マチンガのノート

読書、映画の感想など  

「発達障碍の精神療法:あまのじゃくと関係発達臨床」小林隆児著

2016-12-12 01:27:14 | 日記
著者によると、発達障碍では、養育者や周囲に対して感じた、衝動や欲求の反対の事を
反射的に発達初期からしてしまう、
「へそ曲がり」「あまのじゃく」「無い物ねだり」などの行動が見られ、
その原因は母親などの養育者に相手の無意識的な態度から甘えられない、
などの事に由来しているとのこと。
その要因としては、母親自身が養育者に甘えられなかった、今の家族、
親族に気兼ねして休まらない、等があるとのこと。
そのような理由から子どもへの固い態度、一方的な関わり、などが生じ、
子どもも安心して母親に抱かれたり、近くに居ることが居心地が悪く、
愛着が形成されず、「甘えたいけど甘えられない」ことにつながり、
「へそ曲がり」「あまのじゃく」な態度につながるとのこと。
そのようなアンビバレントところにいる子どもには、治療者自身も
そのような自分の部分を感じながら、患者のそのような所を
少しずつ伝えることが、発達障碍の患者の発達のつまずきの、緩和に
繋がるとの事である。
著者は療育施設に勤務する医師だったことが在るということだが、
自身のそのようなアンビバレントで未分化な部分を自覚して
関わるというのは、面接室の中だけではなく、施設内や外で
障碍や遅れなどがあっても困らにように、他の職員と協力して対応する
行政が対応を工夫するように交渉する、などにもつながっていたのだろう。

そのような対応は、精神科医の織田尚生氏が「王権の心理学」などで
書いていたように、患者が自分では解決できない所を、治療者が
代りに担い、それを処理して患者に返すことで治療が進展する、
という所と、かなり共通するところが在るのだろう。

患者の自我障碍、思考障害なども、そのような発達初期に、反射的に
衝動や欲求を感じたことの逆をやったりする「あまのじゃく」「へそ曲がり」
な反応が、成因の一部となっているのではないかとの事である。





「紙の動物園」 ケン・リュウ著

2016-12-05 23:38:17 | 日記
SF短編集なのだが、表題作は、貧しい頃の中国から、
豊かだった頃の米国の田舎町に、米国人に妻として買われてきた母親と
その一人息子の話。
主人公が子供の頃は、大人の事情を解らずに母親に遊んでもらったり、
世話をしてもらっていたが、
年齢が上がるにつれ、母親が貧しい国から売られて来た事が解るようになり、
その事へのコンプレックスから距離を置くようになり、他の子どもの持っている
アメリカのプラスチックのおもちゃと、自分が母親に作ってもらった、
折り紙の動物達を見比べると、紙の動物達はチャチで貧相に見えるので、
それで遊ぶことも止めて、子供の頃に母親と会話していた
中国語も話さなくなり、両親から離れ、大学に行く。
癌になった母親が亡くなってから、母親が病床で書いた手紙を中国人観光客に
読んでもらい、それとともに小さな頃に作ってもらった、折り紙の動物を見つけ、
子供時代の母親と近かった頃の事を思い出す、というストーリー。
日本にもロシアや東欧、中国、フィリピンなどから来て、日本人と結婚して出来た
子どもたちがかなりの数居るのだろうが、母親の国の貧しさなどに
コンプレックスを感じて、距離を置くようになる事は多いのだろう。
その一部分として、大量生産の工業製品でしかない、表面的にピカピカした
プラスチックのおもちゃなども影響を与えているのだろう。
表面的にキラキラして安い刺激を子どもに与える大量生産のおもちゃなどがいかに
意味のない、さらには有害な影響を与えるかを考えさせる。