青田先輩と一緒に取っている授業だが、今日の雪の隣は空席だった。
なぜかというと、四年生は皆卒業写真の撮影が入っているのだ。教室も所々空席が目立つ。
教授は「あのイケメンの子が居ないから寂しいわ」と言って、雪にプリントを渡す役目を任せた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/88/6f700ae52c56d7ffd5a6d40ee82a9605.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/e5/6f305bc5e3379e3677c75af8dce225b5.jpg)
卒業写真撮影の建物の周りには、スーツ姿の四年生達で賑わっていた。
雪は携帯画面を見ながら、幾分の緊張を持て余す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/65/9b9a11c7b3262e6de58765ab130ca734.jpg)
実は自分から青田先輩にメールを送るのは初めてだったのだ。
考えに考えて、とりあえずシンプルな文面を作成した。
先輩 プリントを渡したいのですがどこにいますか?”
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/65/47d49922dcbe1ef77192945ee397f281.jpg)
するとすぐに返信が届いた。
学館の二階まで持って来てもらえると嬉しいな^^
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/88/c9faa01bc6b77ed4fb6822c3049dae3e.jpg)
雪は学館へと向かう。
学館といってもその建物は大きく、今日は人が多く集まっていることもあり、
雪は先輩の姿を探してしばし彷徨った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/90/063f901ce6e301bccd11574c46e268db.jpg)
すると通りがかった空き教室から、カシャッと携帯のシャッター音が聞こえ、
雪はそちらの方を見る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/24/3ab9ceb13c4d325519fcf18d8f0167d0.jpg)
振り返ると、青田先輩が自分に向けてカメラを構えているところだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/f0/4e3754e9ed07c4a3494b87b9caf1c733.jpg)
「せ‥先輩?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/2a/63508d31ed5eb25b59c0ced1b02b7920.jpg)
「‥あ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/76/6be68392ad418ffd43bfd4ab289ee919.jpg)
先輩は撮影の順番まで結構あるから暇でさ‥と決まり悪そうに頭を掻いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/fb/96d86a2738b90f78a4f7d8184bd83f0a.jpg)
二人の間をなんとも気まずい空気が流れる。
「学校でスーツ着ることなんて滅多にないだろ。記念にね‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/6b/08fef181bdbd61ed259589a8f6796d88.jpg)
恥ずかしいとこみられちゃったな、と先輩は照れていた。
雪は先輩が言っていることには共感出来るけれど、この人がこういうことをすることの違和感を、
訳もなく覚えてしまう。
「あ、そうだプリント。ありがとな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/6e/790c38758260722c47cfeb07302a9088.jpg)
こんなに戸惑った彼は初めて見る。
でもその笑顔はなんとも爽やかで、雪はなんだかムズムズした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/8c/f6d61e8bbacc19095cd64f49f7bf237d.jpg)
自分があの顔なら確かに毎日自撮りしてるかも‥
こうして見るとやっぱりかっこいいかもしれない‥。
‥って何を考えてるんだ!赤山雪!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/87/f2edcce91de530e107999c9b659d080b.jpg)
雪は再び自分を諌めた。あの笑顔に騙されてはいけない、と。
プリントを渡しながら、先輩はブログかなんかやってるんですか、と雪は尋ねた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/94/a8df0f2e21518ea838331b6d653d5f99.jpg)
先輩は笑いながら否定する。
そんなに俺が自撮りしてるのが不思議だった?と。
「普段は写真なんて滅多に撮らないよ。
あんまり好きじゃないんだけど、たまに気が向いた時、撮ったりするんだ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/34/d54451a06946cf86814e8986f046df25.jpg)
先輩は彼を見上げる雪を見て、その気持ちを語る。
「今、この瞬間は今しかないだろ?今しかない特別な瞬間を、メモしてあげるみたいにね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/67/efa57f0e1154d555a23b225fb4311375.jpg)
「そうすることによって、意義を感じられるだろう?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/cb/eddbec565828ac7501bfe97cf75d57de.jpg)
