真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「従軍慰安婦」五つの問題点(藤岡信勝)に対する異論②

2020年09月26日 | 国際・政治

 藤岡信勝氏が「国民の油断 歴史教科書が危ない」(PHP文庫)で、「従軍慰安婦」五つの問題点の第二として指摘しているのは、下記のとおりです。

第二に、慰安婦問題の焦点は、強制連行があったかどうかです。
 それが焦点なのです。軍に付属の慰安施設があって、そこで売春が行われていたことは、誰もが認めていることで争いがありません。男性の集団である軍を相手に、戦地で売春という商売が行われていたこと自体は、当時において違法でも何でもないのです。
 問題は、日本軍が組織的に取り組んで強制的に朝鮮の女性を連行した事実があれば、これはセックス・スレイブ(性奴隷)です。しかし、そうでなければ、これは自由意志によって、仕事として、職業としてやっていたことで、プロスティテュート(売春婦)です。プロスティチューション(売春)は、人類の最も古い職業と言われています。強制連行があったという事実は、ただの一件も確実な証拠によって証明されていません。まして、日本軍が方針として強制連行したなどということはありません。

 藤岡氏のこのような主張には、いくつかの問題があると思います。
 先ず藤岡氏は、元「従軍慰安婦」の数多くの証言を完全に無視されていると思います。日本側に強制連行の証拠が残されていなくても、それが、強制連行がなかったということにはならないと思います。自ら売られたことを証言している元「従軍慰安婦」の方もおられるのですが、その多くは騙されたという証言であり、強制連行されたという証言もあるのです。
 藤岡氏と同じようなことをいう人たちが少なくないので、私は証言集から、下記のような証言を抜き出してアップしています。こうした韓国、中国、台湾、フィリピンの元「従軍慰安婦」の人たちの証言が、すべて”嘘”であると、どうして断定できるのでしょうか。

 朝鮮人慰安婦の声に”耳を澄ませる"その1── 初潮前に処女を奪われ 李相玉(イ・サンオク)
 朝鮮人慰安婦の声に”耳を澄ませる"その2──「一家に一人の供出」だと言われ  
                                   黄錦周(ファンクムジュ)
 朝鮮人慰安婦の証言 その3 ─────────  挺身隊から慰安婦に 姜徳景(カンドクキョン)
 朝鮮人慰安婦の証言 その4 ────── 自宅のそばの慰安所に監禁  尹頭理(ユンドウリ)
 中国に連行された「慰安婦」──── 家の中でも、外に出てもみじめだ 洪江林(ホン・ガルリム) 
 中国に連行された朝鮮人「慰安婦」─── 故郷の歌に悲しみをこめて…  鄭学銖(チョン・ハクス)   
 強制連行、監禁、強かん ─────  十人が監禁されていた     テオドラ・コグロン・インテス 
 慰安婦狩り、監禁、強かん、殺人  ── 父を殺され、将来を破壊された  トマサ・サリノダ  

 また、藤岡氏は”慰安婦問題の焦点は、強制連行があったかどうかです。それが焦点なのです”といいますが、「従軍慰安婦」の問題は「強制連行」だけではないのです。「慰安婦」を戦地に送り、「慰安所」に拘束するような状況において、性交渉を強制することも、著しい人権侵害だと思います。「性奴隷」といわれる所以です。強制連行がなくても問題なのです。

 さらに、藤岡氏は”当時において違法でも何でもないのです”というのですが、「醜業婦ノ取締ニ関すスル1910年5月4日国際条約」には


第1条 何人ニ拘ラス他人ノ情欲ヲ満足セシムル為メ売淫セシムル意思ニテ未丁年ノ婦娘ヲ傭入レ誘引若クハ誘惑シタル者ハ仮令本人ノ承諾アルモ又犯罪構成ノ要素タル各種ノ行為カ他国ニ於テ遂行セラレタルトキト雖モ処罰セラルヘキモノトス 

第2条 何人ニ拘ラス、他人ノ情欲ヲ満足セシムル為メ売淫セシムル意思ニテ詐偽、暴行、強迫、権勢其他強制的手段ヲ以テ成年ノ婦娘ヲ雇入レ誘引若クハ誘惑シタル者ハ仮令犯罪構成ノ要素タル各種ノ行為カ他国ニ於テ遂行セラレタルトキト雖モ処罰セラルヘキモノトス

