意味がないとしても、共通項を見出し、隠れた類似性をつきとめようとすることは平衡感覚さえ失わなければ、十分に価値のあることだ。これまで積み重ねてきた失敗や悪政のことはさておいて、ヤセル・アラファトはいまや国家に迫害されるユダヤ人の気持ちを味わっている。狩りたてているのはユダヤ人の国家だ。イスラエル軍はラーマッラーの破壊された議長府にアラファトを閉じ込めて攻撃しているが、その最大のアイロニーは、これを計画・実行している精神病質の指導者がユダヤ人民族を代表していると主張していることだろう。この類比をあまり強引に押し進めるつもりはないが、イスラエル占領下の今日のパレスチナ人が、1940年代のユダヤ人と同じほど無力な状況に置かれているのは事実である。イスラエルの陸・海・空軍は、合衆国から多額の資金援助を受けて、占領下の西岸地区とガザ回廊の全く無防備な一般住民の生活をめちゃくちゃに破壊している。過去半世紀にわたって、パレスチナ人は自分たちの土地を追われてきた。数百万人が難民となり、それをまぬがれた人々も大半は35年に及ぶ軍事占領の下で、組織的に彼らの土地を盗みとる武装した入植者と、数千ものパレスナ人を殺害してきた軍隊のなすがままにされてきた。さらに数千人が投獄され、数千人が生活の道を失い、2度目あるいは3度目の難民化を体験している。こういう人たちには、公民権も人権も与えられていない。
それでもなお、イスラエルは、パレスチナ人のテロリズムに抵抗して生き残る為に闘っているのだとシャロンは反論する。これ以上にグロテスクな主張があり得ようか。何しろ、この狂ったアラブ殺しは、そう言いながらF16戦闘機や攻撃型ヘリコプターや何百台もの戦車を、全く防衛のすべがない非武装の人々に差し向けているのである。彼らはテロリストだ、とシャロンを主張する。彼らの指導者は、イスラエルがまわり中を破壊するなかで崩れた建物に屈辱的に監禁されているのだが、史上最大のテロの頭目だと決めつけられる。アラファトには抵抗する気骨があり、その点では彼は自国民の支持を得ている。アラファトに故意に加えられている屈辱には政治的・軍事的な目的など何もなく、ただの純粋な懲罰以外の何物でもないと、パレスチナ人はみんな感じている。イスラエルは何の権利があってそんなことをするというのか。
このシンボリズムは書きとめるもおぞましいが、シャロンや彼の支援者が──彼の非道な軍隊はいうまでもなく──この象徴が冷酷に指示していることを実行するつもりだと知れば、おぞましさは倍増する。イスラエルのユダヤ人は強力な存在だ。パレスチナ人は、彼らに狩りたてられ、侮蔑される「他者」である。シャロンには幸いなことに、シモン・ペレスという、おそらく今日の世界政治でいちばんの臆病者、一番の偽善者が、イスラエルはパレスチナ人の困難を理解しており、「われわれ」は閉鎖による難儀を少しは和らげる用意があると、そこら中を訪問して吹聴してくれる。その後も何ひとつ改善されないし、それどころか外出禁止令や家屋破壊や殺害はむしろ加速するのだ。もちろんイスラエルは大々的な国際人道支援を呼びかける立場をとっているが、ラーセン中東和平プロセス特別調査官が正確に指摘したように、それは世界各国の資金援助をイスラエルの占領体制の実質的な保証人に仕立て上げようとするものだ。シャロンは、自分には何でもできると思っているに違いない。何をしてもまったく処罰されないばかりか、イスラエルを犠牲者に仕立て上げられるようなキャンペーンさえ不可能ではないのだと。
世界中で大衆の抗議が広がるにつれ、シオニストは組織的な反撃として反ユダヤ主義が高まっているという訴えを起こしている。ほんの2日前には、ハーヴァード大学学長、ローレンス・サマーズが、教授たちを中心とした投資撤収キャンペーン(大学に圧力をかけて、大学が株式を保有するアメリカ企業のうちイスラエルに軍事物資を販売している企業の株式は売却させようという運動)は反ユダヤ主義的だと決めつけるに等しい声明を発表した。アメリカでにもっとも古く資金豊富な大学のユダヤ人学長が、反ユダヤ主義に苦情を述べるとは!合衆国では語るに足るような反ユダヤ主義など存在しないにもかかわらず、いまやイスラエルの政策を批判することは、ホロコーストもたらしたような種類の反ユダヤ主義と同一視されるのが普通になっている。合衆国ではイスラエルとアメリカの学者グループがマッカーシ流儀のキャンペーンを組織して、イスラエルによる人権侵害について大っぴらに話す教授たちを攻撃している。このキャンペーンの主要目的は学生や教師たちに親パレスチナ派の同僚を密告するよう呼びかけることであり、それが言論の自由を脅かし、学問の自由に重大な制約を加えようとするものだ。
ウリ・アヴネリの言う通りだ。アラファトは殺されつつある。そして、アラファトが消えれば、(シャロンの考えによれば)パレスチナ人の目標も一緒に消滅するだろう。それはジェノサイドの一歩手前の行為であり、イスラエルが力にまかせてサディストじみた蛮行を、阻止も捕縛もされることなく、どこまで進めることができるのかを試すものだ。シャロンは今日、イラクとの戦争(確実に起こる)になれば、自分はイラクに復讐すると述べた。したがって、ブッシュとラムズフェルドには自業自得の悪夢が引き起こされることはまちがいない。シャロンは最後に政権のすげ替え(レジーム・チェンジ)を図ったのは、1982年のレバノン侵攻中のことだった。シャロンはバシール・ジェマイエルをレバノンの大統領に据えたが、ジェマイエルからレバノンはイスラエルの家来にはならないと手短に宣告された。そしてジェマイエルは暗殺され、続いてサブラーとシャティーラのパレスチナ人難民キャンプでの大虐殺が起きた。その後20年にわたり血なまぐさい不名誉な占領を続けたあげく、イスラエルはしぶしぶレバノンから引きあげた。
このような前例から、どのような結論が導かれるだろうか。イスラエルの政策は、中東地域全体にたいへんな災いをもたらしてきた。イスラエルが強大になればなるほど、周辺諸国に多くの災厄をまき散らし(パレスチナ社会の崩壊はいうまでもない)、一段と周囲の憎しみを買うことになるのだ。その力が奉仕しているのは邪悪な目的であり、自己防衛のためでは全くない。ユダヤ国家を他のすべての国と同じ普通の国にしたいというシオニストの夢は、パレスナ先住民の指導者のヴィジョンにもなっている。だが、その男はいまやイスラエルの戦車とブルドーザーがまわりじゅうを破壊しつづける中で、首の皮一枚で命を繋いでいるのだ。こんなことが何十万もの人々の犠牲の上に成り立つシオニズムの目標だというのか。どのような恨みと暴力の論理がそこに働いているかは、明白ではないだろうか。そして無力な人々のあいだから。どのような力が出現するか(今はだまって見守るしか術のない人々だが、将来かならずそれを生み出す)は明らかではないのか。シャロンは得意気に世界全体を無視しているが、それは世界が反ユダヤ主義だからではなく、ユダヤ人の名において自分のしていることがあまりに非道なものだからだ。彼のおぞましい行為は自分たちを代表するものではないと思う者たちにとっては、それに待ったをかける時が来ているのではないだろうか。
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