意義‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/92/9dad51dcdf534d2c2897ffab205258aa.jpg)
雪の心には、その”意義”という言葉が強く残った。
今日は”卒業写真を撮る日”ということで一枚撮ったと先輩は言う。
どこかにアップこそしないけれど、心の中のブログみたいなもんだとも。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/3c/fe02d9735c58b3054e25cc388f3adda2.jpg)
とにもかくにも、もう話すネタも無くなってしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/82/63e3ab888eeb735e3615024fb7ecf6f7.jpg)
雪はそそくさとこの場を去ろうとした。
すると、先輩は雪を呼び止め言う。
「ねぇ雪ちゃん、一緒に写真撮ろうよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/51/98b77389946f4c15d8ab7da2146d2eb3.jpg)
「は‥はぃぃ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/c9/1ddf04b072db62111335cfbed29109f7.jpg)
雪は動揺した。この人はいきなり何を言い出すのだ‥。
しかし先輩は雪を手招きして、こっちにおいでと微笑んでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/89/eeb83cad4b8fa53168de7fc63b3d7583.jpg)
その笑顔を前にしては断り切れず、雪は彼の隣りに並んだ。
私は写真写りが良くないと言う彼女に、先輩は気にすることないと笑う。
「雪ちゃんと撮りたかったんだ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/ce/a7f56c86493d22624b071b953b7136c1.jpg)
「‥‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/ee/5b765e26c53e658f7c8b0a121b4ba3d6.jpg)
雪は彼がなぜこんなことをするのか分からなかったし、幾分戸惑ってはいたが、彼の要求に応じた。
なぜならその言葉の裏に、腹黒いものを感じなかったから。
彼は「自撮りしてるの見つかっちゃったから、その口止め料な^^」と無邪気に冗談まで言っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/75/0e7c668313351e0a91989aac813f33b9.jpg)
雪は緊張の面持ちで、カメラの前に立った。
シャッターが切られる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/4c/e869f096629fdbe9b142a2394185eea4.jpg)
出来上がった写真を二人して覗き込んだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/23/588f477a25aa92e1ba35964ee491b3cf.jpg)
「ぎゃっ!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/75/0db93b257e0f17cf13c6aefd81eaaf86.jpg)
雪は写真の出来を見て取り乱した。
髪の毛はボサボサだし、目はラリッてるし、マヌケな顔してますよとテンパっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/90/a0522d4dce7e21ac5a3839cd596b67c8.jpg)
先輩は変なところは何もない、俺だって前髪で目が隠れてるでしょ?と言うと、雪に携帯を取られないよう高く掲げた。
(雪が「先輩の前髪はいつも屋根みたいじゃないですか」と言うと、彼は少しショックを受けた。
)
半泣きの雪に対して、先輩は誰にも見せないし自分が記念に取っておくだけだと言った。
「それに全然変じゃないよ!可愛いよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/81/381dd9d5159af06ec21f6c7fde781657.jpg)
雪は赤面した。きっとからかっているだけだろうけど。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/c0/99a3173cde23f67b9fb5e94464d2d5a4.jpg)
雪は街を歩きながら、やっぱり撮るんじゃなかったと後悔していた。
あれじゃあ芸能人と写メ撮った一般人みたいだ。
雪は恥ずかしさに悶絶した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/88/cf71ed5054851d21fa1c4ea1cbd3b5ca.jpg)
ふと、見覚えのあるショーウインドウの前を通りがかった。
「あっ!ブーツ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/75/03f6a646a007e798f2a59ca84c40cbc9.jpg)
幸いあのブーツはまだ残っていた。
値段は張るが、これは雪に履かれる為に生まれてきたものと考えて、雪は店に入った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/ee/f2adee260d3ef412e6c8375ada38eb8f.jpg)
レジまで進み、お金を出そうと財布を開けた時だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/83/8d4dd65a6d5f133a8bc9aabe6d458e57.jpg)
ふと、紙幣を取り出す手が止まる。
店員さんはもう箱詰めされたブーツを手に雪の支払いを待っていたが、