第3条 現ニ各締盟国ノ法規カ前2条ニ規定セラレタル犯罪ヲ処罰スルニ足ラサルトキハ締盟国ハ各自国ニ於テ其犯罪ノ軽重ニ従ヒ処罰スル為メ必要ナル処分ヲ定メ若クハ之ヲ立法府ニ建議センコトヲ約束ス” 


 とあります。未丁年(未成年)の場合は、たとえ本人の承諾があっても婦女子を「慰安婦」のような立場におくことを犯罪とする国際法があったのです。日本軍は、性病の関係で売春の経験がある女性ではなく若い女性を求めたので、多くの少女が「慰安所」に送られました。”当時において違法でも何でもないのです”というのは、事実に反し、国際法を無視するものだと思います。 

 また、藤岡氏は”強制連行があったという事実は、ただの一件も確実な証拠によって証明されていません。まして、日本軍が方針として強制連行したなどということはありません”などと断定しているのですが、敗戦時、大量の公文書が焼却処分されたことを、どのように考えておられるのか疑問に思います。

 当時内務省の官僚だった故・奥野誠亮元法相が、公文書焼却の指示について、下記のようなことを明かしたと聞いています。
 ”ポツダム宣言は「戦犯の処罰」を書いているから、私が会議で、「犯罪人を出さないために、証拠にされるような公文書は全部焼かせてしまおう」と言った。その後、公文書焼却の指令書を書いた
 そして、現実に大量の公文書が焼却処分されたのです。焼却処分に関しては、多く人がその事実を証言しています。奥野発言を待つまでもなく、それは、責任ある立場の人たちが、犯罪に問われることを逃れるための対応だったと思います。

 日本がポツダム宣言を受諾を決定した直後から、公文書の焼却が各機関で行われたのです。それは当然のことながら、内務省関係だけではなく、軍関係で特に徹底されたのです。大本営や陸軍省・海軍省はもちろん、各司令部や現地部隊にいたるまで、文書の焼却処分が指示・徹底されたといいます。そして、それは兵士・軍物資の供給を担っていた各地方行政機関にまで及んだと聞いています。
 膨大な公文書を焼却処分しておきながら、多くの元「従軍慰安婦」の証言を無視し、”強制連行があったという事実は、ただの一件も確実な証拠によって証明されていません。まして、日本軍が方針として強制連行したなどということはありません”などと断定する資格が、日本人にあるのでしょうか。

 「従軍慰安婦資料集」吉見義明編(大月書店)には、下記のような陸軍省兵務局兵務課起案の文書が取り上げられています。軍や官憲が「慰安所」の設置・運営に深く関わっていたこと、そして、「慰安婦」が単なる売春婦ではなかったことを示しているのではないかと思います。

1938年3月4日   
            軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件
        副官ヨリ北支方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒案

 支那事変地ニ於ケル慰安所設置ノ為、内地ニ於テ之ガ従業婦等ヲ募集スルニ当リ、故ラ(コトサラ)ニ軍部諒解等ノ名義ヲ利用シ、為ニ軍ノ威信ヲ傷ツケ、且(カ)ツ一般民ノ誤解ヲ招ク虞(オソレ)アルモノ、或ハ従軍記者、慰問者等ヲ介シテ不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起スル虞アルモノ、或ハ募集ニ任ズル者ノ人選適切ヲ欠キ、為ニ募集方法誘拐ニ類シ、警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル等、注意ヲ要スルモノ少ナカラザルニ就テハ、将来是等(コレラ)ノ募集ニ当タリテハ、派遣軍ニ於テ統制シ、之ニ任ズル人物ノ選定ヲ周到適切ニシ、其ノ実施ニ当リテハ、関係地方ノ憲兵及警察当局トノ連繋(レンケイ)ヲ密ニシ、以テ軍ノ威信保持上、並ニ社会問題上、遺漏ナキ様配慮相成度(アイナリタク)、依命(メイニヨリ)通牒ス。

 藤岡氏のように、日本にとって不都合な事実に目を向けない主張では、日中や日韓の関係は永遠に改善されないことになるのではないでしょうか。われわれだけでなく、将来世代にとっても、大変不幸なことだと思います。また、国際平和や経済的側面でも大変なマイナスだと思います。私は、真摯に歴史の事実に向き合って、信頼関係を深めたいと思います。
 


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