著者インタビューによると「今の日本社会のひずみを語るのであれば、歴史改変という形がいいだろうと思って」
本作を書いたとの事であるが、ロシアが日本を統治し、天皇制も大日本帝国憲法も維持されていても、
外交権も軍事権もロシア側が握っているにも関わらず、二帝同盟と呼んでいるというのは、
戦後の日本を連想させる設定になっている。
さらに物語の中で、欧州の戦場のロシア側に日本の陸軍がさら追加で送られるという事になっていて、
最近の集団的自衛権に関することを連想させる展開にもなっている。
主人公の刑事は、万年筆の外商をやっていた人物が殺害された事件を捜査するのだが、
その人物が色々な所の情報提供者だったことが解り、捜査を進めるうちに、
日本には伝えられていないが、欧州でロシアがかなり苦戦していてポーランドやバルト三国も
独立を伺っているという将校や、日本で抵抗運動が起きてもロシアはこちらへ陸軍を
派遣する余裕が無いので、とりあえず騒乱を起こし、日本国内を戦場にすれば
ロシアの属国であることから自立する方向になるのではとして、いろいろと計画している
勢力も出てくる。
主人公は日露戦争からの帰還兵という設定で、実際に大量の死者が出た戦地を体験しているので、
それらのことが正しいのかどうかよりも、自分の国が戦場になることを避けるために
捜査を続けていく。
これまで戦争物の小説や映画の設定といえば、外国で戦闘に巻き込まれるとか、加わるというものが
多かった印象があるが、本作で主人公が戦地から帰った人物で、その時のことを今もありありと
思い出すという設定は、やはり米国のイラクやアフガンでの事の報道や、シリアなどに関する
報道の影響が大きいのだろう。