雪はお金を置いてきちゃったと言うと、そのまま店を出た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/1a/c544f60892b007e29783dcfc12efb548.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/77/892812506bcd83db6256d3151b794465.jpg)
雪は父親から貰ったお小遣いを封筒にしまうと、
それを本の間に挟んでページを閉じた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/f9/0a57d30e77f5ab7d57e78f5485742490.jpg)
布団に入って目を閉じると、父親の小言が鼓膜の内側に反響する。
父の後ろ姿は、暗く陰っていた。
女の子は高いお金を出してまで大学に通う必要は無いからな
またすぐ行かなくちゃならないんだよ 蓮のこともよろしく頼んだぞ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/64/2ea9089739d1cde012eeda23bc966e5f.jpg)
しかし振り向いた父は、その表情が窺えるほど明るく、頼もしく見えた。
お前は父さんに似て賢いからな 久しぶりに顔を見たんだ。お小遣いでもやらないとな
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/14/749a30c2fdf7bc27122f003956659126.jpg)
雪の脳裏に、続いて青田先輩が映った。
今しかない特別な瞬間を、メモしてあげるみたいにね。
そうすることによって、意義を感じられるだろう?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/63/40a8011f0a0a27103584188e36743b97.jpg)
雪は誰に話すでも無く、心の中で呟いた。
すみません。
褒められてお小遣いをもらったのが久々過ぎて‥。
いや初めてで‥。
もったいなくてお金を使うことができませんでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/9c/da1676b801359c2ce3e38ae133d76bce.jpg)
意義?
それはよく分かりません。
けれど‥
それが何だって言うんだろう。
意義を付けるなら、ブーツを買って所有欲を得れば良かった。
意味を持たせるなら、通帳に入れて学費の足しにすれば良かった。
けれど雪が大切にしたかったのは、大事に仕舞っているのは、初めて貰った父親からの気持ちだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<その意義(2)>でした。
行動全てに意義や意味を持たせようとする先輩と、それが問題じゃないと思っている雪。
並んで映った写メでは二人の距離は近いですが、その価値観はやはり離れているように感じます。
次回は<憂鬱な環境>です。
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なぜかというと、四年生は皆卒業写真の撮影が入っているのだ。教室も所々空席が目立つ。
教授は「あのイケメンの子が居ないから寂しいわ」と言って、雪にプリントを渡す役目を任せた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/88/6f700ae52c56d7ffd5a6d40ee82a9605.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/e5/6f305bc5e3379e3677c75af8dce225b5.jpg)
卒業写真撮影の建物の周りには、スーツ姿の四年生達で賑わっていた。
雪は携帯画面を見ながら、幾分の緊張を持て余す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/65/9b9a11c7b3262e6de58765ab130ca734.jpg)
実は自分から青田先輩にメールを送るのは初めてだったのだ。
考えに考えて、とりあえずシンプルな文面を作成した。
先輩 プリントを渡したいのですがどこにいますか?”
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/65/47d49922dcbe1ef77192945ee397f281.jpg)
するとすぐに返信が届いた。
学館の二階まで持って来てもらえると嬉しいな^^
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/88/c9faa01bc6b77ed4fb6822c3049dae3e.jpg)
雪は学館へと向かう。
学館といってもその建物は大きく、今日は人が多く集まっていることもあり、
雪は先輩の姿を探してしばし彷徨った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/90/063f901ce6e301bccd11574c46e268db.jpg)
すると通りがかった空き教室から、カシャッと携帯のシャッター音が聞こえ、
雪はそちらの方を見る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/24/3ab9ceb13c4d325519fcf18d8f0167d0.jpg)
振り返ると、青田先輩が自分に向けてカメラを構えているところだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/f0/4e3754e9ed07c4a3494b87b9caf1c733.jpg)
「せ‥先輩?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/2a/63508d31ed5eb25b59c0ced1b02b7920.jpg)
「‥あ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/76/6be68392ad418ffd43bfd4ab289ee919.jpg)
先輩は撮影の順番まで結構あるから暇でさ‥と決まり悪そうに頭を掻いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/fb/96d86a2738b90f78a4f7d8184bd83f0a.jpg)
