終章(1)
法恩寺橋の下は大横川親水公園になっている。ともかくも稲荷百社詣が終ったことで、ほんのちょっぴり達成感に浸りながら、のんびりと遊歩道を散歩する。その途中、赤いセーターにジーンズの男が、急ぎの用事でもあるのか、こちらを追い越していった。何故か気になって後を追う。男は、かなりの早足で京葉道路を越え、先へ先へと歩いて行き、どこかの会館の中に入っていく。招き入れられたように、こちらも建物の中に入りこみ、どこをどう歩いたのか、何時の間にか椅子に座っていた。
すぐに部屋の照明が消され天井に星がまたたき始める。プラネタリウムに来ていたのだ。しばらくして星空が回転し始め、その中心に三毛猫が現れた。その白毛は光輝く銀白色となり、黒毛は深き闇の底の如き暗黒色となり、そして茶毛は黄金にも似た輝く黄色の斑となった。しばらくすると、その姿は次第に膨張していき、やがて輪郭がぼやけて、三匹の狐の姿に分離した。それから、狐達は歌うように語り始めた。
『我は猫に非ず、その本性は黄狐にして、火より生まれし土を基とし、
『我は猫に非ず、その本性は白狐にして、土より生まれし金を基とし、
『我は猫に非ず、その本性は黒狐にして、気より生まれし時を基とし、
水を剋して農耕を支配す。 我が時、既に終わるといえど、
木を剋して金銭を支配す。 我が時、直に終わるといえど、
気を剋して変化を支配す。 我が時、今に始まるといえど、
余韻を楽しむも可なり。 妙見に祈れ。・・・・・・・・』
なお長らえるも可なり。 妙見に祈れ。・・・・・・・・』
なお生き残るも可なり。 妙見に祈れ。・・・・・・・・』
狐の声は、混じりあい響き合って、次第に意味不明となり、遂には狐の姿も消え失せ、星が再びきらめき始めた。近頃のプラネタリウムは凝った演出をするなと思っているうちに、今度は椅子が振動し始めた。どうやら、客席全体を宇宙船の内部に見立て、宇宙旅行を始めるというストーリーらしい。やがて、案内の声が聞こえ始めた。
『皆様、本船は定刻に基地を出発致しました。本船は船首に光輝くいちょうの葉を掲げた宝船型宇宙船であり、その形はいささか古風ではありますが、準光速のスピードを持つ最新鋭の船であります。皆様、画面はいま出立致しました水の惑星、地球を映しております。その青い球体に狐の文様を見出すことが出来ましたでしょうか。それでは皆様、画面を本船の前方に切り替えてみましょう。ご覧下さい。狐の姿をした北斗七星が見えてまいりました。その回転の中心にあるのが、北極星すなわち妙見であり、本船の 目的地であります。それでは...白の時代は滅びの道へと....とはいえ青の時代も....如何なる種も限りあるが故....残された時間を...妙見の霊験により...』
賽銭を出さなかった稲荷もあったから、多分、妙見へは行き着かないだろう。今はただ眠い。目をつむると、案内の声がすうっと遠くなる。眠い。今は眠りたい。もう、ねむ.....