二人の間をなんとも気まずい空気が流れる。
「学校でスーツ着ることなんて滅多にないだろ。記念にね‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/6b/08fef181bdbd61ed259589a8f6796d88.jpg)
恥ずかしいとこみられちゃったな、と先輩は照れていた。
雪は先輩が言っていることには共感出来るけれど、この人がこういうことをすることの違和感を、
訳もなく覚えてしまう。
「あ、そうだプリント。ありがとな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/6e/790c38758260722c47cfeb07302a9088.jpg)
こんなに戸惑った彼は初めて見る。
でもその笑顔はなんとも爽やかで、雪はなんだかムズムズした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/8c/f6d61e8bbacc19095cd64f49f7bf237d.jpg)
自分があの顔なら確かに毎日自撮りしてるかも‥
こうして見るとやっぱりかっこいいかもしれない‥。
‥って何を考えてるんだ!赤山雪!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/87/f2edcce91de530e107999c9b659d080b.jpg)
雪は再び自分を諌めた。あの笑顔に騙されてはいけない、と。
プリントを渡しながら、先輩はブログかなんかやってるんですか、と雪は尋ねた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/94/a8df0f2e21518ea838331b6d653d5f99.jpg)
先輩は笑いながら否定する。
そんなに俺が自撮りしてるのが不思議だった?と。
「普段は写真なんて滅多に撮らないよ。
あんまり好きじゃないんだけど、たまに気が向いた時、撮ったりするんだ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/34/d54451a06946cf86814e8986f046df25.jpg)
先輩は彼を見上げる雪を見て、その気持ちを語る。
「今、この瞬間は今しかないだろ?今しかない特別な瞬間を、メモしてあげるみたいにね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/67/efa57f0e1154d555a23b225fb4311375.jpg)
「そうすることによって、意義を感じられるだろう?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/cb/eddbec565828ac7501bfe97cf75d57de.jpg)
意義‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/92/9dad51dcdf534d2c2897ffab205258aa.jpg)
雪の心には、その”意義”という言葉が強く残った。
今日は”卒業写真を撮る日”ということで一枚撮ったと先輩は言う。
どこかにアップこそしないけれど、心の中のブログみたいなもんだとも。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/3c/fe02d9735c58b3054e25cc388f3adda2.jpg)
とにもかくにも、もう話すネタも無くなってしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/82/63e3ab888eeb735e3615024fb7ecf6f7.jpg)
雪はそそくさとこの場を去ろうとした。
すると、先輩は雪を呼び止め言う。
「ねぇ雪ちゃん、一緒に写真撮ろうよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/51/98b77389946f4c15d8ab7da2146d2eb3.jpg)
「は‥はぃぃ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/c9/1ddf04b072db62111335cfbed29109f7.jpg)
雪は動揺した。この人はいきなり何を言い出すのだ‥。
しかし先輩は雪を手招きして、こっちにおいでと微笑んでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/89/eeb83cad4b8fa53168de7fc63b3d7583.jpg)
その笑顔を前にしては断り切れず、雪は彼の隣りに並んだ。
私は写真写りが良くないと言う彼女に、先輩は気にすることないと笑う。
「雪ちゃんと撮りたかったんだ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/ce/a7f56c86493d22624b071b953b7136c1.jpg)
「‥‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/ee/5b765e26c53e658f7c8b0a121b4ba3d6.jpg)
雪は彼がなぜこんなことをするのか分からなかったし、幾分戸惑ってはいたが、彼の要求に応じた。
なぜならその言葉の裏に、腹黒いものを感じなかったから。
彼は「自撮りしてるの見つかっちゃったから、その口止め料な^^」と無邪気に冗談まで言っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/75/0e7c668313351e0a91989aac813f33b9.jpg)
雪は緊張の面持ちで、カメラの前に立った。
シャッターが切られる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/4c/e869f096629fdbe9b142a2394185eea4.jpg)
出来上がった写真を二人して覗き込んだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/23/588f477a25aa92e1ba35964ee491b3cf.jpg)
「ぎゃっ!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/75/0db93b257e0f17cf13c6aefd81eaaf86.jpg)
雪は写真の出来を見て取り乱した。
髪の毛はボサボサだし、目はラリッてるし、マヌケな顔してますよとテンパっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/90/a0522d4dce7e21ac5a3839cd596b67c8.jpg)
先輩は変なところは何もない、俺だって前髪で目が隠れてるでしょ?と言うと、雪に携帯を取られないよう高く掲げた。
(雪が「先輩の前髪はいつも屋根みたいじゃないですか」と言うと、彼は少しショックを受けた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/d9/3bf8a8d510d8533a0cad843a80f06003.jpg)
半泣きの雪に対して、先輩は誰にも見せないし自分が記念に取っておくだけだと言った。
「それに全然変じゃないよ!可愛いよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/81/381dd9d5159af06ec21f6c7fde781657.jpg)
雪は赤面した。きっとからかっているだけだろうけど。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/c0/99a3173cde23f67b9fb5e94464d2d5a4.jpg)
雪は街を歩きながら、やっぱり撮るんじゃなかったと後悔していた。
あれじゃあ芸能人と写メ撮った一般人みたいだ。
雪は恥ずかしさに悶絶した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/88/cf71ed5054851d21fa1c4ea1cbd3b5ca.jpg)
ふと、見覚えのあるショーウインドウの前を通りがかった。
「あっ!ブーツ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/75/03f6a646a007e798f2a59ca84c40cbc9.jpg)
幸いあのブーツはまだ残っていた。
値段は張るが、これは雪に履かれる為に生まれてきたものと考えて、雪は店に入った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/ee/f2adee260d3ef412e6c8375ada38eb8f.jpg)
レジまで進み、お金を出そうと財布を開けた時だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/83/8d4dd65a6d5f133a8bc9aabe6d458e57.jpg)
ふと、紙幣を取り出す手が止まる。
店員さんはもう箱詰めされたブーツを手に雪の支払いを待っていたが、
雪はお金を置いてきちゃったと言うと、そのまま店を出た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/1a/c544f60892b007e29783dcfc12efb548.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/77/892812506bcd83db6256d3151b794465.jpg)
雪は父親から貰ったお小遣いを封筒にしまうと、
それを本の間に挟んでページを閉じた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/f9/0a57d30e77f5ab7d57e78f5485742490.jpg)
布団に入って目を閉じると、父親の小言が鼓膜の内側に反響する。
父の後ろ姿は、暗く陰っていた。
女の子は高いお金を出してまで大学に通う必要は無いからな
またすぐ行かなくちゃならないんだよ 蓮のこともよろしく頼んだぞ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/64/2ea9089739d1cde012eeda23bc966e5f.jpg)
しかし振り向いた父は、その表情が窺えるほど明るく、頼もしく見えた。
お前は父さんに似て賢いからな 久しぶりに顔を見たんだ。お小遣いでもやらないとな
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/14/749a30c2fdf7bc27122f003956659126.jpg)
雪の脳裏に、続いて青田先輩が映った。
今しかない特別な瞬間を、メモしてあげるみたいにね。
そうすることによって、意義を感じられるだろう?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/63/40a8011f0a0a27103584188e36743b97.jpg)
雪は誰に話すでも無く、心の中で呟いた。
すみません。
褒められてお小遣いをもらったのが久々過ぎて‥。
いや初めてで‥。
もったいなくてお金を使うことができませんでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/9c/da1676b801359c2ce3e38ae133d76bce.jpg)
意義?
それはよく分かりません。
けれど‥
それが何だって言うんだろう。
意義を付けるなら、ブーツを買って所有欲を得れば良かった。
意味を持たせるなら、通帳に入れて学費の足しにすれば良かった。
けれど雪が大切にしたかったのは、大事に仕舞っているのは、初めて貰った父親からの気持ちだった。
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<その意義(2)>でした。
行動全てに意義や意味を持たせようとする先輩と、それが問題じゃないと思っている雪。
並んで映った写メでは二人の距離は近いですが、その価値観はやはり離れているように感じます。
次回は<憂鬱な環境>です。
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